『嵐の訪れ』 第四部 (告白の章)

仕舞い忘れていた風鈴がチリンと音を鳴らしていた。



「もうすっかり秋ね。風がこんなに冷たい…。

 風鈴しまおうかな?」



薫は剣心の胸の中で小さく言う。



「ああ…そうでござるな。」



   そう言うと剣心は庭先にある風鈴を見つめた。

硝子細工であるそれは透明で脆い物であるが、

涼しげな音色を奏でている。



「この風鈴。剣心と夏祭りに行った時買ったのよ。覚えてる?」



「薫殿が如何しても欲しいと言って、値切っていたでござるな。」



「だってぇ。欲しかったんだもん。剣心にそっくりでしょ。」



「似ている?」



「ええ…剣心と風鈴の透明な澄んだ色とが何となくね。

 脆くて今にも壊れそうだけど、皆に安らぎを与えてくれる。」



「では薫殿は優しいそよ風でござるな。拙者に風を与えて

 音色を奏でさせてれる…」



「けん…しん…それって…?」



「ああ…例え死が二人を別つとしても、共に居て下さらぬか…」



「ええ…もちろん…け…んし…ん…の側で…」



最後まで言い終わらない内に言葉は涙に消えていった。



「今までずっと悩み続けた。俺は幸せにはなってはいけないんだと、

 心に鍵をかけていた。薫殿と出会い。人斬りの俺を君は過去に拘らないと

 言ってくれた。嬉しかった。でも、俺は所詮、人斬りでしかない。

 薫殿の側に居る事も叶わぬと思っていた。それであの日、黙って旅立とうと…

 でもそれが出来なかった…酒を飲んでも忘れる事は出来なかった…」



「馬鹿…剣心は剣心でしょ。例え貴方が人斬りに戻っても。

 貴方が幸せになる事を喜んでいるのは…巴さんしょ…?」



「すまぬ…辛い思いをさせた…」



「いいのよ。これからは一杯、一杯幸せになろうね」



「そうだな。」



 すれ違いが多いほど、ひかれ合い。

 愛する余り、傷つけ合う。

 闇が深いほど、多くの光を求める。

 恋と言う名の深い淵へと落ちる。

 淵なれど、二人には楽園なのだから…

 二人なら大丈夫。

 沢山傷ついた分だけ幸せ分かち会う事が

 出来るのだから…



    ― 嵐の訪れ 完 ―



― あとがき ―

私にとって処女作になります。
薫×剣かもね?なんか私の書く剣心はナヨナヨですね。
私的になんか母性本能くすぐられるんですよ。
勿論、私より剣心の方が多少年上ですがね。うふっ。
ずーと前から書きたいと思っていた話です。
しかも、久々の長文。いや〜。長い道のりでした。
書き始めて二ヶ月以上経ちました。
これを書いているときは、夏の終わりなんですよ(泣)
剣心の妄想部分はあえて「ござる語」使わずに書いてみました。
その方が自然じゃないかな?と思いまして…って私だけでしょうか?
勿論、会話文は「ござる語」にしてみました。
あと剣心の「ござる語」どの程度にしたら良いか、かなり悩みの種でした。
あまり多用するとクドクなりそうですし(泣)
嗚呼…巴さんファンに殴られそうで怖い…
けして悪者にするつもりはなかったの。
でも、薫さんだって女の子ですもん。
頭では解っていても嫉妬ぐらいすると言う設定にしたかったんです。
この場をかりましてお詫び申し上げまする〜。
明治時代の話なので、色々調べながら書いたつもりですが、
不自然な点、多々あると思いますが見逃して下さいませ。
ここまで四部にわたり、長々お付き合い下さいまして有難うございました(礼)
平成十三年十一月某日 脱筆

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