「螺旋回廊」MY 続編  「悠久の螺旋」 〜その4〜 







次の日、僕はいつも通り大学の研究室で論文を書いている。

いや、今日はいつもと違うところがある。

論文の進行がやけにスムーズなのだ。

いつもなら行き詰まってしまうところでも、不思議と続きが頭の中に沸いてくる。

いままで霧で覆われていたのが、不思議と晴れていくような感じだ。

人間気分次第なのだなあ、とつくづく思う。

昨日、天野くんに考えていた計画を相談し、WEBMASTERに話し承認された。

あとは実行に移すのみだ。彼らはきっと上手くやってくれるだろう・・・そう願いたいものだ。





葉子の作ってくれたお弁当を食べ終わった昼過ぎ、突然ドアをノックする音が聞こえた。

誰だろう? 葉子かな? 

「どうぞ、開いているよ。」

相手はすぐに解かった。

「ちゃーっす、先生。」

天野くんだ。彼はいつものニヤケた顔(彼に言わせれば優しさを堪えた笑顔らしいで入ってきた。

鍵をかけて入ってきたところを見るとEDENが絡んでいるようだ。

といってもEDEN以外で彼と話すことなんて葉子と草薙先生の話題以外滅多に無いことなのだが・・・。

「先生やりましたねー。見ましたよメール。」

メール?

「WEBMASTERから着ましたよ。今度の“遊び”・・・紫苑とのね」

ああ、なるほどね。そのことで来たのか・・・マメというかなんというか・・・。

あれから私は寝てしまったが、WEBMASTERはさっそく各メンバーにメールを送ってくれたらしい。

WEBMASTERもさすがに行動が早いな・・・。

「今回の“遊び”は先生が依頼人ってこともありまして、ほとんどのメンバーが参加するみたいっすよ。」

「・・・・・!? もう参加メンバーが決まっているのかい? 君やWEBMASTERに話したのは昨日なのだが?」

僕は驚いた。まだ、あれから12時間かそこらしかたっていないのだから・・・。

「ああっ。WEBMASTERからきたのは“遊び”についての案内のメールだけだったんすけどね。そのあと、めめちゃんからもメールが着ましてね、そこにチャットの誘いがあったんすよ。そこでいろいろ話がでましてね・・・。」

チャット? まさか、僕とWEBMASTERとの会話を見ていたんじゃ・・・・・。考えすぎか・・・。

「・・・で、誰が参加するんだい?」

「先生からの依頼ですからねー、誰も断れませんよ。とりあえず昨日チャットに出てきた、俺、めめちゃん、パチさん、ポジさんは参加するって言ってましたし、ONIMAROさんや月下光さんも喜んで参加するんじゃーないですか。」

天野くんは自分のことのように楽しそうに答える。

「まあ、近場にいる奴はほぼ全員参加っすね。」

「それはありがたいな・・・」

大切なのは結果だが、その結果を成功させる確率を上げるための過程もいまは大切だ。

その点、本当にONIMAROくんが参加してくれると助かるのだが・・・。





「それとWEBMASTERから今回は先生が依頼者ですし、いつもの通りWEBMASTERや先生もあまり現場に顔を出さないでしょうから、俺が先生とメンバーの連絡役となって助けてやれって言われてるんですけどね・・・。」

「・・・それは頼もしいね。」

天野くんとはいつも顔を合わすのだから連絡役としては妥当な人事か・・・。

私が失敗しないかぎり裏切ることは無いだろう。

「で、クライアント様としてはどのような紫苑がご希望で?」

天野くんは皮肉をきかせ、ニヤケた顔で聞いてきた。

ユカリくんの今後と僕の考え・・・内面といってもいい部分・・・いったいどちらに比重をおいて聴いていることやら・・・。

「ああ、そのことなのだが・・・ちょっと待っててくれ。」

僕はソファーを立ち上がり机へと向かい、引出しの中からレポートを取り出した。

僕はそれをテーブルの上に置くと、またソファーに座った。

「なんすか、これ?」

「ああ、ユカリくんの調教計画というか・・・シナリオ・願望かな?」

僕は笑って答えたのだが、天野くんはそんな僕を見てなく、レポートを見ながらなにか考えている。

「・・・・・、用意周到っすねー。こんな物まで創ってたんですか?」

「いや、そんなにたいした物ではないよ。論文を書くのに比べたら楽しくてね。不思議と詰まることなくスラスラ書けるのだよ。論文もこんな具合に書けると良いのだけどね。」

僕は笑いながら思っていた通りのことをいった。実際にそう思っていたのだから。

「へー、なるほどね。そんなもんですか・・・」

「後で見てもらえればわかると思うけど、今回、天野くんたちには損な役どころ・・・ユカリくんにとっては悪役・・・いや、僕にとっては正義の味方なのだがね・・・まあ、そんな役を引き受けてもらおうと思っている。」

「まあ、いまさら正義の味方を気取ろうとは思ってはいませんよ。俺は俺に忠実に生きているだけですからね。他の奴らもそうでしょうよ。それでも先生にとっての正義の味方って言われると悪い気はしませんけどね。」

相変わらず天野くんは、ニヤケているのか笑っているのか判断しにくい表情で話し掛けている。





「それで本題だが、基本的にはそのシナリオ通りに進めてもらいた。ユカリくんには男としてではなく女としての喜び、入れるより入れられる喜び、奉仕されるよりする喜びを徹底的に教えて欲しい。不本意ではあるが、多少壊れてしまっても僕的にはかまわない。まあただ、WEBMASTERは残念がるだろうが・・・」

めずらしく僕が感情を込めて話したからだろうか、天野くんはなにか考え事をしている。

「ただそうは言っても、ユカリくんはまだまだ利用価値のある人間だ。先ほどと矛盾するようだが、壊れてしまっては困る。ユカリくんは精神のバランスに問題が・・・」

・・・・・。そういって僕は苦笑した。

それを言ったら僕を含むEDENのメンバー全員が精神に・・・・・。

僕は自嘲ぎみに笑いながら先を進めた。

「壊れそうになったら僕に言ってくれ、僕が“良い人”を演じて精神の崩壊を食い止めるから・・・」

天野くんは考え事をしているというのか無表情というか・・・そんな表情で僕を見ている。

「だからユカリくんを葵くんのようにしてもらっては困る。聞けば葵くんは一人で外を歩くことも出来ないそうじゃないか。ユカリくんには社会的生活も送ってもらわなければ困るのでね。その点・・・、草薙先生の調教は上手くいっているみたいじゃないか。」

僕は天野くんの表情を確かめるように話題をふった。

「え、ええ・・・、どうも。だいたいわかりました。香乃に近いように調教すればいいすね?」

「うん? ああ、当初はそんなところかな?」

天野くんの反応を確かめる為に言ったのだが・・・ふむ、それも悪くはないな。

「そうだな。最低の生き物として扱ってくれ。葉子や草薙先生、葵くんよりも下の生き物としてね。草薙先生みたいに小便でも喜んで飲むようになったら面白いかもね。そういうの得意なんだろう?」

言っていて楽しくなってくる。しかし、草薙先生も、ということは葵くんも・・・。

「そうっすね。それは面白いかも。」

天野くんに笑顔が戻る。

「ただでさえ、胸も、男を喜ばす穴も一個たりないんだ。そこらへんは任せるよ。」

「わかりました。」

「まあ、実際の調教過程において細かいことは指示させてもらうよ。とりあえず今の状況を受け入れるようにしといれくれ。ユカリくんは葵くん弟なんだ。“血はあらそえないなー”とか“淫乱の弟はやはり淫乱”とか言ってやれば堕ちやすいかもね。」

天野くんはとりあえず納得したように頷いた。





「ところで先生。先生は人間の葵と性奴隷でメス豚の葵、どっちが欲しいんです?」

・・・・・。今まで僕の主導で進んでいた話が逆転する。

突然の天野くんの問いに僕は何も答えられなかった。

「人間の葵って言っても無駄ですよ。そんなモノもういませんからね。この前まで紫苑と、葵と香乃、どっちが最低の生き物かって競争していましたからね。もちろん香乃が勝ちましたけど・・・。けど、葵もなかなかのもんですよ。いまでは、犬と葵、どっちがえらいかって聞けば“お犬様です”、豚と葵、どっちがえらいんだって聞けば“豚様です”って答えるようになりましたよ。まあ、“犬や豚は尻の穴で感じたりしないよなー”って教えてありますからね。この前なんか・・・」

「天野くん!」

僕はおもわず声をはり上げた。

これ以上聞くに堪えなかったからだ。

「・・・・・。やだなー先生。そう怒んないでくださいよ。俺は正直に、ありのままに話しているだけっすから。もう、葵が欲しいのは恋人とかじゃーないんですよ。欲しいのは快楽を与えてくれるご主人様だけ。そういう風に仕込みましたからね。先生も葵のご主人様になるんだったら、覚悟を決めないとね。」

そういって天野くんは笑っている。確かに今の葵くんは・・・、天野くんのいっている通りだろう。この前あった時がそうだったのだから今ではもっと・・・。

・・・・・。僕はその考えを途中で止めた。それ以上考えることが出来なかったからだ。

それでも葵くんは葵くんだ・・・。

でも・・・。

「もし僕が人間の葵くんが欲しいといったら・・・?」

天野くんが意外な表情をする。

「失望しますね。俺も考え直さなきゃーならない。この前言った通り俺は先生についていくって決めましたからね。先生には強くなってもらいたいんですよ。そうすればそうするほど俺も甘い汁がすえるってもんですよ。そんな甘い考えじゃーこっちの世界もEDENも生き残れませんよ。特にEDENはね・・・。だから先生には強くなってもらいたいんですよ。沈みかかった船には誰も乗りませんからね。」

・・・・・。

「それにしても先生、葵のことになるとえらい弱気ですねー。他の女なら笑いながら平気で恐ろしいこと言うのに・・・。」

・・・・・。僕は・・・僕は・・・。







続く