「螺旋回廊」MY 続編 「悠久の螺旋」 〜その1〜
本編 桧山 葉子エンディング「支配者交代」よりその後・・・
窓の外から蝉の声がきこえる。
「あれから、半年・・・はやいものだ・・・。」
去年のクリスマス、EDENのホームページを見てしまってから始まった出来事より半年、正確には7ヶ月がたとうとしている。今では僕の周りもすっかり変わってしまった。
今年から大学院への進学が決まっていた葵くんは、結局進学をやめてしまった。ご両親は行かせたかったらしく、葵くんもその気だったが紫苑が猛烈に反対したらしい。
結局紫苑に逆らえない葵くんは進学を断念した。紫苑は独占欲が強いからな。私にならべく合わせたくないのかもしれない。
だが仮に進学をしていたとしても、今の状況では通学してきて真面目に授業を受けるという行為は難しいかもしれない・・・それほど葵くんは変わってしまった。今では家で花嫁修行として家事手伝いをしているが、実際は紫苑の性欲処理の奴隷だ。
この前葵くんにあったのはいつだろうか・・・?
葉子は大学院へ進学した。もともとその気だったらしいし、僕も反対はしなかった。ほとんど毎日といっていいほどここに来ているし・・・。
今では学校近くのアパートを引き払い僕と一緒に暮らしている。
僕のかわいいペットだ。彼女もそれを望んでいるようだ。
草薙先生はいまでも大学で教鞭をとっている。しかし、以前のような付き合いはない。ほとんど話さなくなってしまったからだ。
草薙先生から話しかけてくることはないし、僕からもたまにしかない。以前のような関係が懐かしく思う。いまさら思ってもしかたないことだが・・・。
彼女は天野くんと一緒に暮らしている。そして、忠実な奴隷とご主人様という関係だ。
ガサツで男のようで、ヘビースモーカーの彼女・・・変われば変わるものだ。
彼女はEDENのホームページでのマスコット的存在でもある。それほど良くでている。
大学であまり話さなくなったからだろうか。彼女の近況は大学でよりもホームページ上の方が詳しく知ることができる。そしてそれを見た次の日「先生、昨日のホームページ見ました?」といって天野くんが嬉しそうに話かけてくる。
まあ、彼女はEDENのOFF会にはよく出席しているので大学よりもそっちでのほうが彼女との会話がおおいかな。
だが、一番かわってしまったのは僕だ。
三人が好むと好まざるとにかかわらず変わってしまったのに対し、僕は自分から変わってしまった。
たとえそれが、葉子の頼みだったとしいてもだ・・・。
「ウイーッス、先生。話ってなんですかー?」
天野くんが僕の研究室に入ってきた。まあ僕が呼んだのだが。
「ああーすまないね。とりあえず鍵をかけてから、そこに座ってくれ。飲み物はコーヒーでいいかな?」
彼は一瞬不思議そうな顔をしたが、言われたとおりドアに鍵をかけてから中にはいってきた。
「ああーいいっすよ。俺がいれるっす。」
「すまないね。」
そういうと僕はソファーに座った。
ほどなくしてコーヒーカップを両手にもった彼が向かいに座った。
「それで、話っていうのは?」
挨拶もそこそこ、彼はいきなり本題に入ろうとした。彼の性格らしいといえばそうだが・・・。
「ああーうん。天野くんに・・・、いやこの場合は“ちゅうた”くんに話があるっていったほうがいいかな?」
彼の表情が変わる。それはそうだろう。こんな場所でいきなりハンドルネームで呼ばれたのだから。
私は彼の表情の変わりように一瞬笑いそうになったが、彼の方は真剣に私の次の言葉を待っているらしい。
彼のお陰で緊張もとけたことだし、それほど話にくい事だったしな。私は話を進めた。
「実はEDENの依頼をしようと思ってね。そのことでちゅうたくんに相談したいと思って呼んだんだ。」
「依頼?」
天野くんが聞き返してくる。
「ああ。」
「・・・はじめてじゃーないっすか。先生が依頼するなんて。」
「ああ、そうだな。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「それで依頼内容ってのは?・・・」
私はいままで考えていたことを話だす。
「最近遊んでないだろう? それで遊ぼうと思ってね。」
「へ〜〜いいっすね。あいつらも喜びますよ。それで、相手っていうのは?」
僕はしばらくしてから口を開いた。そのとき唾を飲み込でいたのかもしれない・・・。
「・・・ユカリくんだ。」
・・・・・天野は黙ったままだ。
「・・・いやだなー先生。からかわないでくださいよ・・・。」
彼は上着からタバコをとりだすと火をつけた。だが、その動作はスムーズではないように見える。
「私は本気だが・・・。」
「ユカリは・・・紫苑は男ですよ!」
その話かたには少し怒気が含まれていた。私は真面目にいっているのだが・・・。
「いや、私はいたって真面目なのだが・・・。」
「しかし・・・しかし・・・」
彼のこんな顔みるのは初めてだな。なにをとまどっているのか? まあそのほうが話しやすい。
私もどう話をきりだそうかと悩んでいたぐらいだしな・・・。
私も余裕を持って話を続けることが出来る。
「ユカリくんは、姿・形・声まで女性そのものだ。葵くんとうりふたつなのだからな。パチくんあたりは好きそうだと思うけどね」
「あ、それはそうかもしれませんが・・・。紫苑も一応EDENのメンバーですし。ルールに違反するんじゃー・・・?」
「“メンバーで遊んではいけない“とは聞いていないけどな・・・」
「それはそうでしょうが・・・」
それはそうだろう。誰もこんなことは想定していなかったのだろう。
僕はエサをちらつかせる。彼が友情や義理・人情で動くとは思えない。
「協力してくれるのなら、君の公私ともにならべく援助していきたいと思うのだが・・・」
「!・・・。公私?・・・」
「ああ、君も将来大学に残るにしろ、就職するにしろ、なにも考えていないってことはないのだろう?・・・まあ、プライベートではあまり協力することはできないかもしれないがね・・・」
彼はなにか考えているようだ。僕は少し冷めたコーヒーを飲みながら彼が話し出すのを待った。
「このことは・・・webmasterは知っているんですか?・・・」
「いや、まず君の意見を聞こうと思ってね。webmasterには今夜にでもメールを出そうと思っている。」
「・・・webmasterがどう判断するかですね。すべてはそれからじゃーないですか?」
「ああーそうだな。だからその前に君の意見・・・つまりは味方が欲しいのでね。今日呼んだののもその為なのだが・・・」
彼は再び考え出したようだ。今回は落ち着いて2本目のタバコ吸い出した。
「わかりました。協力しましょう。ただし、webmasterがダメと言ったときはこの話はなかったことに・・・ということでいいんですね?」
「ああーそれでかまわない。ダメだった場合は君の胸にしまっておいてくれ。君を信用して一番最初に話したってことを忘れないでくれ・・・。そうだな、さしあたって君からもwebmasterにメールを出しておいてくれないか。“Profさんの計画は面白そうだって“な具合にね」
「そうですねー。それぐらいならいいっすよ。」
彼は、いまではすっかり冷静さを取り戻したようだ。
3本目のタバコに手をだす。
「それにしても、先生の目的は紫苑じゃーなくて葵じゃーないんですか?」
今度はニヤニヤ笑いながら話しかけてくる。僕はどうもこの笑い方が好きになれないのだが・・・。
「うん。それはそうなのだが・・・。人の物に手を出したんだ・・・。それなりに罪をつぐなってもらわねばね。それに今、人の物に手を出すのはそれこそルール違反だろう?」
当時は二人ともEDENのメンバーでなかった。だが今、メンバーの物に手を出すのはルール違反だ。
その所有者=ご主人様のお許しが必要なのだ・・・。
物・所有・ご主人様・・・半年前までは思いもつかない、嫌悪感さえ感じていた言葉なのだが・・・。
「そうですね。それはルール違反だ。なるほど、先生考えましたねー。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「先生、私からも話があるんですけどねー。」
「ん? なんだい?」
「そうやってうまくいったあと、・・・香乃・・・香乃も取り戻す気なんですか?」
ほう。そうきたか。
「いや、彼女は私の友人ではあったが、私の物ではなかった。それにこのことが上手くいったら、新しいルールを加えるつもりだよ。つまり“メンバーには手をださない”ってね。もちろん、メンバーの持ち物についてもだけどね。」
彼は黙っている。
「君はあの時約束を守って葉子を僕に譲っただろう? まあ、まさか草薙先生が変わりにいたってのは気付かなかったけどね・・・。僕も約束は守るさ。」
その時は・・・また別の手を考えるさ。
天野は安心したように頷いた。
「これで利害関係は一致したようですね。喜んでお手伝いさせてもらいますよ。」
さっきのニヤニヤした笑い顔から一転、本当に嬉しそうな顔になっている。
天野くんいつもこの笑顔をしていればいいものを・・・
彼はソファーから立ち上がってドアへとむかっていく。
「それじゃーメールだしときますよ。上手くいくといいですね。」
そういうと鍵をあけて廊下へと出て行った。
僕は彼が出て行ったのを見届けると机に座りワープロの電源をいれた。
「まったく、上手くいって欲しいものだ・・・。」
続く。