TeaParty ~紅茶のお茶会~

『峠のお茶会』

恋々たるこの想い1

だけど。
涼介さんはオレの想いを知らない。


 自覚したのが、少し遅かったのかもしれない。
 ほんのちょっとでも前に気付いていれば、こんな状況にならなくて済んだのだと思う。
 こんな想いをするくらいなら、気付かなければ良かったのに。
 だけど、きっと気付かなかったら、オレは別な意味で後悔する事になる。
 どっちにしても、もう、何もかも遅いよ‥。

 高校を出て、就職して。
 思っていた以上にハードな仕事で毎日くたくたになって、一日置きになっても相変わらず朝の配達はやっている。
 たまに入るプロジェクトDの遠征や準備で忙しくて。
 しばらくあわただしい毎日が続いていたから、オレはゆっくりとした時間を過ごしていなかった。
 だから、気付かなかった。
 ただ単にオレが鈍かっただけかもしれないけれど、結局オレは気付く事が出来なかったんだ。
 今更何を言っても遅いけど、後悔しても遅いけど。
 もう少し、ほんのもう少し前にと思わずにはいられない。
 なんで、どうして気付く事が出来なかったんだ。
 涼介さんのオレに向けられた想いに。
 そして、オレの涼介さんへの想いに‥。

 憶えているのは引き裂かれるような痛み。
 痛くて、本当に痛くて、オレは涙を止める事が出来なかった。
 痛くて、そして苦しくて。
 だけど身体が受けた痛みよりも、その時感じた胸に重くのしかかる痛みの方がオレにとっては何倍も苦しかった。
 そして、それは今でもずっと続いている。

 あの日、あの時、オレは涼介さんの想いを初めて知った。
 そして、オレは自分の想いも初めて知った。
 オレの想いが真っ直ぐ涼介さんに向かっていると、はっきりと自覚した。
 嫌ではなかったから。
 何をされても決して嫌だとは思わなかったから。
 けれどそれに気付いたのは後になってから。
 それまで、オレは涼介さんの想いを受け入れる事が出来なかった。
 そして、気付いた時にはもう、何もかもが終わっていた。

 目が覚めたとき、そこに涼介さんの姿はなかった。
 何も言わず、何も聞かず、オレ達はあの日から逢っていない。
 たった一枚の紙を残して。
『もう逢わない』
 たった一言、その言葉だけを残して、涼介さんはオレの前から居なくなってしまった。
 オレ達は、もう逢えなくなってしまったのだろうか。

 失ってからその存在の大きさを知った。
 逢えないという事がこんなにも辛い事だとは知らなかった。
 涼介さんは今、何を考えているのだろうか。
 あの時の事、オレの事。
 涼介さん、今どう想っていますか?
 オレは涼介さんの事を想っているのに。
 伝える事の出来なかったこの想いは、今もオレの心の中でだけ大きくなっている。
 この想い、どうすれば伝えられるだろう。

 待っているだけでは何も始まらない。
 涼介さんはこの想いを知らないのだから。
 今度はオレが行動しなければ。
 遅いとあきらめるのは、まだ早い。
 オレはまだ、涼介さんに何も言われていない。
 そして、オレはまだ、涼介さんに何も言っていないんだから。


まだ。
涼介さんはオレの想いを知らない。


だから。
涼介さんにオレの想いを伝えなければ。