TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「ずっと君の傍に」444Hit りくさまへ♪

今夜は何を作るかな。
営業の仕事帰り。駅まで続く商店街を歩きながら考える。
行き交う人々、にぎやかな会話。
思わず買い物をしたくなる衝動を抑え駅まで急ぐ。職場に野菜や魚を持って帰るわけにはいかない。
今夜は何を作ろう。
もう一度考えながら、会社への道のりを急いだ。

「ただいま」
鍵を開けて入った部屋の中から返事は返って来ない。靴がないからまだ帰って来ていないようだ。
「遅くなるのかな」
携帯に連絡が入っていないから可能性は少ないと思うけれど。
今晩のおかずに、と買ってきた材料を思わず見てしまう。
遅くなるか、何か食べてくるようならメニューを変更しないといけないな。
「ただいま~」
キッチンに買い物袋を置き、ちょっと一息ついたとき、玄関から声が聞こえてちょっと安心する。
「おかえり」
出迎えると笑顔が返って来る。
「今日は高杉さんの方が早かったんですね」
「僕も今帰って来たばかりだよ」
ぴっちりと締めていたネクタイを軽く緩める。
「確かに、まだ着替えてないっスね」
そんな言葉とともに向けられる笑顔が、今日一日の疲れを癒してくれる。
「さて、着替えて夕飯の支度をしないとね」
「俺、手伝いますよ、待ってて下さい」
この笑顔は、絶対に手放せない。

「なんだか具だくさんですね」
営業からの帰り道、そして家への帰り道。悩みに悩んで決めた夕飯は、鍋。
「二人で鍋っていうのも、ちょっと考えたんだけどね」
「ははは。でも、そんな事言ってたら、鍋食べる機会なくなっちゃいますよね」
どうしても大勢でつっつくイメージのある鍋をした事は今まであまりなかった。それでも今日は、ゆっくり二人で鍋もいいかなぁと思ったんだ。
「季節を逃してもあまりやれないしね」
のんびりと二人でお鍋。そんな夕飯も悪くないと思う。
「この前みんなで集まった時より、なんだか豪華ですね」
野菜を切りながらうれしそうな顔で言う姿を見ていると、なんだか不思議と幸せな気分になる。
だからしばらくその姿を見つめていた。
「どうしたんですか?」
気が付いて、ちょっと不思議そうに首を傾げるのがまた可愛い。
「奥様の手料理を待つ旦那さん気分♪」
エプロン姿で一生懸命にキッチンの中を動き回ってるっていうのは、見ているだけで幸せになれる。
「…奥さんじゃないっスけどね…」
ちょっと苦笑いなその表情もまた可愛いのだけれど。
「でも可愛いよ」
ほんのちょっとの事で幸せになれる。僕の言葉によって変わる表情を見ているだけで、本当に幸せ。
「包丁持ってるときはやめましょうよ~~」
涙目な訴え声もこれまた可愛い。
言葉には出さず、笑顔で答える。
その次に見せてくれる表情も、きっとかわいいに決まってる。

「高杉さんの味付けって本当においしいですよね」
美味しそうに、そしてうれしそうに食べてくれるから、すごくうれしい。
「そうかな。僕は緒方君の味付けも好きだよ。ほら、特に得意料理の…。あれ、すごく美味しいよ」
「俺の唯一って位の得意料理ですからね…」
他愛のない会話。それでも一緒に食事をするって事が、楽しくて幸せ。
「俺ももうちょっと要領良く出来ればいいんですけどね…」
「僕は好きでやってる事だから気にしなくていいよ」
好きな人の為に何かをするって事が、こんなに幸せで楽しいと気付かせてくれたのは君。
どうしたら喜んでもらえるだろうとか、どうしたらその笑顔が見れるだろうとか、いろいろ考える。それがまた楽しくて、どうしたら…がまた増えていく。
「羨ましいっすよ。難なくこなしてくれちゃうんですから」
ちょっと真剣な表情。
まったく、そうやってすぐに思いつめそうになるんだから。
「いいなだよ、本当に。緒方君には緒方君じゃないと出来ない事がたくさんあるんだから。それで充分だよ」
一緒に、傍にいられる事。君が叶えてくれた最高の幸せ。
「俺じゃなきゃ、出来ない事…」
ちょっとつぶやくようなその言葉の後、考えるように俯いた横顔にそっと手を伸ばす。
「・・・」
そのまま耳元でささやいた言葉に返って来る反応がちょっと楽しみだ。
「た・高杉さん!!」
真っ赤な顔で、可愛い表情で、思った以上の反応が返ってきてうれしくなる。
いつまでたっても計り知れない、大切な人。
「緒方君じゃないと出来ない事だろ?」
「それは、そうですけど…」
くるくると変わる表情は、本当に可愛くて幸せにさせてくれる。
そして比例されなかった事で、ちょっと安心もする。
「安心したように笑うのは卑怯です。俺の事信じてないんですか?」
表情を読まれてちょっと驚く。やっぱり勝てないのだ、この人には。
「信じてないわけじゃないよ、疑うわけないだろう?でも、たまに不安になるよ。君はとっても素敵な人だから…」
この幸せがずっと続いて欲しい。ずっと一緒にいたい。たったそれだけの、願い。
「それは俺のセリフです。でも、俺は何があってもあなたの傍を離れませんよ。何があってもね」
強いその表情。はっきりと告げられるその言葉。
「離さないよ、何があっても…」
抱きしめて、ぎゅっと抱きしめて、それでも足りなくて更に抱きしめる。
「離れられるわけ、ないじゃないですか…」
ささやかれた言葉に、歯止めがきかなくなる。
決して、決して手放せない。
「離せるわけ、ないだろう」
触れる唇、伝わるぬくもり。幸せなその瞬間。

「やっぱ一緒にすませちゃうと簡単で早くていいですね」
後片付けも済まし、お風呂にも入ってしまってゆっくりとした時間を二人で過ごす。
「今日も一日ご苦労様でした。また明日も頑張りましょう」
手渡されるビールとその笑顔が、日課であり、幸せな時間。
「緒方君も。お疲れ様」
些細な日常の出来事も、一緒なら何でも幸せな出来事。
「俺たち、最前線で働く営業マンですからね!!日々頑張らないと!」
力説する熱血な姿が可愛くて思わず笑ってしまう。
「と、いうわけで。今日は寝ましょう!俺、先に部屋に戻りますね」
急な言葉にびっくりしてその姿を目で追う。
「お、緒方君?」
ちらっと見えたその顔は、真っ赤で…。
「本当に可愛い事してくれるんだから…」
思わず顔がほころんでしまう。
飲み終わったビールの缶を捨てて、部屋の電気を消す。
あとは。
部屋のドアをノックするだけ…。



ずっと君の傍に
2000.6.25