TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「優しい声6」15555Hit ぶりぶりさまへ♪

 真っ白な世界に色が戻る。
 鮮やかで優しくて温かくて。
 そして何よりも心地いいその色が。
 真っ白な世界一面に広がっていく。

 何度も繰り返し呼ばれたその名前の中に、まるで心臓を直に掴まれて揺さぶられたかのような衝撃を感じさせるものがあった。
 そして、優しいけれど強い腕の中に引き込まれた瞬間、その衝撃が急に治まって、今度はどこまでも穏やかな気持ちになる。
「高杉さん…」
 ふと口を付いて出た言葉に、緒方はまた自分の中に走った衝撃を感じた。
「高杉さん!」
 そして抱きしめられた腕の中から顔を上げ、痛いくらいの眼差しを向けている高杉を見やった。
「高杉さんだ…」
 そう言って、安心したようにしがみついて顔をうずめてきた緒方に、高杉は少し困惑した。
 憶えていないはずなのに、二人の関係を、憶えていないはずなのに…。
「緒方君、もしかして…」
 そして高杉はハッとした。
「思い出したのかい?」
 腕の力を緩め、その顔を恐る恐る覗きながら、そうであって欲しいと願いながら尋ねた。
 うずめたままの顔が上がるまでの時間が、やけに長く感じられた。
「高杉さんの声が、俺に何もかも思い出させてくれました」
 高杉に名前を呼ばれた瞬間、まるで巻き戻しながら見ているかのような映像が流れてきた。
 そしてその声は、倒れて意識を失う直前に聞いた声だったのだと思い出した。
 その時、返すことのきなかった返事が、ずっと思い出せずにいた言葉だった。
 簡単なのに、言えなかった言葉。
 呼びたかった、あなたの名前。
「高杉さん…」
 今やっと、呼び返すことができた。
「よかった…」
 緒方の記憶が戻ったのだとわかり、高杉はもう一度、緒方を腕の中に抱きしめた。
 心から、本当に心から出たその一言が、高杉の気持ちの全てだった。
「俺が高杉さんのこと忘れるなんて…」
 そんな安心した声を聞けば聞くほど、緒方は申し訳ない気持ちになった。
 何よりも、誰よりも、一番、忘れてはいけないことだったのに…。
「思い出してくれたのなら、それでいいよ」
 忘れられてしまったのだと悲しくなったけれど、どうしてだろうと悔やんだけれど、思い出してくれたのならそれでいい。
 今、この腕の中に戻ってきてくれたのだから、それでいい。
「でも…」
 高杉にそう言われても、それでもやっぱり忘れてしまったことが緒方には許せない。
「そうだなぁ…わざとだったら、許せないけどね」
 沈んでいきそうな緒方の顔を覗き込んで、少しおどけたように高杉は言った。
「そんな訳あ…んっ!」
 あるわけない、と続くはずだった言葉は、ちゅっと音を立てて触れてきた高杉の唇によって阻止されてしまった。
「~~~~っ!!」
 それは本当に触れるだけですぐに離れてしまったけれど、あまりにも突然で声に出して講義することができなかった。
「た、高杉さんっ」
 そしてやっと出てきた言葉は、やっぱりあなたの名前だけ。
「なんだい、耕作」
 そんな焦った様子を、かわいいなぁ、と思いながら、高杉はからかいの混ざった笑顔を優しい、本当に優しい微笑みへと変えた。
 そんな笑顔を向けられては、もう何も言えなくなってしまう。
「洋一郎さんの傍に、戻ってこられてよかった」
 これから先も、ずっと傍にいたいと思う。
「耕作が戻ってきてくれて本当に嬉しいよ」
 これから先も、ずっと傍にいてほしいと思う。
 だから。
 約束の代わりに、そっとキスをした。

 あなたの口から紡ぎ出される自分の名前が、あまりにも優し過ぎて涙が出そうな夜だった。



優しい声
2008.10.9
完結までにだいぶ時間が掛かりましたが、やっと完結です。
リクをくださったぶりぶりさま、ここまで読んでくださった皆様、
本当に本当にありがとうございます。
そしてだいぶ時間をかけてしまい申し訳ございませんでした。