TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「最高な休日の過ごし方」1313Hit ブッチさまへ♪

 ある晴れた土曜日。
「今日は買い物に行こう」
 高杉の一言で、その日の過ごし方が決まった。

「車で行くんですか?」
 玄関で靴を履いていた緒方は高杉の手に握られた車のキーを見てそう尋ねた。
「ああ、帰りに荷物が多くなると困るからね」
「荷物って…。そんなに買うんですか?」
 にっこり笑顔で答えた高杉の言葉に、緒方は再度尋ねた。
「うーん、そうだね。まぁ、でも、分からないけど、せっかくだからね」
 再びにっこり笑顔で、それもウインク付きで言われてしまうと緒方はそれ以上何も言えなくなってしまう。
「そうですね」
 結局緒方はそんなふうに答え、そして2人で玄関を出た。
「ところで…。何を買いに行くんですか?」
 エレベーターに乗り1階のボタンを押しながら、緒方はふと思い出したように言った。
 買い物に行こう、と言われただけで、何を買いに行くかは聞いていなかった。
「模様替えでもしようと思ってね。どうかな?」
 高杉はふと自分で思っただけで緒方に話していなかった事を思い出し、答えながら尋ねた。
「模様替えですか?また急にどうしちゃったんっスか?」
 あまりにも唐突なその答えに、緒方は思わず声をあげてしまった。
「ちょうど季節の変わり目だからね」
 高杉はそう言って緒方の反応を待った。
 物に対しての執着がそれほどない緒方に比べ、いろいろと凝った事が好きな高杉はたまに思い立って模様替えをしたくなったりする。
「確かに、これからの季節、もう少し落ち着いた色にするのもいいですね」
 緒方は笑顔でそう答えた。
 高杉が急にそんな行動を起こす事は初めてではなかったから、どんな反応を返したらよいのか緒方も分かっていた。
「だよね」
 高杉は緒方の笑顔に、また笑顔で答えてそう言った。その笑顔の中に、安心したような雰囲気があった。
「じゃ、やっぱり荷物多くなりますね、きっと」
 緒方は納得したように言いながら、1階に着いたエレベーターを降りた。

「やっぱり休みの日は混んでますね…」
 人の多さに緒方はちょっと苦笑いでそう言った。
「遊びに行くだけが、休日ではないからね」
 ちょっとだけため息混じりに高杉もそう答えた。
「ま、俺たちもその中の一人なんだから、仕方ないですよね」
 苦笑いを笑顔に変えて緒方は高杉に笑いかけた。
「そうだね」
 その笑顔にやっぱり笑顔で答えた高杉は握るようにそっと手を引っ張って店の中に入った。
「高杉さん!」
 素早い行動に一瞬反応出来ずにそのまま引っ張られていた緒方は、はっと気付いて思わずその名を呼んだ。しかし時すでに遅し。
「なんだい?」
 にっこりと笑顔を向けてくる高杉に、緒方は絶対勝てないのだ。その幸せそうな笑顔は、緒方の決断をことごとく砕いてきた最強兵器なのだ。
「う゛~~~~~~」
 思わずうなってしまった緒方の事を見た高杉は、小さく笑った。
「洋一郎さん~~!!」
 笑われた事に気付いた緒方が抗議の声をあげる。めったに呼ばないその名前で呼んだのは今の緒方に出来た最大の仕返しだった。
「なんだい、耕ちゃん?」
 笑い声に混ざってそう言われた緒方は、今回完璧に負けたようだ。

「どっちの色がいいかな??」
 寝具コーナーで高杉は色違いのシーツを眺め、悩んでいた。
「緒方君はどっちの色が好き?」
 決めかねて高杉は緒方に尋ねた。
「う~ん。どっちも捨てがたい色ですね…」
 高杉が悩んでいたその色は、どちらも淡い感じのグリーンとブルーだった。
「そうなんだよね…。いっそのこと両方買ってもいいんだけど…」
 やけに真剣に高杉は悩んでいた。そんな高杉の様子を見て、緒方も真剣に考えた。
「そうだ、両方買って、俺と高杉さんで兼用っていうのはどうですか?」
 いい事思いついた!という感じに緒方は1つの提案をしてみた。
「う~ん…色違いかぁ…」
 緒方の提案に高杉はまた悩み始めた。
「何をそんなに悩んでるんっスか?」
 いつもに比べてやけに悩んでいる高杉の様子に、緒方はちょっと心配になって声をかけた。
「緒方君とお揃いにしようと思ってね…」
 まだ真剣な顔で2色のシーツを眺めたまま、高杉はそう答えた。
 緒方は高杉の言葉に首をかしげた。おそろい、という事にこだわる理由も、何でそんなに悩んでいるのかも分からなかった。
「色違いでもおそろいになるんじゃないですか?」
 なんとなく考えながら緒方はそう言った。
「全く同じなら、別々に寝てても一緒に寝ている気分になれるかなぁって思ってね」
 高杉は真剣な顔のままそう答えた。
 緒方はその言葉の内容を考えると、すごく恥ずかしいことに気づき、顔を赤くした。
「一緒って…高杉さん~」
 そして情けない声でそんな風に言ってしまった。
「お互い、自分の時間は大切だけど、それでも一緒にいたい気持ちはやっぱりあるからね」
 高杉は優しく緒方に微笑みかけた。
 高杉の言葉は、緒方も全く同じに思っていることだった。ただ、こう、まっすぐに、優しく言われてしまうと緒方は照れてしまう。
「それは、俺も同じ気持ちです…」
 それでもその気持ちを高杉に伝えたくて、緒方は小さくそっとつぶやいた。
「良かった」
 高杉はちょっとほっとしたようにそう言って笑った。別に信じていないわけではなく、緒方の口から伝えられたことが高杉にとってはうれしかった。 
「というわけで、どっちがいいかな」
 高杉は幸せそうににっこり笑って緒方に尋ねた。何となく照れくさい雰囲気がその言葉で違うものに変わる。
 高杉のそんな小さな優しさが、緒方にはうれしかった。
「そうですね、俺はこっちがいいかな」
 緒方は答えとともに笑顔を高杉に返した。
 そして買い物かごの中には、おそろいのシーツが2枚入った。

「あとは夕飯の買い物だけだね」
 結局、なんやかんやとたくさん買い込んで大きな買い物袋を持った高杉が、どうしようかと尋ねるように言った。
「とりあえず、食料は近所のスーパーにしませんか?この荷物持ったままじゃ大変っスよ…」
 高杉よりは少し小さい、それでも大きな袋を持った緒方はちょっと苦笑い気味にそう答えた。
「そうだね。じゃ、行こうか」
 2人は並んで駐車場へと歩いた。
「それにしても、いっぱい買いましたよね」
 自分と、そして高杉の荷物を見て、緒方は半分感心したようにそうつぶやいた。
「まあ、模様替えするつもりでの買い物だったからね。でも、僕もこんなになるとは思っていなかったよ」
 高杉は笑いながら答えた。
 その日の買い物は、寝具、食器、洋服、雑貨…と多種多様なもので、殆ど1日を買い物に使ってしまった。
「雰囲気、ずいぶんと変わりそうですよね」
 緒方は袋の中身をなんとなく覗きながらそう言った。
「目的は達成されましたね」
 そして、そんな風にも言いながら、高杉に笑顔を向けた。
「なんだか引っ張りまわしちゃったかな?せっかくの休日だったのに…」
 少し考えるように、そして少し心配そうに高杉は尋ねた。
「何言ってるんですか!2人で買い物に来たんですから、そんな事ないですよ。それに…」
 高杉の言葉に対し、緒方はすぐに返事をした。そして少し覗き込むような表情で高杉を見つめた。
「それに?」
 高杉は一旦言葉を切った緒方のその続きを促すように、優しい笑顔を向けた。
 2人の視線がなんとなく絡み合う。
「俺にとって、高杉さんの傍にいる事が、最高の休日ですから…」
 高杉に向かって、真っ直ぐに注がれる緒方の視線。
「耕作…」
 呼ばれた、名字ではない自分の名前に、緒方は微笑みと、そしてひとつの言葉で答えた。
「洋一郎さん」
 高杉は、やっぱり微笑みでそれに答え、なんとなく辺りを見回した。
 折りしもここは駐車場。時間的なものなのか、それとも高杉の持つ強運のせいなのか、人気はまったくなかった。
「ちゅっ」
 高杉はまるでついばむように、緒方にキスをした。
「僕も、最高の休日だよ」
 高杉の行動と、そして笑顔と言葉に、緒方の顔はぼっと赤くなった。
「うーん。荷物持ってるっていうのが、ちょっと残念だったな」
 そう言って高杉はもう一度緒方の唇に触れた。
「洋一郎さ~ん」
 なんと言っていいのかわからなくて、緒方はその名を呼んでしまう。
「なんだい?」
 緒方のそんな状態を分かっていながらそんな返事をし、高杉は車のドアを開け、後部座席に荷物を降ろした。
「さて、食料の買出しに行こうか」
 話題を変えるようにそう言いながら高杉は緒方の荷物を受け取って座席に置くと、運転席へと移動した。
「そうっスね」
 緒方は答えながら、助手席に座った。そして急に普通の会話に戻った事をちょっと不思議に思っていた。
「緒方君」
 シートベルトを締めたその時、名前を呼ばれて緒方は顔を上げた。
「はい」
 その時の緒方の返事と高杉の行動は、本当に同時だった。
 高杉は緒方の頭を抱えるように抱きしめ、そのままキスで唇をふさいだ。
「っん…」
 急な事で驚いた緒方の口から、そんな声が漏れた。
「もっと最高な休日」
 満面の笑みで高杉はそう言った。
 緒方はただただ顔を赤くしている事しか出来なかった。
「でも…まだちょっと足りないかな?」
 少し考えるような一言に、緒方は更に顔を赤くした。
「続きは帰ってからね♪」
 言葉とともにシートベルトを締め、高杉は車のエンジンをかけた。

「模様替え、今日中にやっちゃいますか?」
 食事の後。食器洗いの途中、緒方は思い出したようにリビングの高杉に声をかけた。
「そうだね…。今日はもう遅いから、明日ゆっくりやろうか」
 高杉はその買い物袋の量を見て、考えるように答えた。
「じゃあ、明日は模様替えの日ですね」
 緒方は明るくそう答え、洗い物を再開させた。
 その言葉を聞いて高杉はなんとなく微笑むと、思い出したように袋を開け始めた。
「とりあえず、それぞれの物だけには分けておいた方がいいかな」
 そして、高杉の物、緒方の物、そして共用の物…と、てきぱきと3つの山を作った。
「片付け終わりました~って、明日にするんじゃなかったんですか?」
 揺れた手をエプロンで拭きながらリビングに戻ってきた緒方は、その3つの山を見て驚きの声をあげた。
「ああ、とりあえず分けただけだよ。出したいものがあったからね」
 にっこりと笑って答えた高杉は、結構大きなものを抱えていた。
「?」
 まだ包装されているから、中身が分からない。それがなんだかわからなくて緒方は首をかしげながら高杉の隣に座った。
「あれ、でもいつの間に買ったんですか?」
 おまけにその包みに覚えがなくて緒方はさらに首をかしげた。
「んー、いつだろうね」
 なんとなくごまかしたようにそう答えながら高杉はその包装を解いた。
 緒方は何が出てくるのかと思わずジッと見つめてしまった。その表情がかわいくて、高杉は小さく笑った。
「じゃーん」
 高杉はその言葉とともに真っ白なものを取り出した。
「ま、枕??」
 緒方は思わず素っ頓狂な声をあげた。その心中は、何故、枕??という思いでいっぱいだった。
「見覚えないかな?」
 真っ白でシンプルなデザインの枕。高杉はその枕をまるで抱きしめるように抱えて緒方に尋ねた。
「見覚え…ですか?…うーんと……あ」
 緒方は答えながら考え、そして急に言葉を切った。
「耕作とおそろい」
 気が付いた事を悟った高杉は嬉しそうに答えた。
「わざわざ…買ってきたんですか?」
 照れつつも、緒方は思わずそう言ってしまった。
「ははは。見つけて、思わずね」
 高杉はちょっと笑いながら答え、緒方の方に身体の向きを変えた。
「という訳で、今日これ持って耕作の部屋に行ってもいいかな?」
「…!」
 にっこりとした笑顔とウインクを前にして、緒方は一瞬言葉を失ってしまう。
「さっきの続き…」
 高杉はそんな緒方の事を抱えた枕ごと抱きしめると、耳元でそっとささやいた。
「…////」
 急な行動と、その言葉と…。緒方は思わず目をつぶってしまった。
「だめ?」
 そしてまた耳元でささやかれる言葉。そっと触れる唇。
「ん…」
 言葉に出す代わりに、緒方はゆっくりとその口付けに答えた。

 ある晴れた日曜日。
「おはよう」
 おそろいの並んだ枕と、恋人の笑顔で1日が始まる。



最高な休日の過ごし方
2000.9.2