TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「日曜日は犬を連れて」1700Hit しいなさまへ♪

 それは1本の電話から始まったのだ。

「あ、明日~~??」
『そう。じゃ、お願いね』
 そんな言葉とともに切れた電話は、有無を言わさないもので…。

「ところで、日曜日暇か?」
『残念でした。暇じゃありません』
「この俺様の頼みを断る気か?」
『無理なものは無理なんだよ。俺も高杉さんも休日出勤なんだから。お前こそ暇なんじゃないのか?』
「暇なわけあるか!」
『猛君とデートの約束してるんだろ?いいじゃないか、一緒に公園でも行ってきたらどうだ?』
「簡単に言うなよ…」
『お前が頼まれたんだろ、責任持たないとな』
「仕方ねーな…」
『じゃ、頑張って世話見るんだぞ。あ、ちなみに式部んとこ電話しても出掛けてていないからな。じゃあな』
 こちらの電話も、無常な言葉を残して切れてしまい…。

「はぁ…」
 電話に向かって本日2回目のためいき。
「あては、外れたって事か…」
 思わずつぶやいて視線を上げればその先にはカレンダー。
 前々からの約束を表すように、日曜日には赤丸と一緒に愛しい恋人の文字。
「どうするかな…」
 カレンダーと電話を交互に見つめ、耕平のため息は本日3回目。

『そうだ。明日の待ち合わせ何時にする?』
 夜。恋人同士の電話は自然に待ちに待ったデートの話題。
「ああ、そのことなんだけどな…」
 こんな時、ちょっと気になるのがお伺いを立てるタイミング。
『ダメになったのか??』
 淋しそうな、残念そうな、そしてちょっと緊張したような、いろんな感情。
「いや、ダメになったわけじゃないいんだが…。ちょっと頼まれた事があってな…」
『頼まれた事?俺がいちゃいけないことなのか?』
 すばやい反応。
「お前が嫌じゃなきゃ、いいんだけどな。実は犬を預かってくれって頼まれてるんだ」
『…犬~!?』
 思わず受話器を放しそうになる位大きな、そしてうれしそうな叫び声。
 心配する必要はなかったみたい。

 そんな訳で日曜日。
 犬を連れた耕平は公園のベンチで待ちぼうけ。
 何時の間にか飼い始めた両親に頼まれた、今日一日だけの犬の世話。
”けど…。まさかこんなに大きいとは…”
『ゴールデンレトリバーよ』
 母親の説明は至極簡単なもの。
”まぁ、おとなしくて、かわいい事も確かだな…”
「少し時間が早かったな…」
 耕平の隣には茶色い毛並みを風になびかせたゴールデンレトリバー。
「わう」
 撫ぜられて、うれしそうに、遊んで欲しそうに揺れるしっぽ。
”なんだか、似てるよなぁ”
 自然とほころんでしまう、耕平の表情。
「猛が来るまで少し遊ぶか?」
 陸上部のコーチだから、身体を動かすのは嫌いじゃない。

 ボールを投げたり、ただただ走ったり。
 動物と遊ぶのも悪くないものだ。
「どうした?」
 急に走るのをやめ、ジッと見つめる犬の、その視線の先。
「やっと着いたな、遅刻の王子様が」
 一生懸命に、耕平たちの側へ走ってくる少年。
「ごめん!」
 ちょっと息を切らせて、開口一番のそのセリフ。
 待ち合わせ時間と現在時刻、その差はちょうど30分。
「こいつと遊んでたから時間なんて気にならなかったよ」
 耕平が猛の頭をくしゃっと撫ぜて微笑みかければ、返ってくるのはうれしそうな笑顔。
「よかった…。って、わっ」
 瞬間、隣でしっぽを振って二人の様子をうかがっていた犬は、猛の身体に体当たり。
「わあ!おっきい、ゴールデンだ~」
 急なことに驚いただけだった猛は、その大きな身体を受け止めて、いいコいいコ。
「耕平、名前は?」
 呼ぼうと思って、まだ知らない事に気付いたこの子の名前。
「シェルだってさ」
「いい名前だな~。シェル!!」
 うれしそうに、楽しそうに、撫ぜて撫ぜて、ぎゅっと抱きついてみたり。
 答えるように擦り寄ってきて、はちきれんばかりに振られるしっぽ。
「すっかり意気投合だな」
 まるで犬が2匹でじゃれあってるようなその光景に、自然とこぼれる優しい笑み。
「こーへー!」
「わんっ」
 じゃれあって、そのまま走って行って、遠くから呼ぶ声は1人と1匹。
「転ぶなよー」
 思わず、なんだか子供の世話を見ている気分。

「気持ちー」
 はしゃぎまわってちょっとそろそろ疲れてきて、草の上にごろり。
「お、いい枕だな」
 寝そべった犬を枕に、並んだ耕平と猛。
「こういうデートもいいな」
 なんて耕平が言えば、
「すっげー楽しい!!」
 満面の笑みで答える猛。
「わうん」
 ボクも忘れないでって、頭上でシェルの一声。
 のんびり昼寝も悪くない。

「猛」
 呼ばれて目を開ければすぐ目の前に耕平の顔。
「わっ」
 びっくりして目を閉じると、ふんわりと額に感じる温度。
「ひ、人がいるだろ!」
 再度びっくりして叫んでみたけど、人影は感じない。
「確かめました」
 真面目に答えた耕平に、だけどほんの少し笑みが隠れていて、猛はちょっとだけむくれっ面。
「嫌だったか?」
 今度は優しい笑顔で一言。
”卑怯だよなぁ…”
「そんなわけないだろ…」
 だんだん小さくなる言葉と、見上げるような瞳。
「猛…」
「耕平…」
 そっと触れ合う二人の唇。
 優しい夕日に包まれた、静かな時間。

「くう~ん」
 明後日の方向を向いていたシェル、そろそろ飽きてしっぽをぱたぱた。
「「うわ!!」」
 シェルのしっぽが耕平の顔を撫ぜたのと。
 シェルがぺろりと猛の顔をなめたのと。
 耕平と猛が声を上げて起き上がったのは、全部同時。
「わう」
 枕の役目から解放されて、ぶるぶるっと身体を振っておすわり。
「ぷっ」
「ははははは~」
「わうん」
 なんだかおかしくって、みんなで大笑い。

 あっという間に過ぎた、2人と1匹の時間。

「今日は本当に楽しかったな」
 ぬくぬくのおふとんの中で優しい恋人の腕に包まれながら、猛の顔はお日様のような笑顔。
「二人っきりの時間は少なかったけどな」
 その愛しい恋人をさらに抱きしめて、耕平の顔にも優しい微笑み。
「今、二人っきりだからいいじゃねーか…」
 言った言葉が恥ずかしくて、顔が熱くて、ふせられてしまう猛の顔。
「さっきみたいに邪魔は入らないからな」
 思い出して、思わず笑ってしまう耕平。
「そうだな」
 猛は顔を上げたその勢いのまま、耕平にキス。
「ちゅ」
 ゆっくりと流れる、恋人たちの時間。 

 それは、1本の電話が運んできた、幸せな日曜日のお話。



日曜日は犬を連れて
2000.10.24