TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「雨の休日」200Hit 霜月さまへ♪

 今日は朝から雨で、おまけに緒方君はどうしてもやらなくちゃいけない仕事があるからと言って部屋に篭りっきりで、僕はなんだかとても暇だった。
「何もすることがない休みの日っていうのも、贅沢でいいんだけどね…」
 ここの所ずっと仕事に追われていた毎日で、土日なんて関係ない日が続いていた。そしてその仕事がやっと片付いたら、今度は緒方君が忙しくなってしまったようで…。
「タイミング、悪いよなぁ」
 そういえば…。僕が仕事をしていた休みの日、緒方君は何をして過ごしていたのだろうか。部屋で仕事をしていた日もあったみたいだけれど、それ以外の日は何をしていたのだろう。
「ゆっくり話をする時間もあんまり取れなかったからな」
 朝だけは絶対に一緒に食べているけれど、あまりのんびりもしていられない時間帯だし。お互いが仕事をしているのだから、仕方がないって言ったらそれまでの事だけれど…。
「緒方君…」

 今日は朝から雨で、それだけでも嫌になってしまいそうなのに、なんだか仕事が片付かなくって、結局、家に持ち込むはめになって、俺は部屋に篭っていた。
「なんで休みの日に仕事しなくちゃいけないんだ!」
 高杉さんはちょっと前まで今の俺以上に大変な状態で、休みなんて関係なく仕事をしていた。その仕事も終わったって言ってたのに…。
「今度は俺が仕事ためてちゃ、意味ないよなぁ…」
 高杉さん、今何をしているんだろうか。久し振りの休みだからのんびりしてるんだろうか。家の中に高杉さんの気配があるから、出掛けてはいないって事だけは分かる。
「最近2人で過ごす時間が短いよなぁ」
 同じ家の中にいるのに、最近は顔を見て話をするっていう時間は、食事の時と、あとほんの少し。お互いがそれぞれ別々の仕事をしている訳だから、仕方のない事なのかもしれないけど…。
「高杉さん…」

「はぁ…」
 高杉と緒方は、それぞれの部屋で同じ様な事を考え、同時にため息をついた。



「緒方君お昼に出てくるかな…?」
 時計の針はもう少しで12時を差そうとしているけれど、緒方の部屋の扉が開く気配はなかった。
「キリが悪いところで声かけたくないしなぁ」
 高杉は時計と緒方の部屋を何度か交互に見てしばらく考えていた。
「とりあえず、仕度だけはしておいた方がいいな」
 そう決めてキッチンへと移動した。

「もうすぐお昼だ~~」
 目の前の仕事から目を離し、一旦伸びをしながら緒方は半分叫ぶようにそう言った。
「どうしてこう、片付かないかなぁ」
 机の上の書類をじっと見て、小さくため息をついた。
「キリが悪すぎる。今休憩したら訳が分かんなくなりそうだ…」
 諦めたようにつぶやくと、また仕事を始めた。

「さて、何を作ろうかな」
 冷蔵庫の中をじっと見つめ、高杉はつぶやいた。
「食べやすい物がいいから、ご飯はおにぎりにしようか」
 目星をつけていくつかの食材を出すと、テーブルに並べた。
「緒方君のために頑張って作るとするか」
 手を洗いエプロンをして、手際よく仕度を始めた。

「腹減った~~」
 さっきよりも高くなってしまった書類の山を、緒方は涙目で眺めていた。
「見てても仕事は減らないし、その代わりお腹は減る一方だ~!」
 空腹と戦いながらまた机に向かった。
「いつになったら終わるんだ、これ…」
 先が見えない仕事の終わりを願いながら、一つ一つ仕事を片付けていった。

「緒方君、まだキリつかないのかな」
 窓のカーテンを閉めようと席を立った高杉は、ちらりと緒方の部屋の扉を見てつぶやいた。
「雨もまだやまないし」
 降り止まない雨を隠すかのようにさっとカーテンを閉め、昼食が並べたままのキッチンへ戻った。
「でも、緒方君は頑張っているんだろうな」
 優しい目でそうつぶやくと、お湯を沸かすため、もう一度席を立った。

「終わった~~~~~~!!!」
 書類はまだ山になっている部屋の中、緒方はすごく満足げに叫んだ。
「とりあえず、片付けだな」
 机の書類をある程度まとめ、部屋を出ようと席を立った。
「げ、もうこんな時間じゃないか。とにかく腹減った~」
 部屋から出るとひとつ大きな伸びをして、リビングへ移動した。

「お疲れ様、終わったのかい?」
 ドアが開いた音が聞こえた高杉は、リビングに入ってきた緒方をそんな言葉で迎えた。
「はい~。どうにかやっと…」
 緒方は優しく出迎えてくれた高杉をみて、安心したように答えた。
「お昼にも出てこないから、ちょっと心配したよ」
 高杉はそう言いながら、お茶を入れ、テーブルの上に置いた。
「すいません…。どうしてもキリが悪くて…気が付いたらこんな時間になっちゃいました」
 苦笑いでそう答え、ソファーに座ると、緒方はお茶を飲み、ホッと一息ついた。
「お腹、すいてるだろう」
 高杉はそう言って緒方に笑いかけた。
「もうハラペコっすよ!」
 緒方がそう答えたその瞬間、ぐ~~とお腹が鳴った。
「あ……////////////」
 なんだか恥ずかしくなって、緒方は顔を真っ赤にした。
「はははは。頑張ってやってたからだね」
 高杉は、そんな緒方を可愛く思いながら、優しくそう言った。
「すみません…」
 なんと言っていいのかわからず、緒方はそう言って謝ってしまった。
「謝る事なんてないじゃないか。さ、早く食べよう」
 ちょっと俯いてしまった緒方の手を取って、高杉はキッチンへ歩き出した。
「高杉さん…」
 優しさとその行動がうれしくて、緒方は思わずその名を呼んでしまう。
「なんだい?」
 振り返り、そう言って高杉は笑いかけた。
「いえ…」
 ちょっと首を振るようにそう答え、緒方は握られている手をそっと握り返した。
「今日のお昼は、ちょっと自信作なんだ」
 高杉は、とってもうれしそうに手を握っていた。
「高杉さん、どうしたんですか?これ??」
 キッチンのテーブルに用意されていた料理を見て緒方は思わず叫んでしまった。
「ああ、時間があったからね」
 笑いながら答える高杉の前には、重箱に詰められた料理が並んでいる。
「でも、なんだかたくさんありますけど…」
 どう見ても2人前以上ありそうなその量に、緒方はびっくりしていた。
「2人の分だからね」
 緒方の前に箸をおき、高杉はそう答えた。
「2人分って…高杉さんもお昼食べてないんスか?」
 さらっと答えた高杉の言葉に驚いて、緒方は叫んでしまった。
「緒方君が頑張ってるのに、僕だけ食べている訳にはいかないだろう」
 高杉はそう言って幸せそうに笑った。
「高杉さん…」
 再度、緒方はあまりにも幸せ過ぎて何も言えなくなってしまった。
「緒方君…。そんな顔しなくてもいいんだよ。僕が待っていたかっただけだからね」
 少しすまなそうな顔の緒方を見つめた後、高杉はそっと緒方の事を抱きしめた。
「でもっ…」
 高杉の腕の中で、緒方は思わず反論した。
「そうだ…おなかすいたから、早く食べたいものがあるんだけど…」
 高杉は、ちょっと真剣な顔で緒方の事を見つめた。
「なんスっ……んっ」
 顔を上げ、答えようとした緒方の言葉は、高杉によって中断されてしまった。
 それは、2人の空腹を満たす、長い長い…キス。
「何だか、ピクニックみたいですね」
 重箱に詰まったおにぎりをほおばりながら、緒方は幸せそうにそう言って笑った。
「そうだね…外は相変わらずの雨だけどね」
 高杉は、ちらりと窓の方を見た。
「でも俺、こんなゴージャスなお弁当なんて持って行った事ないっスよ。ホント高杉さんってすごいですよね」
 色とりどりの料理が、それはいっぱい詰まった重箱をじっと眺め、緒方は感心したようにそうつぶやいた。
「緒方君が頑張ってるみたいだったからね。これを食べてまた頑張って欲しかったんだ」
 とてもとても優しい笑顔で、高杉は緒方の事を見つめている。
「すいません…俺、結局終わるまで部屋にこもりっきりで…」
 すまなそうな顔で、緒方は謝った。
「緒方君が気にする事ではないだろ。こうして2人でゆっくり食べられるんだから、その方が良かったよ」
 高杉は、ずっと緒方の事を見つめていた。
「高杉さん…」
 そんな言葉に、緒方はまたまた感激してしまう。
「緒方君、お弁当ついてるよ」
 高杉は斜め隣に座っている緒方の頬についたごはんつぶを、ちゅっと触れた唇でとってしまう。
「あ~!」
 緒方は瞬間びっくりして思わず叫んでしまっていた。
「明日晴れたら、お弁当持ってピクニックに行こうか?」
 そんな緒方の事を、またまた優しい目で見つめ、高杉はにっこり笑ってそう言った。
「ピクニックですか??でも、明日も雨らしい事言ってましたよね…」
 少し動揺しながら、そしてちょっと残念そうに緒方は言った。
「そういえばそうだったね…」
 高杉も残念そうにそうつぶやいた。
「でも、今日がピクニック気分になったからいいじゃないですか。って、半日以上俺がつぶしちゃいましたけどね」
 苦笑いで緒方はそんな風に言った。
「それじゃあ、明日は家でのんびりと過ごす事になるのかな」
 ちょっと何かいい事が思い浮かんだように笑って高杉は緒方の事をじっと見ていた。
「家でのんびりもいいじゃないですか。明日は、俺ずっと高杉さんの傍に居られますからね」
 そんな高杉の思惑には全然気付かなかった緒方は、そう言って笑い返した。
「ずっと傍に居てくれるかい?」
 高杉の目は、いつになく真剣だった。
「当たり前じゃないですか。ずっと傍に居ますよ」
 緒方は、真剣にそう答えた。
「明日もし晴れても、きっと出掛けられないかな…」
 高杉はつぶやくようにそう言うと、ちょっと上目遣いに緒方の事を見た。
「何でです?」
 緒方は高杉の言葉の理由が全然思い付かなくて、不思議そうに訊ねた。
「朝、起きられるかどうか、わからないからね」
 高杉は、緒方の耳元で、そっとそうささやいた。



 今日は朝から雨降りで…。
 おまけに、せっかくの休日なのに恋人と一緒に過ごす時間が少なくなってしまって。
 だけど、一緒にお弁当食べて、一緒に会話して、一緒にピクニック気分を味わって。
 そして。 
「緒方君…」
「高杉さん…」
 一番傍に居るお互いの名前を呼び合える。
 そんな長い夜を過ごした、雨の休日。



雨の休日
2000.6.4