TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「笑顔のききめ」5200Hit ブッチさまへ♪

 一体どうしたものか。
 などとのんびり考えてる暇はなかったりする。

 なんだか部屋の中がムシッとしていて、そういえば外は風が気持ち良かったよなぁなんて思って…。
 あぁ。窓なんて開けるんじゃなかった…。

 今部屋の中には俺一人。…と、プラス一匹。
 高杉さんはまだ帰って来ていない。
 こんな格好を見られなくて済んだのは嬉しい事なんだけど、俺はどうにも困っていた。
 この部屋に入ってきた一匹の侵入者。こんな奴のおかげで、俺は今、一歩も動けない。動きたくても、動けない。
 情けない事この上ないのだけれど、そんな事も言っていられないのも確かな話で。今の心境と言えば、“誰か助けてくれ!!”の一言だったりする。
 情けないけど、ものすんごく情けないけど…。助けて!

“ガチャ”
 永遠にすら感じられる時間を過ごしていた俺の耳に、玄関から救いの音が聞こえた。
「たかしゅぎさぁ~ん」
 俺は部屋の中に入ってきたその気配に思わずそんな声を掛けてしまった。いや、本当は普通に呼んだ筈なのだけれど、あまりにも安心したせいかもしれない。
「緒方君?どこにいるんだい?」
 声はすれども姿は見えず…。部屋に入ってきた高杉さんにはそんな状況だったのかもしれない。俺だって、気配だけでその姿はまだ見えていないのだから。
「緒方君??」
 それでも、声のする方へと歩いて来てくれた高杉さんは、俺を見つけた瞬間びっくり顔をしていた。それもそのはず。俺はスーツのまま、窓前の床にぺったりと座り込んでいる状況なのだ。
 ああ!出来るならこんな姿見せたくなかったのに!なんて思いながら高杉さんを見上げれば、驚き顔が真剣なものへと変わっていた。
「緒方君…」
 だけど名前を呼ばれるだけで安心するなぁんなんて思わずそんな事を考えていたら、高杉さんがどんどんと近付いてくる。俺といえば動きたくても動けない状態だからそのまま高杉さんの事を見ていたのだけれど、うわっどアップ、と思った次の瞬間、視界の中から高杉さんが消えた。
「ごめん」
 耳元で聞こえたその声で、俺は高杉さんの腕の中に抱きすくめられているということを知った。そして、その言葉の意味を考えてびっくりしてしまった。
「な、高杉さん!?」
 行動も言葉も、意味が分からなくて俺は思わず叫ぶようにその名前を呼んでいた。
「僕の知らないところで緒方君にそんな顔をさせていたなんて…」
 一瞬、俺の思考回路はぴたりと動きを止めてしまったような気がする。そして、ゆっくりと回転し始めたときには恥ずかしさでいっぱいになった。俺は一体、どんな顔をしていたんだろうか。でもきっと、すごく情けない顔をしていたということだけは自覚があった。
「あ、あの…」
 こんなにも心配してくれているその原因を高杉さんが知ったら…。俺はそう思いながらそっと声を掛けた。
「僕の居ない間に、一体何があったんだい?」
 少し悲しげに見つめられて、俺は恥ずかしいような悲しいような情けないような、そして申し訳ないようないろんな思いでいっぱいになった。
「たいした事じゃないんですけど…」
 言うのがなんだかすごく恥ずかしくて、俺はついつい口篭ってしまった。
「僕には言えない事なのかい?」
 そうしたらすぐにそんな風に言われてしまい、俺は少し困ってしまった。そうではないけれど、そうなのかもしれない。
「そうじゃないんっスけど…。って、本当にたいした事じゃな・・・」
 と言いかけた時、俺の視界に高杉さん以外の動くものが横切った。
「ぎゃあ~~~~~~~~!!!!」
 俺は瞬間、思わず大声を上げてしまった。
「お、緒方君?」
 驚いた高杉さんの声が耳を掠めたけれど、それに返事をする余裕なんて今の俺にはなかった。
 動くなー!オレの前に姿を現すなー!というのが今の俺が心の中で叫んでいる言葉だった。
「どうしたんだい?」
 だけどその叫びは声に出ることはなくて、きっと口をパクパクさせているだけだったであろう俺に心配そうな高杉さんの顔が向けられた。
「高杉さん、あ、あれ!!!」
 俺はそんな高杉さんにしがみつきながら、さっき横切った俺の天敵を指差した。

“カラカラカラカラ”
 そんな音とともに窓が閉められ、俺の長い時間は完全に幕を閉じた。
「立てるかい?」
 そんな言葉とともに伸ばされた手を見上げると、笑いを隠せなそうな表情をした高杉さんと目が合ってしまった。
「あ…////////」
 安心感の次に、俺はさっき感じた以上の情けなさに襲われた。
「もう大丈夫だよ」
 そう言う高杉さんの肩は、かすかに震えている。
「わ、笑わないで下さい…」
 恥ずかしくて俯いてしまった頭上で、我慢し切れないといった感じの小さな笑い声が聞こえて、俺は小さくそうつぶやいた。
「くっくっ…ごめん、ごめん」
 笑いながらそう言って謝る高杉さんを見ていると、なんだか前にも同じ様な事があったなぁと思い出してしまう。
 あの時、俺はあんなにも情けないところを見られたというのに。あの時の高杉さんの言葉はなんだかとても暖かくて、恥ずかしさも情けなさもなんだか関係ないように思えた。
「高杉さん」
 俺は顔を上げ、座り込んだままの俺にずっと向けられている高杉さんの手にそっと手を伸ばしながらその名を呼んだ。
「愛してますよ、洋一郎さん」
 その手をぎゅっと握りしめて、ゆっくりと俺は立ち上がった。
 一瞬ビックリ顔をした高杉さんは、だけどすぐに笑顔を向けてくれた。
「僕も愛してるよ、あの時以上にね」
 そして、より優しい笑顔でそう言ってくれる。
 この笑顔が、何よりも嬉しい。
「ありがとうございます」
 いろいろな気持ちを込めて、俺は高杉さんに笑顔を向けた。

 俺を救ってくれるのは、やっぱり高杉さんの笑顔なのだ。



笑顔のききめ
2001.2.21