TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「この先もずっと」7777Hit Kanakoさまへ♪

 年末のあわただしさはとにかく半端じゃない。
 師走、なんていう先生も走っちゃうような月だから、とにかくやる事がたくさんある。
 それはもちろん仕事でもそうだけど、家の事でも結構いっぱいあったりする。
 大掃除とか年末年始の買い出しとか、その他いろいろ。
 普段仕事で出来ない分、夜とか休みの日を利用して片付けとか掃除とかしてたって年末は別。
 隅から隅まで片付けて掃除して、あれやこれやと買うものがあって、気が付けばあっと言う間に大晦日。
 一年って、本当に早い。

「はぁ」
 片付けも大詰めというところで、俺は思わずため息を付いてしまった。
 特に意味はないけど、強いて言えばせっかく休みになっても動きっぱなしの日が続いたせいかもしれない。
「どうしたんだい?疲れた?」
 そんな俺のため息を目ざとく見つけられて、おまけに優しい笑顔付きでそんな風に言われたら、なんだか照れてしまう。
「なんか、あっという間だったっスよね」
 照れた気持ちを隠すように、俺はそう言った。
「そうだね」
 しみじみと、なんだかこの言葉がぴったりと当てはまりそうな顔と声で高杉さんが少しため息混じりにつぶやいた。
 確かに、今年はいろんな事がいっぱいあって、思い出していくとキリがなくなってくる。
 でも気付けば、本当にあっという間の出来事で、心の中の思い出へと変わっている。
「いろんな事がありましたよね」
 楽しかった事、嬉しかった事、高杉さんと過ごした日々がいっぱい思い出となってよみがえって来る。
「あっという間だったけど、いい一年だったっスよね」
 そう言って俺が笑いかけると、高杉さんも笑顔を向けてくれた。
「緒方君と過ごした一年だからね」
 そして、さっきよりもっと幸せそうな笑顔で高杉さんにそう言われてしまい、俺は一瞬何も言えなくなってしまった。
「何よりも嬉しい事かな、それが」
 本当に。きっと誰が見たって幸せだって分かる、そんな表情で、静かに高杉さんはそう言った。
 俺はこんな時、いつも以上に幸せだなぁって思う。
「俺も、高杉さんと過ごせて幸せですよ」
 真っ直ぐ、高杉さんの目を見て言うのは少し照れたけど、本心を伝えたくて俺はそう言った。
「耕作」
 高杉さんの、俺の名を呼ぶタイミングはすごいと思う。
 恥ずかしくて、照れくさくて、でもそれ以上にすごく嬉しい。
「高杉さん…」
 答えた俺は、高杉さんにそっと引き寄せられるように抱きしめられてしまった。
「た、高杉さん!」
 思わずびっくりして、俺は声をあげてしまった。
「これだから、耕作と一緒にいるのが幸せなんだよ」
 笑いながら、高杉さんはそんな事を言っている。
「俺、もしかしてからかわれてます?」
 なんとなく、高杉さんの言葉が引っかかって、俺は思わずそう聞いてみた。
「まさか。それともそんな風に見えるのかな?」
 にっこり笑顔で逆にそう聞かれたら、俺はなんて答えていいのか考えてしまいそうになる。
「…見えなくも、ないですけどね」
 それが本心ではない事は分かるから、ぼそっと、高杉さんには聞こえないようにつぶやいて、俺はゆっくり高杉さんの背に腕を回した。
「洋一郎さん」
 そしてそう呼びかけると、優しい笑顔が俺を覗き込んできた。
「来年も、楽しい思い出たくさん作りましょうね」
 その笑顔にやっぱり笑顔で答えながら、俺は高杉さんにそう言った。
「二人で、一緒にね」
 言葉とともにそっと唇が触れてきた。
 目の前の高杉さんの顔を一瞬ジッと見つめた後、俺はゆっくりと目を閉じた。
「洋一郎さん…」
 今年も、あと少し。

「緒方君」
 年越しそばを食べたその片付けの途中、何を思い付いたのか急に真剣な顔の高杉さんに呼ばれた。
「どうしたんっスか?」
 あまりにも突然で驚いた俺は、とりあえずそう言って聞き返した。
「これから出掛けようか?」
「え?今からですか?」
 その突然過ぎる言葉に、俺は半分叫ぶような声で答えてしまった。
「そう、今から。大晦日だから電車も動いてるし、初日の出見て、そのまま初詣なんていうのはどうかな?」
 ちょっと楽しそうな声でそう聞かれ、俺は考えるまもなく
「いいっスね!!」
 と返事をしていた。
「じゃ、決まりだね」
 高杉さんはにっこりと笑っていた。
「それじゃ、片付けさっさと終わらせちゃいましょう」
 止まっていた手を再開させ、俺は洗い終わった食器を手早く棚にしまった。
 年明けまで、もう一時間を切ろうとしている。

 夜から出掛けるというのは、それだけでなんだかわくわくする。
「うわっ、さすがに寒いっスね」
 暖房の効きまくった室内にいたせいもあって、外気はすごく冷たかった。
「だからもう一枚余計に持って来てよかっただろう。明け方はきっともっと冷えるからね」
 高杉さんはそう言って持ってきた荷物に目を向けた。
「そうっスね。でも…」
 俺は答えながらちょっと思い付いた事があって、一旦言葉を切った。
「でも?」
 言葉を切ってそのまま高杉さんの事を見つめていた俺に、その先を促すように高杉さんは俺を見つめ返していた。
「こうすれば、あったかいですよね」
 俺はそう言って、高杉さんの手をぎゅっと握りしめた。
「そうだね」
 一瞬驚いた表情になった高杉さんは、すぐに嬉しそうに笑ってそう言った。
「でもこの方が暖かいよ」
 高杉さんはその言葉を言うや否や、手はつないだまま俺の事を抱きしめてきたから、俺はびっくりを通り越して一瞬固まってしまった。
「ね?」
 そして、満面の笑顔でそう言われてしまう。
「ねって、ねって、高杉さん~~」
 やっと硬直から解放された俺は、思わず情けない声を出してしまった。
「あったかいだろう?」
 変わらずその表情は笑顔で、俺はこの笑顔にやっぱり弱くって。
「あったかいっスけど…」
 そして本当に暖かくて、言葉がそれ以上続かなくなってしまった。
「まったく…」
 相変わらずだなぁと思う。
 こんな風に急に俺を驚かせる事をする高杉さんも、それにいっつも驚かされて慌ててしまう俺も。
「今年最後のデートだからね」
 ぴったりと抱きしめていた手を少し緩め、高杉さんはウインク付きで俺に笑いかけた。
「それって、もしかして…」
 俺はふと思い付いて高杉さんの顔をジッと見つめた。
「耕作」
 でも返ってきたのは俺の名を呼ぶ声と微笑む表情と…。
「今年最後の、キス…」
 そして触れるだけの唇。
「…ん…」
 遠くで、除夜の鐘が鳴っているのが聞こえた。
「今年初めての、キスですね」
 ほんの少しだけ離れた唇を追うように小さく俺はつぶやいた。
「今年も、ずっと一緒にいられるようにね」
 ほんの少ししか離れていないせいか、唇ではなく吐息が俺の唇に触れている感じがする。
「今年も、ずっと一緒ですよ」
 つぶやいて、俺は高杉さんに笑いかけた。
「だって、今まさに今年初めてのデート中ですからね」
 そう言って、今度は俺からそっとキスをした。
 今年、1.5回目のキス…。

「初日の出、きれいでしたね」
 初詣へと向かう道すがら、ほんの1時間ほど前に見た光景を思い出しながら俺は高杉さんに話しかけた。
「ちょっと寒かったけどそんなことなんか忘れそうな感じだったね」
 水平線から、ゆっくりと光が広がっていくさまは本当にきれいで、なんだかすごくすがすがしい気分になった。
「来年も、見に行きましょうね」
 俺はふと思い付いてそう言って高杉さんに笑いかけた。
「そうだね。来年と言わず、再来年もその次も、ずっとずっと見に行こう」
 そう言ってくれる高杉さんと、優しい笑顔がすごく嬉しくて嬉しくてたまらない。
 お正月から、俺はなんて幸せ者なのだろう。
「今年はなんだかお正月からいい事だらけだよ」
 俺の思ったことと同じような事を高杉さんが言ったから、なんだかちょっとびっくりした。
「初日の出はきれいだし、緒方君は可愛いし」
 微笑みかけるように高杉さんはそう言った。
「そうっスよね~。って、高杉さん!?」
 あまりにもさらっと言われてしまったせいか、その言葉を理解するまでにちょっと時間がかかってしまった。
「何言ってるんですか~~」
 思わず、情けない声でそう言って、昨日の事をふと思い出した。
「本当の事だからね」
 にっこりと笑っている高杉さんの表情に一瞬見惚れてしまい…。
 やっぱり相変わらずなんだ…。なんて思ってしまう。
「年が明けても、そういうところ変わらないですよね…」
 ちょっと見上げるように高杉さんを見れば、幸せそうな優しい微笑みで俺の事を見ていてくれる。
「そんなところも、好きですけどね」
 変わらないで欲しいような、自分を変えたいような…。俺はどっちがいいのだろうか。
 少し複雑に思いながらも、俺の高杉さんへの想いが変わる事がないって事だけははっきり分かる。
「僕も、大好きだよ」
 そう言う高杉さんの表情は満面の笑顔だから、相変わらずでもいいかなぁなんて思ってしまう。この笑顔があれば、それだけで、本当に充分だ。
「今年は、すごくいい事がありそうだよ」
 優しい笑顔がすぐ傍にあって。
「それは俺も同じですよ」
 今年は本当に幸せな始まりだなぁって思う。

 去年すごく幸せな1年だった。
 今年はもっと幸せな1年であって欲しいと思う。
 そして。
 これから毎年が、高杉さんと一緒に過ごせる幸せな1年でありますように…。



この先もずっと
2000.12.17