TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「いっしょ・ずっと・おなじ」2424Hit 美里さまへ♪

「おめでとうございま~す!」
 その言葉とともに、その抽選会で当たった3等賞の景品が差し出された。
「俺、こうゆうの当たったの初めてだ!」
 当たった本人は嬉しそうにその景品である封筒を受け取った。
「ところで何が当たったんだ?」
 同僚にそう問われ、封を開けると中には2枚のチケット。
「遊園地のフリーチケット。おまけにペアでご招待~!」
 ジャーン、という効果音が気こるかのように取り出し、広げてうれしそうに見せる。そしてまた、うれしそうに封筒にしまった。
 これで、デートの行き先は決まり♪

 それから何度目かの休日が過ぎ…。
 2人はその遊園地のゲート前に出来た列に並んでいた。
「やっと遊びに来られましたね」
 そう言って、楽しそうに、待ち切れなさそうにうきうきしているのは、例のチケットを当てた緒方耕作。
「休日出勤やら雨やら邪魔やらで休みの日が上手く合わなかったからね」
 それまでの休日を思い出し、ちょっと込み上げてくる怒りを抑えつつ、それでもやっぱり楽しそうに笑って答えたのは高杉洋一郎。
 2人仲良く、今日はやっとデートの日。

 開園時間になり、園内に入って高杉は一言。
「さて。まずは何に乗ろうか?」
 返ってくる答えは分かっているのに、それでも笑顔でそう尋ねる。
「もちろん!ジェットコースターしかないっスよ!!」
 いつも決まった答え。最高に幸せそうな笑顔で緒方は答えた。
 この笑顔が見たくて、高杉は毎度同じ質問をしてしまうのだ。
「じゃ、急がないと、もう列が出来てるだろうからね」
 どの遊園地に行っても、大概ジェットコースターには長い列がいつでも出来ていて、乗るまでに結構待たされてしまう。
「そうっスよね!急ぎましょう、高杉さん」
 そう答える緒方の足は、すでにジェットコースターの方へと向かっている。
 普段、けっこう方向音痴なのに、緒方は初めて歩く園内を間違わずに目的地に着いた。
「野生のカンなのかな」
 緒方には聞こえないように小さく笑うようにつぶやき、高杉はその隣に並んだ。
「初めてって、すっごくわくわくしますよねぇ」
 聞こえてくる歓声と絶叫と、そして機械の音が嫌でも気を高ぶらせる。
「ははは。そうだね」
 高杉はその緒方の顔があまりに可愛くて、笑顔でそう答えた。
 高杉も緒方も、いわゆる絶叫マシーンと呼ばれる乗り物は好きだったから、怖いという感情はまったくなかった。
「でも、晴れて良かったですよね」
 空を見上げれば真っ青で、所々にこれまた真っ白な雲がぽつぽつとある程度。真上にはまだちょっと足りない高さにある太陽は、それでもその存在を主張するように輝いている。
「本当に、やっと晴れたからね…」
 答える高杉の言葉には、すごい重みがあった。さっきと同様、今までの事を振り返っていたのだ。
 週末ごとにぐずつく天気と、ふいにやって来る仕事と行事とそして訪問者と…。のんびりと過ごせた休日はあったけれど、遊びに出掛ける事はしばらく出来ない状態だったのだ。
「今日はいっぱい遊ばないとね」
 高杉は笑顔でそう言った。
「そうっスね。まずはジェットコースターですっ飛ばしましょう!」
 答えた緒方も笑顔だった。なんだかその2人の笑顔だけで、すごく楽しくて幸せだった。

 ジェットコースターに始まり、いくつかある絶叫マシーンをはしごして、気付けばお昼を少し過ぎていた。
「そろそろお腹すきませんか?」
 遊びたい気持ちより、少しだけ空腹感が勝ってしまった緒方は、伺うように高杉に声をかけた。
「確かに、すいてきたね」
 いつも同じ高さにある緒方の目線が自分を見上げるようにほんの少し下にあって、高杉はその表情の可愛さに笑顔で答えた。
「何、食べましょうか?」
 高杉の同意を得られたことで緒方も笑顔になり、ゲートで貰っていた案内図を広げた。
 そのコロコロと変わる表情がこれまた可愛くて、高杉はそっと緒方に一歩近付いた。
「はい」
 そんな高杉に案内図を見せようと緒方は顔を上げた。
「えっ」
 本当に目の前にお互いの顔があって…。
「…!」
 瞬間、高杉の唇が緒方のそれを掠めていった。
「まずは、つまみ食い♪」
 幸せで楽しそうな高杉は、今日一番の最高な笑顔を見せた。
 一方、幸せだけど恥ずかしい緒方は真っ赤な顔で何も言えなくなってしまっていた。

 食後はとりあえず乗り物に乗るのは避け、アーケードゲームで遊ぶ事にした。
 大抵どのゲームでも景品がもらえる高得点で、2人はなんだか大荷物で歩いていた。
「おみやげコーナー覗いて、とりあえず荷物預けようか」
 この荷物では乗り物に乗れないと思った高杉は、他に荷物が出そうな場所を先に済ませようと考えた。
「そうっスね」
 こうやって遊びに出ると、いつも何か買って帰るのが2人の習慣になっていたから、みやげもの屋に寄らないで帰る事はめったになかった。
 2人はまだそんなに混んでいない店内をのんびりと見て歩いていた。
 ぬいぐるみ、おもちゃ、キャラクター商品。何もここで売らなくても…という物まで、店の中はいろいろなおみやげであふれていた。
「あ…」
 緒方は目に止まったものを見つめ小さく声をあげると、その歩みを止めた。
 一歩分後を歩いていた高杉もつられて止まると、緒方の視線の先へと顔を向けた。
「キーホルダー?」
 そこには何種類かのキーホルダーかけられていて、どうやらそのうちの1つに緒方の視線は釘付けになっているようだ。
「気に入ったのみつけた?」
 ジッと見入っていた緒方に、高杉は声をかけた。
「あ、なんかこれ、シンプルでいいなぁって」
 声をかけられてハッとした緒方は、気になったキーホルダーを指差しながら思ったままを口に出した。
 それはその遊園地のキャラクターを象った、銀色のキーホルダーだった。
「じゃ、今日はこれにしようか」
 1つ手にとって、高杉はにっこりと笑った。
「え、でも高杉さん、いいんですか?」
 深く考えて決めたわけではないし、自分だけの希望になってしまうのが気になって緒方は高杉に尋ねた。
「緒方君が選んだものなら、何でもうれしいよ。それに、ちょっといい事思い付いたからね」
 少し意味深に、ウインク付きでそう答えた高杉に、緒方はちょっと首をかしげた。
「また、おそろいが増えたね」
 高杉は笑ってそう言っただけで、緒方の疑問には答えなかった。

 荷物を預け、また園内をあっちこっちと歩き回った。
 ゴーカーとで競争したり、コーヒーカップで見ている人まで酔っちゃいそうなくらい回してみたり、のんびりと汽車に乗って景色を眺めたり、お化け屋敷でちょっとヒヤッとしてみたり…。園内すべての乗り物を制覇しながら2人はとにかく遊びまわった。
 それでも遊びの時間は永遠ではなくて、傾いた太陽がその終わりを告げていた。
「なんだか、1年分まとめて遊んじゃった気分ですよね」
 今日最後の乗り物と決めていた観覧車の窓から、一日ずっと遊びまわっていた園内を見つめ、緒方は楽しそうに、本当に楽しそうに笑っている。
「緒方君が、チケット当ててくれたおかげかな」
 高杉は、そんな緒方の笑顔が見られる事が、本当にうれしく思った。
「ありがとう」
 そういった高杉の笑顔は、すごくすごく優しくて、緒方の心は温かさに包まれた。
「へへ。俺も当てた甲斐がありましたよ」
 子供みたいに、ちょっと自慢気に緒方は笑った。
「また、遊びに来ましょうね」
 向かいに座る高杉を見つめ、緒方は笑顔でそう言った。
「ああ、もちろん」
 その笑顔に、高杉も笑顔を返した。
「あ、そうだ、さっきのキーホルダー」
 高杉は急に思い出したようにそう言うと、預けずにポケットに入れておいた小さな袋を出した。シールをはがして取り出すと、ちょっとうれしそうに笑みがこぼれた。
「何を思い付いたんですか?」
 緒方はさっき答えてもらえなかった疑問を、今度は口に出して聞いてみた。
「それはね…」
 高杉はそう答えながら、今度は家の鍵を取り出してキーホルダーを付け替えた。
「こうすると、完璧におそろいになるだろう?」
 持ったそれを振るように緒方に見せながら、高杉は幸せそうに笑った。
 カチンと、ぶつかり合う音が響く。
「え、なんで家の鍵に付けるって分かったんですか?」
 さっき店の中で見つけた瞬間、そのキーホルダーの使い道は緒方の中で決まっていた。でもそれを高杉に言った訳ではないから、不思議に思った。
「耕作の事はなんでも分かっちゃうんだよ」
 本当は高杉の予想を遥かに超えた行動をとるのが緒方なのだけれど。このときの高杉は確信を持っていたからそう言って最高の笑顔を贈った。
 不意に下の名前を呼ばれた事と、その言葉とその笑顔に、緒方の顔は真っ赤になった。
「高杉さん…」
 なんと言っていいのか分からなくてその名前を呼べば、目の前に微笑む高杉の顔があって。緒方は更に顔が赤くなったのを感じていた。
「はい、耕作の分」
 その笑顔のままキーホルダーを渡され、勝てないよなぁ…なんて思いながら緒方は受け取って鍵に付けた。
「完璧におそろいっスね」
 さっき高杉がやったのと同じように、緒方はまるっきりおそろいになったその鍵を見せながら笑った。
 2人の住む部屋の鍵が付いたおそろいのキーホルダー。高杉と緒方の手に、それぞれ同じ物が握られている。
 それだけの事なのに、些細な事なのに、なんだかすごくうれしくて、なんだかすごく幸せで。
 2人はお互いを見つめ合ったまま…。
「耕作」
 先に口を開いたのは高杉で、その小さなささやきとともに緒方を引き寄せ、その腕の中にすっぽりと抱え込んでしまった。
 ちらりと窓の外を見れば、たぶんここは頂上に近い辺りのはず。
「洋一郎さん…」
 緒方は小さくその名をつぶやいて。
 どちらからともなく2人の唇は触れ合った。
 口付けはほんの一瞬。少し物足りなさを残して触れた時と同じようにそっと離れた。
「夕焼け、きれいですね」
 手をつなぎ、2人はその空をジッと見つめていた。
「そうだね」
 優しいオレンジ色の光に包まれた観覧車は、ゆっくりと地上へと戻り始めていた。

「楽しかったね」
 今日何度目かのその言葉をつぶやけば。
「楽しかったですよね」
 今日何度目かの同じ返事が返ってくる。
「また遊びに行きましょうね」
 そう言って笑いかければ。
「また遊びに行こうね」
 そう言って返ってくる笑顔。

「今日は、どっちの鍵で開けようか」
 2人のポケットから、同じ音が聞こえた。



いっしょ・ずっと・おなじ
2000.10.9