TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

パラレル「シンデレラ」ダーリン
「スギデレラ」2222Hit かなこさまへ♪

 あるところにタカスギヨウイチロウさんという、かっこいい青年がおりました。
 タカスギさんは、トドロキさん、サカモトさん、カツラさんと4人で暮らしていました。
 タカスギさんとこの3人、仲が悪いわけでもないけれど、だからといって良いわけでもなく、何かといさかいの絶えない暮らしをしていました。
 そんなせいなのか、よく分からないうちにタカスギさんはなぜかスギデレラと呼ばれていました。

 そんなある日のことです。4人にお城から舞踏会の招待状が届きました。
 配達に時間がかかってしまったのか、招待状の届いた日が舞踏会の当日でした。
 家にいたトドロキさんは早速恋人のタケルくんを誘って、そしてサカモトさんとカツラさんも支度をして出掛けてしまいました。
 ちょうど出掛けていて家にいなかったスギデレラ。おいていった招待状が不幸にもすぐ見える範囲になかった所為で、何も知らないまま家で独りぼっちになっていました。
「僕も出掛けてしまおうか…」
 行く当てもなく、スギデレラは外に出ました。
 しばらくそうして歩いていたスギデレラは、やけに楽しそうにお城に向かう人々とすれ違いながら不思議に思っていました。
「今日は一体何があるのだろう」
 スギデレラがそんな事を考えたその時です。
「今日はお城でパーティーですよ」
 スギデレラは突然現れた魔法使いのツツミさんに声を掛けられました。
「パーティー!?」
 まったく予想もしなかったその人物の登場よりも、お城でのパーティーの方がスギデレラにとっては重要なことでした。
「今日は町中の人を招待しているそうですよ」
 続けてそう言われたスギデレラ。ショックは二倍になりました。
「こんな所でのんびりはなんてしていられない!!」
 叫ぶなり、方向転換して家へと走ろうとしました。
「お待ちなさいって」
 そんなスギデレラを笑顔で引き止めたのは魔法使いのツツミさんでした。
「今から家に帰るより、もっと早い方法でお城に連れて行って上げますよ」
 にっこりと笑ったツツミさんは、かぼちゃ畑から1つのかぼちゃを持って来るなり魔法をかけ、立派な馬車へと変えてしまいました。
「さあ、次はスギデレラの番ですね」
 そして、あっけにとられたスギデレラにも魔法をかけました。
 スギデレラはあっという間にステキなスーツ姿の王子様に変わっていました。そのかっこよさはもう、誰にも負けないくらいでした。
「魔法使いさん、ありがとうございます」
 スギデレラはお礼を言うと馬車に乗り込みました。
「スギデレラ、真夜中の12時の鐘にはくれぐれも気を付けくださいね」
 スギデレラは何のことだか分からず、けれど気が急いていた為に聞き返さずにうなずきました。
「それではシキブ君、あとは頼みましたよ」
 ツツミさんは、何時の間にか馬車に座っている御者のシキブ君にそう言いました。
「お任せください」
 そして、馬車はお城へと走り出しました。
「うまくいくといいですね」
 見送るツツミさんはスギデレラと、そしてもう一人の幸せを願っていました。

 お城に着いた馬車を降り、スギデレラは御者のシキブ君にお礼を言いました。
「ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、お役に立ててよかったですよ。でも、何でそんなに急いでたんですか?」
 笑顔で答えながら、不思議に思っていた事をシキブ君は尋ねました。
「お城には、どうしても逢いたい人がいるからね」
 スギデレラはそう言って、本当に優しく笑ったのでした。
「そうですか…。それじゃ、頑張って来て下さい!」
 シキブ君はそう言ってスギデレラを見送りました。

 お城の広間入ると、たくさんの人がそのかっこよいスギデレラを見てため息をつきました。
「なんてかっこよい王子様。一体どこの国の人だろう?」
 そんな周りの言葉など耳に入らないかのようにスギデレラは一人の人を捜していました。
 一度だけ、お城で見かけたかわいい人。遠くから、ほんの一瞬だけ目に入った何もかもがかわいい人。何よりもスギデレラの心を捕えてやまなかったのは、その人の笑顔でした。
「いない…。今日は逢えると思ったのに」
 傷心のスギデレラはその人込みから離れ、テラスに出ました。
「あっ…」
 テラスには先客がいました。まるで人込みを避けるかのように端っこの方にポツリと座っている人がいたのです。
「お邪魔してもいいですか?」
 スギデレラはそう声を掛けました。
「はい…」
 小さな声で返事が返ってきたのを確認すると、スギデレラはその人の側に座りました。
「せっかくみんな集まっているのに、パーティーは苦手ですか?」
 スギデレラはまるで顔を隠すように座り込んでいるその人に声を掛けました。
「そういう訳じゃ…ないんですけど」
 暗くて表情までは見えないけれど、スギデレラにはその人がなんだか泣いているように思えました。
「僕でよければ、話を聞きますよ?」
 なんとなくほっては置けなくて、スギデレラはそう言いました。
「逢いたい人がいたんです。俺は、そんな理由だけで…」
 止まってしまったその言葉の続きを待つように、スギデレラは黙っていました。
「ただ、本当に逢いたかっただけなんだけどなぁ…」
 つぶやくように聞こえた言葉は続きではなく、けれどなんだかスギデレラの心に残りました。
「逢えたのですか?」
 スギデレラにもやっぱり逢いたい人がいた所為か、なんだか気になって仕方ありませんでした。
「いいえ。探しながら、逢った時のことを考えるとなんだか不安になってしまって…」
 その声は少し淋しそうに聞こえました。
「僕も、逢いたい人がいたんです。でもやっぱり逢えなかった…」
 スギデレラには淋しさが痛いほどよく分かりました。逢った時の不安もなんとなく分かるような気がしました。

 そして二人はしばらく他愛ない会話を続けていました。
「今夜はあなたに逢えて僕は幸せです。こんなに楽しい思いをしたのは本当に久し振りだ」
 逢いたい人に逢えなかった、そんな淋しさが、でもなぜか二人は一緒に話しているだけでなくなっていくような気がしました。
「俺も…すごく楽しかったですよ」
 そして、なんとなく二人の距離が近付きそうになったそんな時です。
”リーン、ゴーン“
 大きな鐘が鳴り始めました。
「12時…!」
 その音で、スギデレラは魔法使いの言葉を思い出しました。
「俺、帰らないと…。失礼しますっ」
 けれど行動を起こしたのはスギデレラではありませんでした。
「えっ」
 慌てて声をかける頃には、その姿は外へとつながる階段を走っていました。
「待って、待って!」
 スギデレラは追いかけました。
 そんなスギデレラの言葉に振り返りもせず、その姿は階段を駆け下りて見えなくなってしまいました。
「どうして…」
 あっという間で、スギデレラはまるで夢を見ていたかのような感覚に襲われました。けれどスギデレラの心には交わされた言葉も、心に響くようなその声も何もかもが鮮明に残っていました。
 そんなスギデレラの後ろでは、パーティーを祝うかのように盛大な花火が上がっていました。
「どうして、こんなに気になるんだろう…」
 見えなくなってしまった後ろ姿を追うようにその闇を見つめ、スギデレラはつぶやきました。
 盛大に上がる花火も、今のスギデレラには目にも耳にも入りませんでした。

 それから数日たったある日のことです。
 お城から一人の青年が探し物があるといってスギデレラ達の家を訪ねてきました。
「俺は知らねーぞ」
「私も知らないなぁ」
「俺も知らないですね」
 ちょうどその場にいたトドロキさん、サカモトさん、カツラさんはそう答えました。
 そんな会話が聞こえたスギデレラは奥の部屋から出てきました。
「あっ!」
 スギデレラは、訪ねて来た青年を見て声を上げました。
 それはスギデレラがずっと逢いたいと思っていたその人だったのです。
「この前のパーティーの時になくしたものを探しているそうだが、スギデレラは確か行ってなかったよな」
 サカモトさんは、パーティーの招待状がそのまま残っていた事を思い出してそう言いました。
「いや、僕も行ったけど…」
 その言葉にはとりあえず返事をしたものの、スギデレラには目の前に立つ彼の事しか目に入っていない状態でした。
 そして尋ねてきた青年も、スギデレラの事を見つめたままぴったりと動きを止めてしまいました。
 そんなふたりの沈黙を、残った3人は破る事も見守る事もせずにそのまま家へと戻ってしまいました。
「俺はコウサクといいます。あ、あの、実は、探している人がいるんです!」
 そしてその見つめあいを破ったのは、真っ赤な顔で思い出したように叫んだ青年でした。
 スギデレラはその声を聞いてさらに驚きました。
「まさか…君は…!?」
 心の中に残っているテラスで交わされたその声を、スギデレラが間違うはずがありませんでした。
「あなたは、あの時の…」
 探し物を尋ねに訪れたのはなんとパーティーの夜、話をした彼だったのです。そして、もちろんコウサクにも、スギデレラの事が分かりました。
 お互い真っ暗なテラスで顔が見えなかったものの、その声だけはしっかりと覚えていたのです。
「逢いたかった…」
 スギデレラは優しく微笑みかけました。
「やっと逢えた」
 そしてスギデレラはその手をぎゅっと握りしめました。
「え、でも…」
 青年は真っ赤な顔を更に真っ赤にして言いました。
「僕があの日、逢いたかったのは君なんだ」
 スギデレラがお城で見かけたかわいい人。それは紛れもなく、目の前にいるその人だったのです。
「ずっとずっと逢いたくて、ずっとずっと探していたよ」
 スギデレラの言葉にコウサクはびっくりしてしまいました。
「俺も…逢いたかったのはあなたです。一目見るだけでもいいから、逢いたかった」
 そう言ってスギデレラに笑顔を向けました。
「あの時、お互い逢えてたんですね」
 それは嬉しい誤算。嬉しい偶然。そして嬉しい運命。
「では改めて…」
 スギデレラは微笑んで、コウサクの前に手を差し出しました。
「僕はヨウイチロウといいます。ずっと、僕の傍にいてくれませんか?」
 コウサクも笑顔を向けました。
「ヨウイチロウさん、ずっと俺の傍にいてください」
 二人はあふれんばかりの笑顔になりました。
「コウサク、もう離さないよ…」
 スギデレラはコウサクをぎゅっと抱きしめました。
「俺だって離しません!」

 そして二人はその後、幸せに暮らす事になりました。


 やっぱり…。物語はいつだってHappyend♪



スギデレラ
2002.7.13