TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「ブーケの行方」1010Hit 比呂さまへ♪

アーチを描き、それは俺の目の前に飛んできた。

 6月のある日。
 結婚式に招待され、俺はその会場に来ていた。
 町の小さな教会が、何だかすごくにぎやかな雰囲気に包まれている。
 天気は最高に良く、でもだからと言って暑いわけではないちょうどいい暖かさの中、際立って幸せそうな2人の笑顔が周りまで幸せにしてくれる。
「おめでとう」っていう、祝福の言葉があちこちから聞こえ、笑顔がこれまたあちこちからこぼれる。
 何もかもが輝いて、素敵なひととき。

 こんな時俺は、やっぱり高杉さんのことを考える。
 俺の、何よりも一番の人。
 いつも隣に居たい人。一生隣に居たい人。
 幸せそうな2人を見て、ぼーっとそんなことを考えていたら、何だか一人で恥ずかしくなってしまった。
 俺、本当に高杉さんのこと好きなんだよなぁ。
 こんな時だからこそ、改めて俺は高杉さんのことを好きになるのだ。

 式は厳かに行われた。
 幸せな笑顔と幸せな涙と…。

 式が終わって外に出て、俺達は2人が出てくるのを待つ。
 この瞬間は、何だかドキドキする。
 でも、一番ドキドキして待っているのは新婦のお友達であろう、女の子達だった。花嫁が持っていた、白い花のブーケの行方を気にしているようで、そわそわとしていた。
 花嫁の投げたブーケを受け取った人は、次に結婚する…。
 そんなことを思い出したその時、大きなドアの前に主役の2人が現れた。
 盛大な拍手とライスシャワーで、笑顔がまたいっぱいになった。
 そして…。
 花嫁はブーケを投げた。

「ブーケは緒方君の手に…か」
 帰ってすぐ、花瓶代わりのグラスに花を生けていた俺にそんな声が届いた。
「え?何でブーケって分かったんですか?」
 俺は、今花瓶に入れたばかりのその花から高杉さんに視線を移した。
 花瓶の中の花はたったの1本。どう見てもブーケに見えるわけがない。
「結婚式の帰りの花っていえば、やっぱりブーケだからね。それに…」
 優しい笑顔と一緒に軽く抱きしめられて、俺はちょっとどきっとした。そして言葉の続きが気になって、俺は首を傾げてしまう。
「それに?なんですか?」
 ドキドキとする気持ちを抑え、俺はそう尋ねた。
「何だかすごくうれしそうな顔をしていたからね」
 そういった高杉さんの顔の方が、うれしそうな表情をしているように俺は思った。
「でも、どうして1本なんだい?」
 高杉さんは、こればかりは分からない、というような顔で俺のことを見ている。確かに、ブーケといえばもっといっぱいの花があっていいはずだし、現に今日の花嫁が投げたブーケはたくさんの花で出来ていた。
「俺もびっくりしたんですけどね、投げたとたんに1本1本に分かれたんですよ」

 花嫁の投げたブーケは空の中で何本にも分かれ、その中の1本だけが、アーチを描いて俺の目の前に飛んできたんだ。

「俺、思わず必死に手を伸ばしてました。周りに女の子は居なかったから、手を伸ばしたのは俺くらいだったですけどね」
 俺はその時のことを思い浮かべながらそう言った。
「そっか」
 高杉さんは何だかすごく優しい眼差しで俺のことを見ていた。俺はその時自分がとった行動と、今の高杉さんの表情に、どうしようもなく恥ずかしくなった。
「じゃあ、次は緒方君の結婚式だね」
 高杉さんは思い付いたようにそう言って笑っている。
「な、何言ってるんですか」
 俺は思わず叫んでしまったけれど、次の瞬間今まで以上にぎゅっと抱きしめられて俺は思わず言葉が出なくなった。
「僕と、結婚してくれるかい?」
 抱きしめられたまま、耳元に聞こえる高杉さんの声。
 俺は言葉の意味を考えるのに、少し時間がかかってしまった。
「…え?」
 だから思わず間抜けな返事を返し、俺は高杉さんの顔を見つめた。
「え、じゃなくて、返事が欲しいな」
 俺がぼーっと見つめていた高杉さんの表情が一段と優しくなって、俺は顔が熱くなるのを感じた。
「あ、あの…」
 答えなんて決まっている。でもそれをすぐに口に出せなくて、何と言っていいのか考えてしまって、口をぱくぱくとさせてしまった。
「耕作、僕と結婚してくれるかい?」
 もう一度、名前を呼ばれて言われたその言葉に、俺はすごく安心した。
「俺と、結婚して下さい」
 頭の中で考える前に、俺は返事をしていた。
「よかった」
 本当に優しい笑顔で、うれしそうな笑顔で、高杉さんは俺のことぎゅっと抱きしめてくれた。
 その背中に腕を回し、俺もぎゅっと抱きついた。
「一生、離さないよ」
 つぶやくように言われたその言葉は、俺の心の中をすごく感動させてくれた。
「俺も、離しませんよ」
 笑顔と一緒に、俺は高杉さんにそう告げた。
「絶対だよ」
 まるで、約束だよ、と言わんばかりに、そっと唇が触れた。
「絶対っスよ」
 俺もそう言って同じようにその唇に触れた。
 さっきは一瞬だったそれが、今度はゆっくりと重なる。

 空に舞ったブーケは、幸せな恋人達の元へ…。



ブーケの行方
2000.9.21