『世紀末のお茶会』
「なにもかも」
ふと思い出して、すっごく情けないなぁと思ってしまうことがある。ほんの些細なことだったりするのだけれど思い出していくと塵も積もれば…というもので、とっても情けない思いにどっぷりと漬かってしまう事がある。
あぁ、俺って情けないよなぁ…。
「ため息なんかついて。何かあった?」
いろいろと思い出して、俺はどうやら無意識にため息なんかついてしまっていたらしい。
「あ、いえ、なんでもないっスよ」
笑ってそう答えたものの、高杉さんが見逃してくれるとは思えない。
「本当に?」
そう言って念を押すように、そして心配そうに覗き込まれてしまう。その表情に、『言うまで心配し続けてるよ』とでも言われているような気がして、俺の笑いは逃げるような苦笑いに変わってしまう。
「ちょっと嫌な事、思い出しちゃって」
どうしたって高杉さんには勝てなくて、俺はそう答えた。
「嫌な事?」
話したら最後。全てを打ち明けるまで高杉さんは離してくれそうにない。
「なんだか、情けないなぁって…」
ちょっとだけそらした視線を元に戻せば真っ直ぐに見つめる高杉さんの視線とぶつかって、俺の自己嫌悪はさらに増してしまう。
「緒方君は情けなくなんかないよ」
目の前で、微笑んだ高杉さんにそう言われ、でもそんな自信なんか全然なくてちょっとだけ俯いてしまう。
「どんな自己嫌悪に陥っているのか分からないけど、僕はどんな緒方君だって大好きだよ」
何のためらいもなくそう告げられて、俺は顔が赤くなるのを自覚した。
「緒方君はどこもかしこも可愛いからね」
追い討ちをかけるようなそのセリフに、俺の顔は完全に真っ赤になったと思う。
「た、高杉さん…!」
叫んだ瞬間、今度は抱きしめられてあせってしまった。
「うわっ」
なんだか今だって情けない事の連続で、俺はもう半分涙目になっていたかもしれない。
「緒方君の、全てを愛してるよ」
けれど耳元でそうささやかれ、俺の思考も行動も、全てが停止してしまった。
どうして…。俺の心の中にそんな言葉だけがぐるぐると回っていて、だけど考えるまでもなく俺は次の瞬間答えを出していた。
それは、俺も同じだから。
「俺も、高杉さんの事、全部愛していますよ」
かっこいいところも、優しいところも、素敵なところも。そして案外しょうもなくってやきもち焼きな所も。
何もかも、全部を愛してる。
「良かった」
小さくつぶやいたのは高杉さんだったけれど、その気持ちは俺も同じ。
俺はその気持ちを伝えたくて、高杉さんをぎゅっと抱きしめ返した。
なにもかも
2001.1.24