TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「6月のある日」~タカオガ編~

久しぶりに晴れた日曜日。
ここのところ仕事以外で外出していない二人は、でもこれと言って行くところもなくのんびりと散歩していた。
「晴れるんだったら出掛ける計画立てたのにな」
高杉はちょっと不満そうな顔をしている。
「2人で散歩じゃ不満ですか?」
そんな高杉に緒方はわざと真剣な顔を作ってそう聞いた。高杉がまめな性格なのはよく知っている。
「そんなことあるわけないだろ」
高杉はすぐにそう答えた。
「いいじゃないですか、たまには。のんびり散歩も悪くないですよ」
緒方はそう言って笑った。
ここのところなんとなく忙しく、家でやらなくてはいけない仕事もあり、ゆっくりと過ごす休日は久しぶりだった。そして、緒方は2人で過ごすこの時間が何よりも好きなのだ。別にどこかへ出掛けなくても。
「ま、僕は耕作くんと過ごせればそれでいいんだけどね」
緒方の笑顔に、これまた照れちゃうくらい素敵な笑顔で高杉は返した。あまりにもさらっと言ってくれたので、緒方は瞬間、顔を赤くした。高杉のこういう性格を、分かっていてもちょっと照れくさい。
そんな緒方を『かわいい!!!』と思いながら、高杉は手を握った。
「た、高杉さん!」
驚いて緒方は声を上げた。少ないとはいえ、周りには人が歩いているのだ。
「このくらいはしないとね、せっかくの散歩だし」
にっこり笑顔のまま高杉にそう言われると、緒方は何も言えなくなってしまう。というより、言っても無駄なのだ。
「しょうがないですね」
口ではそう言いながら、それでも緒方は内心喜んでいた。大好きな人に"触れる"という行為は、心地いいものなのだ。
だから緒方もそっと握り返した。
"リーンゴーーン、リーンゴーーン"
そんな幸せいっぱいの2人の耳に、鐘の音が飛び込んできた。2人は音のする方へと自然に顔を向けていた。
「教会だ。結婚式みたいですね」
少し先に小さな教会が見えた。ちょうど式が終わったばかりらしく、参列者が外へと出てきていた。
「高杉さん、見に行ってみましょう」
緒方は高杉の手を引っ張るようにして先へと急いだ。もとがお祭り好きな緒方は、目の前の光景を近くで見たくてうずうずしていた。
やれやれ。高杉はそんな風に思いながら緒方のあとを着いていった。
2人が教会の側まで来た時、ちょうど新郎新婦が中から姿を見せた。幸せそうな2人は笑顔と祝福に囲まれている。
花嫁が投げたブーケは、小さな女の子の腕の中に落ちた。笑顔が、何倍にもなる。幸せな幸せな、空間。
目を輝かせ、緒方はその光景を見つめていた。
「きれいっスね」
緒方は素直に今の気持ちを語った。
「僕は緒方君のウエディングドレス姿の方がいいな」
高杉は即答でそう答えた。その一言で、緒方の思考回路は一瞬止まった。
「え?俺の…っスか?・・・・・・それはちょっと、似合わないと思いますけど」
緒方は自分で想像してみて次の瞬間思いっきり否定した。
「そんなことないよ。緒方君は何着てもかわいいから」
高杉は満面の笑顔でそう答えた。
緒方は何も言えず、ただ顔を赤くした。なんでもなく自分の事を『かわいい』といってくれる高杉が不思議で、でもうれしくて、でも申し訳ないような気がしているのだ。
「オレ、高杉さんのこと好きになってよかった」
緒方は握ったままの手を、ぎゅっと握り締めた。
「幸せにするよ」
高杉はもう一歩緒方に近づき、耳元でそうささやいた。
「俺も、高杉さんのこと幸せにしますよ。俺だけが、高杉さんを幸せに出来るんですから」
緒方がそう言うと、高杉は緒方の手を引っ張るようにして歩き始めた。
「どうしたんですか?高杉さん」
急に歩き出した高杉に、緒方は驚いて声をかけた。
「うちに帰って、緒方君に幸せにしてもらおうと思ってね」
高杉の言葉に緒方は一瞬何も言えずにいた。でもふっと笑顔で高杉を見つめた。
「今日は高杉さんに逢いに行きますよ」
2人は手をつないだまま、仲良く家へと向かった。
そんな幸せな、6月のある日。



6月のある日~タカオガ編~
1999.12.20 Mon