TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「6月のある日」~シキツツ編~

それは、その日偶然見かけた風景。
式を挙げたばかりの2人が、教会の階段を幸せそうな笑顔で降りてくる。参列者も笑顔で祝福の拍手を送っている。花嫁が投げたブーケは、小さな少女の手の中に落ちた。
「いいですね…」
ぽつりと堤はつぶやいた。隣を歩いている式部には聞こえないような、本当に小さな声で。
気付かれてはいけない、そんな思いが堤の心の奥にあった。
「どうしたんですか?」
それでも、なんとなく立ち止まってしまったので式部に気付かれてしまう。
「なんでもないですよ」
堤は式部に視線を戻し、笑ってそう答えた。
式部は堤がそらした視線の先を追った。幸せそうな2人の姿が式部の目の中にも飛び込んできた。
「結婚式ですね」
式部はつぶやく。堤は何も答えなかった。
2人が一緒に暮らし始めてどのくらいたつのだろうか。2人の関係が教師と教え子ではなくなってから…。
「堤さんはドレスと着物、どちらがいいですか?」
式部は堤の手をそっと握り、何気なく、当たり前のようにそうたずねた。
「え?」
急な言葉に堤は一瞬びっくりしたような顔をした。式部は優しい笑顔で堤を見つめている。
「結婚式ですよ。堤さんは、どっちの方が似合うかな」
式部の笑顔とその言葉に、堤はたまらなくうれしくなってつないでいる手に絡みついた。
「そうですね、僕は着物の方が好きですね」
堤は笑って答える。
「でも俺は、堤さんのドレス姿も見てみたいから、お色直しもしましょう」
そして式部は真剣に答えた。
「僕としては、式部くんの羽織姿の方が見てみたいですよ。かっこいいんでしょうね」
いつも以上にかっこよくなった式部を想像して、堤の顔はぽっと赤くなった。
「堤さんのほうが素敵ですよ。絶対」
式部は絡み付いていない逆の腕でそっと堤を抱き寄せた。
「これからも、ずっとずっと幸せにして下さいね」
式部にもたれかかって、堤はそっとつぶやいた。
「当たり前ですよ。一生幸せにします」
式部はそう言って抱きしめる腕に力を込めた。そして誓うようにそっとキスをする。
教会の鐘が鳴り響く。
世界中の、すべての幸せな2人のために…。



6月のある日~シキツツ編~
1999.11.24 Wed