TeaParty ~紅茶のお茶会~

『世紀末のお茶会』

「6月のある日」~きっとセンサカ編~ 1800Hit 凌様へ♪

昨日までの雨が嘘のように晴れた6月のある日。
坂本は特に目的なく散歩をしていた。
―――しかし…。何もする事がないというのは、暇なものだな。
などと、至極当たり前のことを考えながら足は適当な方向へと向かってる。
―――この先は何だったかな。
あまり通ったことのないその道に、坂本は何か感じるものがあって無意識に曲がった。何となく周りを見渡しながら歩いていると前方に小さな建物が見えた。
「教会?」
坂本は思わず声に出してそう言うと、足早にその教会を目指した。
町外れにある小さな教会。木々に囲まれひっそりと建っている。
近付くにつれて、にぎやかなざわめきが聞こえてくる。教会の目の前まで来てみると、ちょうど結婚式の真っ最中だった。
タイミングよく扉から出てきた新郎新婦の周りは、祝福の声と笑顔でいっぱいになった。それに答えるように、花嫁は手に持ったブーケを空高く放り投げた。
「あっ」
坂本はそのブーケを目で追い、思わず一歩踏み出していた。
―――届く訳が、ないではないか。
坂本が立っているのは、そのにぎやかな人垣からはだいぶ離れていた。
無意識にとった自分の行動がなんだか信じられなくて、坂本は小さく笑った。
ちょうど同じ時、坂本とは逆の方向からその教会までの道を桂は歩いていた。
設計図を持って説明に行った仕事帰り。そんな桂の目に映ったものは、幸せな笑顔がたくさん集まる教会よりも、ブーケを必死な目で追いかけている坂本の表情だった。
桂は自然に歩みを止め、自分でも気付かない位優しい眼差しで坂本の事を見つめている。
―――坂本さん…。
無性にその坂本の声が聞きたくて、桂は足早に坂本の傍に歩み寄った。


「ブーケ、欲しかったんですか?」
その結婚式の風景を、まるで絵を見るかのようにジッと見つめたままの坂本に、桂は後ろから声をかけた。
「せ、千太郎…!」
突然の、それも思いがけない人物の登場に坂本はびっくりして叫ぶと、急に顔を赤くした。
「何でこんなところに…」
動揺したまま、坂本は考えるより先にその言葉を発していた。
「俺は仕事帰りです。坂本さんこそ、こんな時間にどうしたんですか?」
別に目的があってその場に居たわけではない坂本にとって、その質問はちょっと、ぐさっと来るものがあった。
「べ、別に…」
何となく弱気にそう答えた坂本の表情で、ただの散歩の途中だと桂には分かってしまう。
いつもならここで、嫌みの一つも言ってやりたい桂だったけれど、さっき見た坂本の表情に気分を良くしていたのでやめることにした。
「特に用がないなら、一緒に帰りませんか?」
何か言われるであろうと思っていた坂本は、桂の意外な一言に驚いて思わずその顔を見つめてしまう。
「帰らないなら置いていきますよ」
呆気にとられたままの坂本に、桂は何でもないようにそう言って先に歩き始めてしまった。
「あ、いや、私も帰るところだ」
一緒に…とはなかなか素直に言えなくて、坂本は桂を追い越す勢いで歩き始めた。
そんな坂本を見て、桂は笑みを隠せない。小さく笑うとめざとく見つけられてしまった。
「何がおかしい」
無気になって言うところも、またおかしくて、桂は答えず笑っていた。
「千太郎!」
何をどう言っていいか分からなくて、坂本は桂の名前を呼んだ。
「そう言えば、さっきの質問にまだ答えて貰ってないですよ」
桂は返事をする代わりにそう言った。
「質問?」
何の事か分からない坂本はその言葉に首を傾げた。
「ブーケですよ。欲しかったんですか?」
桂のその一言で、坂本の顔はまた赤くなった。自分のとった行動と、それを桂に見られていたことが、何とも言えずに恥ずかしく感じたのだ。
「俺が持たせてあげましょうか?」
何も言えなくなっている坂本に、桂は一言そう言って、その表情をうかがっている。
「…!!な、なんで私がっ!」
思わず坂本は叫んでいた。
それを聞いて桂も言葉を返す。
「人が親切に言ってあげた言葉に、その返事はないでしょう?」
そして…。いつものように言い合いが始まってしまうのだった。


―――まったく、素直じゃないな…。
そう思ったのは、果たして坂本なのか、桂なのか…。


遠くで、教会の鐘が鳴っていた。
喧嘩するほど仲がいい、はずの、2人のために……。



6月のある日~きっとセンサカ編~
2000.9.22