TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

You're my valentine

「そうだ、これ」
 練習帰りの帰り道、いつもの分かれ道となる交差点で、不意に土浦から小さな箱を差し出された。
 これ、という以上の説明はなく差し出されたそれを、俺はただ、見つめてしまった。
 青いチェックの包装紙に包まれたその箱には紺色のリボンが掛けられ、それが土浦からのプレゼントなのだということはわかる。
 今日一日で、形や色は違えども何度か目の前に差し出されたそのプレゼントたちのことを思い出せばその中身も想像がつくのだが、それが土浦から差し出されるとは思ってもいなかったから、俺はどう反応するべきなのかを全く考えていなかった。
「もらってくれないと、困るんだが…」
 土浦の言葉にしてはどこか頼りない響きでそう言われ、俺はハッとしてすぐにその箱を受け取った。
「ありがとう。君からもらえるとは思っていなかったから、驚いた」
 本心を口に出せば、土浦は少し困ったような顔で俺とは少し違うほうを向いてしまった。
「まぁ、せっかくだし、イベント事に踊らされるのも悪くないかなってさ」
 ぼそぼそと、視線を逸らしたままつぶやく土浦の表情が、困ったものから少し照れたものへと変わっていく。
 その表情が、俺を幸福にする。
「ありがとう、本当に嬉しい」
 ぎゅっと抱き締めたい衝動に駆られ、でもそれは叶わないから、俺はもらったその箱をそっと胸の辺りまで引き寄せた。
「それは、何より…」
 目はまだ逸らされたままの、照れくさそうな土浦の言葉が俺をまた幸せにする。
 くだらないとどこかで思っていたイベントも、当事者になってみると嬉しいものなのだと、素直に思うことが出来た。
「君にとっての特別なんだと感じる瞬間は、本当に幸せなんだ」
 やっとこちらを向いてくれるようになった土浦を真っ直ぐに見つめ、俺は想いを込めてささやいた。
「なっ…。っていうか、いつ俺が特別とか言ったよ。義理に決まってるだろ、義理」
 慌てたような土浦その顔が、本当に目の前で真っ赤に染まっていく。
「例え義理でも、土浦からもらえたことが嬉しい」
 どちらかといえば素直に本心を言ってくれるわけではないと知っているから、だから照れ隠しに言った言葉をそのままの意味で受け取ってはいない。
 そして、もし例えそれが言葉通りだったのだとしても、嬉しいと思う気持ちが何の偽りもない俺の本心であることには変わらない。
「ありがとう、土浦」
 何度、言葉にしてもこの気持ちは伝わらない気がして、俺はそっと手袋越しの土浦の指に俺のそれを絡ませた。
「…義理じゃ、ないからな」
 普段はすぐに解かれてしまうその指が強く絡んできて、そして小さく、本当に小さくつぶやくように耳元で告げられたその言葉が、本当に本当に嬉しくて、最高に幸せだと思った。



You're my valentine
2015.2.14
コルダ話86作目。
話の中に、チョコもバレンタインという言葉もないけれど
バレンタインデーのお話です。
急に思い立って、久し振りに1日で仕上げました!(短いけど…)