TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

今日だけは特別 *

 部屋に漂う甘い香りの中、俺は幸せなけだるさのまま、土浦を抱き締める腕に力を込めた。
「お前、しつこいっ」
 途端、ちょうど胸の辺りから文句の言葉が聞こえてきた。
 意識を飛ばすように落ちて行ったのは数分前で、まだそのまま寝ているのだろうと思っていたが、どうやら目を覚ましていたらしい。
「抱き締めただけだろう。でも確かに、こうやって抱き締めているだけでそそられるな」
 まだ完全に冷め切ってはいないであろう肌の上に指を這わせれば、期待を裏切らない反応を全身で返してくれるから嬉しくなってしまう。
「っあ…、月森、マジで、もう……ぅん…」
 無理と続いたのであろうその訴えを言葉で聞きたくなくて唇を塞げば、その隙間から甘い吐息がこぼれて俺はまた抱き締める腕に力を込めた。
 土浦の熱をもっと感じたいと思う気持ちがあることは否定出来ないが、だからといってこれ以上、土浦に無理をさせようと本気で思っているわけではない。
 ただ、今日は本当に嬉しくて幸せで、俺はもう少しだけその気分に浸っていたいと思ってしまう。
「土浦…」
 愛しさを込めてその名をささやけば、おずおずとした仕草で土浦の腕も俺の背へと回された。
「今日だけ、だからな…」
 小さな声で告げられる、俺を甘やかすその言葉が堪らない。でもこれ以上を望むと罰が当たりそうで、俺は土浦を抱き締めることだけに留めておいた。
 密着する肌が、分け合うお互いの体温が、そして重なる鼓動が心地いい。
「そういえばケーキ…、全部、食ったのか?」
 ふと思い出したようにつぶやいた声にその顔を見ようと下を向くが、言った本人は顔を伏せていて上げようとしない。
「あぁ、もちろん。ケーキも土浦も、とても美味しかった。ありがとう」
 どうして顔を上げないのかわかっていてわざとその耳元でささやけば、微かに見えるその顔が真っ赤に染まっていく様がまた、俺を堪らなくさせる。
 ぎゅっと抱き締めれば、土浦からはまだ生クリームの甘い香りがするような気がする。
「っとに、今日だけだからなっ!」
 叫ぶようなその声が俺の肌をくすぐるのもまた堪らず、俺は少し強引に顔を上げさせてその唇へとキスをする。
 何度も何度も触れたそこは、赤く熟して俺を甘く誘う。
 さっきまでの強気な声とは裏腹に、俺を見つめる土浦の瞳は誘うように潤んでいる。そうさせたのが自分だという自覚以上に、土浦の意思なのだと都合のいい解釈をしてしまいたくなる。
「これ以上、俺を煽らないでくれ。自制心がもちそうにない」
 それでも抱き締める腕を離せなくて更に強く引き寄せれば、土浦の腕もまた、俺のことをそっと抱き締めてきた。
「今日は特別な日だから…月森の誕生日だから。だから、特別に甘やかしてやる…」
 そして土浦からキスをされれば、俺にはもう、それを辞退する考えなど浮かんでこなかった。

 誕生日など俺にとっては特別な日でもなんでもないと思っていたけれど、君が祝ってくれるなら、それは俺にとってもやはり特別な日になる。
 たくさんの幸せと、たくさんの気持ちに感謝を込めて。
 君に出逢えたことに、君が傍にいてくれることに、今日というこの日に、ありがとう。

 想いを込めてキスをすれば、同じ想いでキスを返してくれることが、本当に本当に幸せだと思った。



今日だけは特別
2012.4.24
コルダ話73作目。
つっきーお誕生日おめでとう~♪
微妙に微裏チックなお話ですが、色々とご想像にお・ま・か・せ♪的な
そんな感じに仕上げてみました^^