TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

瞳の罠

 真っ直ぐな瞳にじっと見られていると、どうにも落ち着かない。
 好きではないはずなのになんとなくドキドキするし、嫌いなはずなのにそれを嫌だと思っていないことに気付かされる。

 思えば月森の態度は俺に告白してきてからもずっと変わっていない。それはつまり、告白する前からずっとこの真っ直ぐな瞳で見られていたってことで、俺はそれをなんでもなく受け止めていたってことだ。
 月森の気持ちなんて知らなかったし、ずっと嫌われているんだと思っていた。だからその瞳に見られていたってなんとも思わなかったが、そこに違う感情があるのだと知ってしまった今、俺はその瞳をどう受け止めたらいいのかわからない。

 いや、そこはどう思われていようと、俺がどう思うかで決めればいいことで、本当は悩むようなところじゃない。ないはずなのだが、俺は自分の気持ちを決めかねている。
 嫌じゃないのだ。月森に見つめられることも、月森に好きだと言われることも、俺は嫌だなんてこれっぽっちも思っていない。

 だが、喜んでいくらでも見つめてくれなんて思っているわけでもないし、俺も月森のことが好きというわけでもない。
 月森からの好意は嫌じゃない。でも俺は同じ好意を返せない。だから月森の好意をどう受け止めればいいのかわからない。

 月森は俺に返事を求めていない。ただ知っていてほしいのだと、言わずにはいられなかったのだと、そう言った月森の瞳は今までに見たことのないものだった。
 迷惑だと思ったのならすまないと謝られ、そう思うのなら口に出すなと思いつつ、今までにない殊勝な態度とその瞳が俺にだけ向けられたのだと思ったら、嫌な気分になるどころかなんだか不思議な気分になった。

 だから答える必要のない返事を、俺はずっと考えてしまう。
 好きじゃない。好きになんかなるわけない。俺が月森を好きになるはずがない。
 そう思えばそう思うほど、俺は月森を意識してしまう。

 真っ直ぐな瞳が、俺の意識を月森に引き寄せる。真剣な瞳が、俺の思考を奪っていく。
 じっと見つめてくる月森の瞳に、俺が映っている。俺はもう、その瞳から逃れられない。



瞳の罠
2015.8.28-2019.3.1
コルダ話93作目。
土浦君が本当は答えが出ていることに
グルグルと考え込むのは紅茶のデフォルトです。