TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

二人きりの時間2 *

 深い口付けの角度を変える度に甘い声が零れ落ちる。
 絡め合っていた舌を解いてゆっくりと唇を離せば、物足りなさそうな瞳が俺を見上げていた。
 唇の代わりに指でなぞると舌先が触れ、その熱さに煽られるように俺はもう一度、唇を重ねた。
 しなやかに反らされた背と壁に出来た隙間へと手を差し入れて腰を引き寄せれば、布越しにお互いの熱が触れる。
 身体が覚えているその先の快楽を思い出し、俺の熱は更に上がっていく。
「土浦…」
 更なる熱を望む衝動が込み上げてきて、その気持ちを伝えるように土浦の顔を覗き込めば、ゆっくりと上げられた瞼の下に濡れた瞳が隠されていた。
「月、森…」
 普段の土浦からは想像の出来ない、けれど記憶と共に刻まれている声で呼ばれ、俺の中にある何かが外れた音を聞いたような気がした。

「大丈夫か?」
 浅い呼吸を繰り返しながら懸命に力を抜こうとしている姿に、そうさせているのが自分だという自覚があるからこそ声を掛ければ、ぎゅっと閉じられた目尻から一筋の涙が零れた。
「大、丈夫、だ…」
 その涙を隠そうともせず、けれど土浦は何でもないとでもいうように笑顔を作ろうとしている。
 そんな土浦の気持ちが俺の理性を砕く。無理はさせたくないのに、どうしてもそれ以上を求めてしまう。
 土浦の中は溶かされてしまいそうなほど熱く、その身体は触れる度に柔らかく綻んでいく。
 こんな風に触れたことはまだ数えられるほどしかないが、その度にもっともっとと求める気持ちが溢れてくるのを止められない。
 土浦の熱さをもっと感じたくて、土浦にも俺の熱さを感じて欲しくて、ゆっくりと、だが見つけ出したその場所を狙いながら進んでいく。
 逃げそうになる身体を引き寄せれば嬌声が上がり、震える手が何かを縋るように伸ばされて俺の腕を掴んでくる。
 片方の手を背へと誘い、もう片方の手をやんわりと握り締めれば、強い力で握り返された。

「すまない…」
 腕の中でぐったりとしている土浦に声を掛けると、気だるそうな表情が一転、意志の強そうな瞳で俺を睨んできた。
「だから、謝るならするなって言ってるだろう。それより月森、お前は謝らなくちゃいけないことをしたって思ってるのかよ」
 真っ直ぐに俺を見つめてくる視線は鋭いのに、その顔にはそれとはまた違う表情が含まれているような気がする。
「いや。だが、君に無理をさせたという自覚はあるんだ」
「気にするな」
 土浦の表情から気持ちが読み取れなくて見つめ返せば、首の後ろへと回された腕に引き寄せられた。
「そういうわけには…」
 どうしても歯止めがきかなくて、その全てを手に入れてもまだ足りないと思う気持ちを止められなかった。
 今もこんな風に触れられたら、理性がもたなくなりそうになる。
 顔を見て話をしたいと思う気持ちと、それよりもこのままでは燻っている熱にまた火がついてしまいそうな予感で土浦から少し距離を作ろうとするが、抱き締めてくる腕は案外強くてそれは叶わない。
「お前、相当、鈍いよな…」
 諦めて力を抜けば、ため息交じりの言葉がつぶやかれた。
 何のことだろうと思い、何とか顔だけ上げて土浦を見れば呆れたような笑顔がそこにあって、そのままもう一度引き寄せられて唇が重なる。
「少しは察しろよ。鈍過ぎるのは嫌われるぜ…」
 それは本当に触れるだけですぐに離れたが、今の俺を煽るのには十分過ぎる。
 俺を見上げる瞳が、少し開いた唇が、俺を誘う。
「土、浦…」
 頬へと手を伸ばせば瞼が落ち、俺は誘われるままに口付けを落とす。
 もしかして土浦も、俺に触れたいと、触れて欲しいと思っていたのだろうか。
 もしもそうならば、こんなにも嬉しいことはない。
 ぎこちない空気も距離感も、全て緊張からくる態度だったのだと思い当たれば、その気持ちを察することが出来なかった俺は本当に鈍かったのだと自分でも思った。
「また、誘ってもいいだろうか」
「な、何をだよ」
 土浦を腕の中に抱き締めて尋ねれば、肩を震わせた振動が微かに伝わってくる。
「一緒の練習も、こうやって二人きりで過ごすことも」
 わざと耳元に囁くように告げれば、肩に埋まるような形になっていた顔が上がり軽く睨まれた。
 さっきから土浦には睨まれてばかりだが、その表情の中に隠された気持ちを知った今は、その表情さえ愛しいと思えてしまう。
「イエス以外の返事は、聞く気はないがな」
 更にそう付け加えれば睨みながら照れるという器用な表情を見せられ、俺はなんだか嬉しくて仕方なかった。
「じゃあ、聞くな。ついでに笑うな」
 俺の気持ちは無意識に表情へと表れていたらしい。
 抗議の言葉とともに腕から逃れるように押されたが、嬉しい気持ちにまかせてやんわりと抱き込んでしまえば大きなため息を落としただけで、もう逃げる素振りは見せなかった。

 一緒に過ごす理由は何でもいい。ただ土浦と二人、一緒に居られればそれだけでいい。
「後でまた、一緒に合わせよう。二人の音楽を奏で合おう」
 弾く曲は何でもいい。そして弾く理由などなくてもいい。ただ一緒に演奏したい。
「そうだな」
 一緒に過ごす時間が当たり前になればいい。お互いの体温が、すぐ傍にあることを感じていたい。

 二人きりの時間があれば、あとは何もいらない。



二人きりの時間
2010.10.14
コルダ話61作目。
付き合い始めてもまだちょっぴりぎこちない二人。
でも本心はうずうずしている感じで^^
相変わらず逃げた表現ですが、これは微裏になるのでしょうか…。