TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

遠距離恋愛のクリスマス

 12月のある日、カフェエリアでクラスメイトにクリスマスの予定を聞かれ、先輩の手伝いでボランティアに参加するのだと俺は答えた。
 話の輪の中にいた何人かから同士と言われて喜ばれ、その勢いで恋人のいる奴らに文句という名のひがみをぶつけている会話に、いないわけじゃあないんだが、と思いつつ、クリスマスに恋人との予定がない=恋人がいないと認識されたのならば変なことをしゃべって色々と詮索されるのも面倒だなと思い、あいまいな相槌を打ちつつ、俺は用事があるからとその場から離れた。
 別の日にも廊下ですれ違ったサッカー部の友達とクリスマスの話になり、ここでもやっぱり恋人がいるとかいないとか、予定があるとかないとかそんな話題になり、ここでもボランティアに参加するという事実だけを伝えれば、独り者は淋しいなと言われてしまった。
 その後も何かと話題はクリスマスのことが多く、一人で過ごすのは淋しいとか、今年も友人たちでパーティーだとか、初めて恋人と過ごすクリスマスだからどうしようとか、そんな会話が交わされることが多くなり、世間一般的にクリスマスには恋人と一緒に過ごすことが当り前というか、理想になっているんだなと感心してしまった。
 例年、クリスマスには母親のピアノ教室で行うパーティーに手伝いで駆り出されることも多く、誰か特定の人だけと一緒に過ごしたことは今までに一度もない。そのせいもあるのかもしれないが、恋人と一緒に過ごすなんて考えてもいなかったと言ったら怒られるだろうか、と考えてみたが、怒られはしないような気がする。
 久し振りに電話で話をしたときに一応、なんとなくクリスマスの予定を聞いてみたが、コンサートに出席することになったと言われただけで、聴きに来ないかと誘われることはなく、君はと尋ねられた。
 まぁ、誘われたところで聴きになんて行かれないことはわかっているから、それは当たり前のことだ。
「俺は王崎先輩に頼まれて、ボランティアでピアノを弾く予定だ」
『そうか、お互い、音楽漬けの毎日だな』
 ほらな、考えることの中心はいつも音楽のことで、世間一般のクリスマスは俺たちには当てはまらない。クリスマスだから会いたいとか、クリスマスだから一緒に過ごしたいとか、そんなことを考えるのは二の次で、今は目標に向かって進むことのほうが大切だと思っている。
「そっちのクリスマスってどうなんだ?」
『今はマーケットが開かれて、毎日がお祭りのようだ。観光客も多くて一段と盛り上がっている』
 それを見に行きたいと思う気持ちはある。だがそれは今じゃない。もっと遠い未来でいい。だから声には出さない。
「じゃあ、コンサート、頑張れよ。またな」
『ああ、君も。体調にはくれぐれも気を付けてくれ』
 短い電話を切り、ピアノの鍵盤蓋を開ける。クリスマスに弾く予定の曲を練習しないといけない。
 部屋に響くピアノの音色に、あいつが奏でるヴァイオリンが頭の中で混ざり合う。ピアノを弾いているときは、あいつをいつだって隣に感じることが出来る。真っ直ぐな音色を追いかけて、揺るぎない音色に追いかけられて、二つの音はどこまでも響き渡る。
 いつか本当に同じ舞台で一緒に弾くその日まで、そしてずっと並んで進んでいくために、今はお互いがそれぞれの場所で頑張ることが大切だ。
 遠い空の下、頑張っているあいつには負けられない。
「だよな」
 音色の余韻に包まれながら、俺はそう問いかけた。
『当たり前だ』
 そんな返事が、聞こえたような気がした。



遠距離恋愛のクリスマス
2017.12.25
コルダ話92作目。
クリスマス話ですが甘さは超控えめで。
本当はもっと甘くない感じだったのですが
やっぱりクリスマスなので^^