TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

Dear R

毎年送っていたバースデーカードに対して、何かを期待していたわけじゃない。
思い出せるのは不機嫌そうな顔ばかりで、笑顔を向けられた記憶なんて一度もない。
だからその封筒を見た瞬間に感じたのは驚きだ。

真っ白な封筒に、見覚えのある字で住所と俺の名前。裏を返してみれば、L.Tのイニシャルのみ。

同じようなものを送ったことがあるからこそ驚いた。
そしてエアメールじゃないことにも驚かされたが、送り始めてから何年目かにして、初めて届いたのだから更に驚きだ。

初めて送ったときに何のリアクションも返ってこなかったから、もしかしたら本人に届いていないのかもしれないとも考えたし、あるいは届いていてもそのままスルーされているのだろうと思っていた。
その後も毎年送り続けていたのは、期待というよりはたぶん意地だ。

だから驚いて、期待しかけて、不安になった。

誕生日に届いたからといって、中身がそれに伴っているとは限らない。
ずっと仲が悪かったことしかない俺たちだからこそ尚更だ。

なるようになれと封筒を開ければ、俺の送ったものとよく似たカードが1枚。

真ん中には『Happy Birthday』の文字。
左上に手書きの『Dear R』、右下には『L』だけのイニシャル。
そして左のスペースに、更に書き込まれた思いもよらない言葉。

『今までのカードに込められていた君の気持ちが知りたい』
『それがもし俺の勘違いでなければ嬉しいと思う』

これはどういう意味だ。俺はどう受け止めればいい?

あえて使っていたDearの後に、俺には入れられなかった名前を入れてきたこと。
言葉にはできなかった俺の気持ちが、たぶん間違えずに伝わっているらしいこと。
それを聞きたいと、更に嬉しいと伝えてきたこと。

話が急展開過ぎて、頭がついていかれない。
いや、まさかそんなことあるはずないと心のどこかで思っているから、否定しかできないだけだろうか。

だって、素直な気持ちでその言葉を読めば、ものすごく嬉しいことじゃないか。

期待してもいいんだろうか。
本当に気持ちを伝えてもいいんだろうか。
想いは叶うのだろうか。
俺こそ勘違いしていないだろうか。

カードを見つめて一喜一憂していれば、まるで現実に引き戻すかのように、突然、携帯電話の着信音が鳴り響く。
無意識に手を伸ばしてディスプレイを見た瞬間、驚くべき名前がそこに表示されていた。

それは俺が、本当はDearの後に書きたかった名前。
通話ボタンを押して聞こえてきたのは、イニシャルなんかじゃなくて、本当はちゃんと書きたかった俺の名前。

久し振りのその声が思った以上に嬉しくて、でも思い出せるのは不機嫌そうな顔ばかりなのがなんだかおかしくて、俺はつい、笑ってしまった。



Dear R
2019.7.28
コルダ話95作目。
3日前のつっちーお誕生日おめでとう~♪
予告通りに月誕からの続きで土誕編です。
この先の二人が気になる感じですが、想像にお任せです。