TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

Dear

毎年、届くそのバースデーカードに書かれた名前は一文字のイニシャルだけ。
俺は、揺るぎなく真っ直ぐに向けられた瞳を思い出す。

そのカードが初めて届いたのは、ウィーンに留学してすぐの18歳の誕生日だった。
といっても送付先は日本の住所で、実際、手元に届いたときには誕生日などとうに過ぎていた。

真っ白な封筒に、黒いペンで書かれた俺の名前。裏には、一文字だけのイニシャル。

中身のカードはシンプルな既製品で、真ん中には『Happy Birthday』の文字。
左上に手書きの『Dear』、右下に、こちらも手書きの、封筒と同じ『R』のイニシャル。

送り主に、イニシャルにRをもつ人物に心当たりはあったが、送られてくる理由がわからない。
仲は良くなかったと思う。むしろ、悪かったといった方が合っているかもしれない。
でも俺は心当たり以外の人物を思い浮かべられないし、書かれた文字にも見覚えがある。

それから毎年、バースデーカードは俺のもとに届けられた。
カードは毎年シンプルだが違うもので、でも手書きで追記されているのはいつも同じ文字だけ。

だが、Dearの後に、俺の名前は入っていない。

カードに記す文字に、Dearを選んだ理由がわからない。
選んでおいて、そこに俺の名前を入れない理由もわからない。
そもそも毎年、送ってくる意味もわからない。

いや、俺はわかろうと、知ろうとしていないだけだろうか。

届いたカードは全部、机の引き出しにしまってある。
見返したりはしていないが、いつでも見られる場所に、目につく場所にしまっている。

それはまるで、特別扱いだ。

今年もまた、俺の誕生日は過ぎていった。
俺はそのカードが手元に届くのを、今か今かと待ちわびている。
君の、意志の強そうな真っ直ぐな瞳を思い浮かべながら。



Dear
2019.4.26
コルダ話94作目。
6日前のつっきーお誕生日おめでとう~♪
本文に合わせて誕生日後にアップ…
というのはただの言い訳です。
この先が気になるので土誕に続く…予定。