TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

魔法の余韻6

「もしかして蓮って、撫で好き?」
 けだるそうに横になっている土浦に、無理をさせてしまっただろうかと思いながらその髪や頬をそっと撫でていれば、少し眠そうな目がじっと見つめてきた。
 その言葉に答えを探しながら、撫でていた手で土浦の髪の毛を一束、摘まんでみる。自分の髪とはだいぶ違う手触りが、指先に心地いい。
「そんなことはないと思うが…」
 撫でることが好き、というわけではないと思う。こんな風に誰かを撫でたいと思ったことは今までなかったと思う。エーデルシュタインを撫でることはあるが、それはエーデルシュタインが撫でてほしそうにすり寄ってくるからだ。
 そう思いながら、摘まんだ髪を指に絡めてから落としてみる。短い髪は指をすぐにすり抜け、だから何度も何度も繰り返し、その感触を楽しんだ。やっぱり心地いい。
 そういえばさっき、土浦に触れたいかと尋ねられたことを思い出す。あのときは土浦の頬に触れていた。触れる感触は、とても心地よかった。
「だが、梁太郎に触れるのは好きだ。とても心地いい」
 思ったことをそのまま口に出せば、また瞑りかけた土浦の目がパッと開き、そして見る見るうちに顔が赤く染まっていった。
「俺に触れられるのは嫌だろうか?」
 答えがわかっていて、それでも聞いてしまうのは、その答えを土浦の口から聞きたいからだ。
「お前、さっきからずるい」
 土浦は赤い顔のまま睨みつけてくる。その表情が妙に幼く見えて、たまらなく愛おしい。
 本当に、何度思っても足りないくらいに、土浦との出会いを幸せだと思う。それが偶然だったのか、それとも運命だったのか、それはわからないが、そんなことはどちらでもいいと思う。どちらにしても二人は出会い、好きになったことには変わりがない。
「俺が嫌だって言ったら触らないのかよ」
 見上げてくるその視線を受け止めながら、さっきのように素直に欲しいとは言ってくれないのかと、少し残念に思う。だが、それを顔に出すようなことはしない。
「嫌だと言われても、俺は触れることを止められないだろうな」
 そう言って土浦の頬を指の背で撫でると、睨んでいたはずの目が和らいできて嬉しくなる。だから指の背ではなく手のひら全体で包み込むように触れれば、土浦の手が重ねられ、すり寄るように押し付けられた。
「俺も、蓮に触れられるのは、嫌いじゃない…」
 目を伏せ、小さくつぶやくようなその言葉がたまらなく胸を高鳴らせる。素直ではないその言い方もまた、可愛い。
 今日一日で、土浦との距離がぐっと縮まったと思う。これからももっと、縮めていきたい。ずっと傍にいたい。ずっと傍にいてほしい。
「今日は、ありがとう」
 言葉は自然に声になっていた。
 触れたいと思うことも、抱き締めたいと思うことも、お互いの想いが同じではないと叶えることは出来ない。それは好きだと思う気持ちも同じだ。
 だから感謝せずにはいられない。土浦が好きになってくれたことに、土浦を好きになったことに、土浦に出会えたことに、土浦に関する全てのことにどれだけ感謝してもし足りない。
「礼を言われるようなことじゃないだろう」
 見上げてくる土浦が愛しい。
 今の、この幸せがずっと続けばいいと思う。この幸せは手放せない。そのために自分がするべきことはなんだろうか。
 永遠なんて、そんな先のことを保証する術など持ち合わせてはいない。それならば、今のこの気持ちを土浦に伝えようと思う。この先に続く未来のために、この気持ちをひとつずつ積み重ねていきたい。



「それでも俺は、君の存在自体に感謝せずにはいられないんだ」
 蓮の言葉が真っ直ぐに向けられる。その表情はどこか真剣で、でもやわらかな雰囲気でもある。
 蓮にとって、感謝されるほどの存在なのだと、そう思った瞬間にたまらなく胸がぎゅっと締め付けられた。それは痛みではなく甘い甘い喜びとなって全身へと広がっていく。
「君に出会えて、本当によかった」
 見つめる蓮の視線は真剣で、真っ直ぐに心へと届く。触れる手から蓮の気持ちが流れ込んでくるような、そんな気がした。
 出会い方は普通じゃなかったし、あの頃は仲良くなれるなんて全然思っていなかった。
 土浦梁太郎として蓮に接していただけでは蓮をこんなに好きになることはなかったかもしれない。エーデルシュタインとして、学院では見ることのない蓮の素顔を垣間見ることが出来たからこそ、蓮を好きになり、蓮に好きになってほしいと、蓮に愛されたいと、そう思うようになった。
「俺も、蓮に出逢えて嬉しいって思ってる」
 魔法を解いてくれる相手が蓮で本当によかったと思う。もしかしたらそれは結果論なのかもしれないが、それでもやっぱり蓮でよかったと思うし、蓮じゃなきゃ嫌だと思う。
 運命でも偶然でもどっちでもいい。そんなことは大した問題じゃない。
「蓮…」
 名前を呼べば、まるで応えるようなキスが幾度も幾度も落とされる。
 こんな穏やか時間を手に入れられた幸せを、俺はこれからもずっと大切にしていこうと思う。
 今を、そして未来を、大切にしようと思う。



魔法の余韻
2015.9.28
コルダ話88作目。
黒猫の魔法の続きです。
猫と戯れる土浦君を書きたくて続きを書き始めたら
なぜかお初話に発展してしまったという不思議^^;