TeaParty ~紅茶のお茶会~

『音色のお茶会』

あいのことば

 告白からして「嫌いじゃないと思う」などという曖昧な感じだった月森の言葉は今、あの告白が記憶違いだったんじゃないかと思えるくらい明確になった。
 まぁ、もともと自他共に認める犬猿の仲で、口を開けば相手への文句だった俺たちの会話の中で出てきた言葉は容赦ないほどはっきりきっぱり明確だったのだが、文句以外の言葉をこれほどストレートに伝えてくるなどとは想像していなかった。

「土浦、誕生日おめでとう」
 朝一番、挨拶よりも前にそう告げられる。その顔には、何度見ても見慣れない笑みが浮かんでいる。
「あ、ありがとう」
 対する俺の返事は、照れも混ざってなんだかぶっきらぼうになってしまったような気がする。

 夏休みに入り、それでも気兼ねなく練習出来る場所を求めて学院へと足を運ぶ生徒は多い。俺たちも御多分に漏れず練習場所を学院に求め、そして、どうしても迎えに来ると言って聞かない月森に押し切られるようにして一緒に登校するようになった。
 夏休みもまだ数日しか過ぎておらず、未だに一緒に歩くことに慣れない俺とは対照的に、隣を歩く月森は不思議なほど楽しそうで、そして饒舌だった。
 趣味と好みと傾向が全く違うとはいえ音楽という共通の話題があるから会話には困らないのだが、それにしても本当によく二人で話すようになったなぁと感心してしまう。

 練習室には俺のピアノと月森のヴァイオリンが奏でるそれぞれの曲が響く。
 二人とも全く違う曲を弾いているが、お互いの音を邪魔することはなく、それぞれが奏でる音楽の世界が広がっていく。
 俺が一足先にピアノの世界から抜け出すと、練習室は月森のヴァイオリンの音色でいっぱいになる。
 初めて聴いたときはその技術に感嘆し、だがその技術だけしかないような圧倒的な演奏を好きにはなれなかった。
 だが今、月森の演奏は時に甘く、時に切なく、時に激しく、時に愛しく、そんな月森の気持ちが伝わってきて、俺の心を捉えて放してはくれない。

「何か弾いて欲しい曲はあるだろうか?」
 俺の視線に気付いて振り返った月森から向けられる眼差しに、俺は思わず目を逸らしてしまう。
「何かって、急に言われても…」
 窺うような眼差しは本当に真っ直ぐで、そこから気持ちが伝わってくるような気がして、どうしようもなく恥ずかしくなる。
「今日は君の誕生日だ。なんでもリクエストして欲しい」
 そう言った月森が不意に近付いてきて、その手が俺の頬に触れる。
「曲よりも、こちらのほうがいいだろうか」
 更に近付く月森の顔に思わずギュッと目をつぶれば、やわらかいものが頬を掠め、そしてそのまま耳元へと移動していった。
「好きだ、土浦…」
 思いもしなかった行動と言葉に、顔へと熱が一気に上がっていく。
「昨日までの君に、ありがとう。今日の君に、おめでとう」
 耳元でささやかれる言葉に、本当にどうしようもなく恥ずかしくなるのに、嬉しくて嬉しくて堪らない。
「じゃあ、明日からの俺は?」
 恥ずかし過ぎて、嬉し過ぎて、どう答えていいのかわからなくて、小さくつぶやく。
「永遠に愛している」
 こんな台詞を口にするのは本当に月森なんだろうかとか、そんな答えが返ってくるなら恥ずかし過ぎて聞くんじゃなかったとか、疑問も後悔も感じた瞬間に一気に吹き飛んで頭の中が真っ白になる。
「愛している、梁太郎」

 一体誰が、こんな月森を想像しただろう。
 一体誰が、月森のこんな台詞を想像しただろう。
 きっと誰よりも一番想像していなかった俺は、もう本当にどうしていいのかわからなくて、確実に赤くなっている顔をこれでもかっていうくらい、月森の肩口に埋めるようにして隠すのが精一杯だった。



あいのことば
2013.8.12
コルダ話81作目。
土浦君、お誕生日おめでとう~♪
って、だいぶ遅くなってごめんなさい(ぺこりぺこり)
お誕生日話というより、ただの甘い話になった気もします…。