運動能力との関連性では、「歯を食いしばると力が出る」という考え方があります。しかし、これは正しくもあり正しくもない、いわば俗説です。たとえばプロ野球の王貞治氏は現役時代、素振りの練習でも食いしばっていたため、歯が磨り減ってぼろぼろになってしまったというエピソードが残っています。しかし、同時代に活躍した長島茂雄氏などは、打つ瞬間に口を開けていたことが、残された多くの報道写真から明らかです。
北海道医療大学の石島先生らの研究では、全身運動をしているときに歯を食いしばっている人は60%くらい、口は閉じているが食いしばりはないという人がまた11%、残りの人は少し自然に口を開けたままである、という結果でした。つまり、噛み合わせが「発揮する力」に影響するというようなことは、仮に俗説が正しいとしても、それは約60%程度の人にとっての証明でしかありません。
「食いしばると力が出る」という俗説よりも、より真実みがあるのは「食いしばると頭が完全にロックされ、よりスポーツ能力が増す」、こちらの考えの法が理解しやすいかもしれません。頭の固定はあらゆるスポーツの基本で、頭の位置が定まらなければ目から入る情報を動作に正しく反映させることは出来ず、サッカーやバスケットボールなどのボールゲームでは、素早く動きながら目標(ボール、ゴール、敵、味方)の位置を正確に把握するために、さまざまな姿勢で瞬時に頭部を安定させなければいけません。高度なバランス感覚が要求されるスキーや体操、体を完全に静止させて的を狙う射撃や弓道についても同様です。また、ラグビー、ボクシングなどのコンタクト系スポーツでは、頭を衝撃から守るために首の筋力トレーニングは不可欠です。 |