迫りくるいのちへの脅威について。
医学博士 平田國夫 生命尊重センター副代表
いわゆる低用量避妊ピルは日本で1999年3月に解禁され、2011年5月には事後に服用する緊急避妊ピル(モーニングアフターピル)のノルレボ錠も解禁されています。ピルとしては他に月経困難症治療用として超低用量ピルのルナベルも発売されています。この内緊急避妊ピルのノルレボ錠は、スイッチOTC化して、近日中に市中のドラッグで自由に買えるようにする為の薬剤師研修が既に行われています。そしてこれらのピル類とは別に、妊娠早期に薬剤によって堕胎する、いわゆる経口中絶薬ミフェプリストンの製造販売が近日中に許可されようとしています。概要について、先ずピルについて、次いで経口中絶薬について述べさせて頂きます。
ピルは天然の物とは異なり、非常に分解し難い合成エストロゲンと合成プロゲステロンの、二種の合成女性ホルモンの合剤が一般的で、合成エストロゲンが1錠中50μ以上が高容量、50μが中容量、50μ未満が低用量、30μ以下なら超低用量と区分されます。もう一方の合成プロゲステロンは世代ごとに種類が異なり第1世代・ノルエチステロン、第2世代・レボノルゲストレル、第3世代・デソゲストレル、第4世代・ドロスピレノンと分類されています。(ミニピルはレボノルゲストレル0.03㎎のみ含有の経口避妊薬ピルの一種です。)合成プロゲステロン活性は世代が変わるにつれ何倍も強力になっていて、副作用も増え血栓症のリスクは2倍にもなるとWHOが注意しています。超低用量の第4世代ピルのヤーズは日本で月経困難症用(避妊効果も謳っている)として2010年に認可されましたが、2013年迄に3人が血栓症で死亡し、重篤な副作用も多数出た為ブルーレターが出されました。極めて強力な別の物質に置き換わっているので、単に容量が減少したから安全だ、とは言えないのです。緊急避妊薬ノルレボは合成プロゲステロンのレボノルゲストレル1.5㎎を一度に飲みますが、これは毎日1錠飲む低用量避妊ピルのミニピル(0.03mg)50錠分です。これらのピルの避妊機序は1)排卵を抑制する(かなりの率で突破排卵がある)2)頸管粘液の粘張性を増し精子の上昇を遅らせる3)子宮内膜に作用し受精卵の着床を阻害したり、着床直後の受精卵を流産させてしまう極早期化学的中絶作用があるとされています。緊急避妊薬の場合は、特に3)の作用が強調されています。性交後受精すると5~6日で受精卵は子宮内膜に到達します。緊急避妊薬を服用すると急激なホルモン量の変化により子宮内膜は3日から2週間以内に剥落して消退出血(擬似生理)という形で体外に排出されます。受精卵の着床を阻害するだけではなく、着床後の胚を排出したりその成育を阻害したりします。副作用を検討するには、ピルが女性の体のどの部分に作用しているのかを知る必要があります。ピルは卵巣や子宮組織に直接作用するよりも、まず脳の視床下部下垂体系に作用して、卵胞刺激ホルモン及び黄体化ホルモンの分泌を抑制してしまう事によって作用しているのです。脳のこの部分は全身の健康を保つ為の中枢で、ここが狂わせられると体全体に変調を来す危険があります。これらのピルは健康な女性の身体を脳中枢から異常な状態にさせ、その副次的効果を目的とした物質なのです。一度でも服用するとその悪影響は長期間残ってしまいます。日本で1999年に低用量経口避妊薬ピルが解禁された時に生命尊重センターが英国の実情を調査し、ピルによる死者や血栓症で一生苦しむ女性をビデオに収めました。20年経ち日本でも死亡例や血栓症など重篤な副作用が起きているのではないかと厚労省に問い合わせたところ、「2004年から 2020年8月17日までに独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に報告された経口避妊薬(いわゆるピル)等での重篤な副作用症例は3238例であり、内訳は経口避妊薬(緊急避妊薬除く)814例、緊急避妊薬17例、月経困難症治療薬(ヤーズ、ルナベル他)2407例です。また、重篤な血栓症の報告は1678例あり、うち死亡症例(死因問わず)は27例です。死亡症例27例の内訳は、低用量経口避妊薬9例、緊急避妊薬0例、月経困難症治療薬18例です。」-との回答がありました。重篤な血栓症とは脳梗塞、肺動脈血栓、深部静脈血栓、大脳静脈洞血栓など生涯苦しむ深刻な疾患ばかりです。2011年解禁されたばかりの緊急避妊薬による重篤な副作用については、-「緊急避妊薬の重篤副作用症例17例について、副作用名と投与開始日から発現日までの日数の内訳は、異所性妊娠5例(20日2例、17日及び47日各1例、不明1例)、自然流産7例(28日2例、19日及び25日各1例、不明3例)、稽留流産4例(17日、30日、35日、44日各1例)、切迫流産1例(不明)です。」-との回答でした。異所性妊娠とは子宮外妊娠とも呼ばれ、お腹の中で多量の出血を来すなど、重篤な状態を引き起こす可能性があります。発見や対応が遅れると、妊婦の命にもかかわる病気です。以上の重篤な副作用の発生は、他のピルは連日飲み続ける中で起きてきますが、緊急避妊薬はたった一度の使用で短期間に起きている事は重大です。女性の健康といのちを守る為にも緊急避妊薬の医師の処方無しの購入自由化は決して認められてはならないと思います。また今日本で各種ピルによる死者や、血栓症など生涯苦しむ重篤な副作用が、非常に多く発生し続けている事を、政府は繰り返しメディアを通じて発表すべきだと思います。次に経口中絶薬ミフェプリストン(米国販売名ミフェプレックス)についてですが、堕胎がこの薬剤によって行われる場合は、「ミフェプリストン」(別名RU-486)と「ミソプロストール」という2種類の物質を順番に服用することで行われます。「ミフェプリストン」は女性の子宮粘膜への黄体ホルモン作用を阻害し、子宮内膜を非妊娠状態とさせてしまう為、胎児や着床している胚への栄養が絶たれ、子宮内で徐々に餓死させられ命を絶たれてしまいます(グルココルチコイド受容体(GR)拮抗作用としての脳神経や全身に対する影響はまだ未解明)。二日後に子宮収縮剤の「ミソプロストール」を投与して死滅した胎児及び胎嚢と血塊を排出させて堕胎が行われます。大量の出血等の重篤な副作用や外科的掻把手術の追加が必要な例もあります。多くのケースで2週間近く強い腹痛と嘔気が認められ、膣からの出血は更に長期間続く事もあり、30日以上の遷延出血が8%も起こっています。時に止血手術を要する大量出血や死に至る敗血症など全身の重篤な感染症も引き起こします。また子宮内容物の排出が不完全で、外科的に掻把手術が必要になるケースが、日本の治験でも数%発生しています。米国FDAの報告では、2021年6月30日現在、2000年9月に製品が承認されて以来、ミフェプリストンに関連して子宮外妊娠や重篤な全身感染によって26人もの女性の死亡が報告されています。経口中絶薬による堕胎は、自宅で女性自身によって行われる為に、緊急時にも医師の治療が受けらず大変危険です。アクセスは決して簡便では無くて、本剤使用にあたっては産婦人科医に複数回通院し、適応の有無の診断を受ける事が必須となります。最終月経から49日以内なのかの確認、子宮外妊娠、子宮内避妊具使用、副腎障害、ステロイド薬使用、抗凝血剤使用の有無等は医師でも診断は簡単には出来ません。超音波検査も含めて複数回産婦人科に通院して厳重にチェックする必要があり、怠ると死に至る危険すらあります。胎児や血塊の排出後も、残遺物の有無確認の為、胎児の死骸等を女性自身が採取して医師に持参し、チェックを受ける必要があります。その後も敗血症を防ぐ為に血液検査を受ける必要もあります。堕胎後の長引く腹痛や出血の治療にも継続しての通院が必要となり、決して簡便に使用出来るものでは無く、全体にかかる医療費も高額となるのです。母親が堕胎した自分の子の遺骸を見て手に取る為、一生消えない深刻なトラウマを起こして精神科通院が必要になる事もあります。経口中絶薬の使用は、簡便なものではなく手術による吸引法中絶手術よりも、母体の危険も苦痛も医療費もはるかに大きいのです。従来のWHOの発表等をもとに、手術より安全という説は、過去のもので、特に医療水準の高い現在の日本においては全く当てはまらないのです。要点として
1) 早期中絶手術において従来から行われている掻把手術より吸引手術の方が遥かに安全(合併症発生率は掻把術の2分の1から3分の1)であり、厚労省からも令和3年7月に産婦人科医会及び学会に掻把術に代わって吸引手術を推奨する通達が出されています。早期中絶において手術と本剤の安全性を比較する場合は、掻把手術とではなくて吸引法手術と比較する必要があるのです。現在の日本において、経口中絶薬が手術より安全との観点で推奨するのは完全に間違っているのです。
2) 堕胎法を犯す事になります。1剤目のミフェプリストンは母体保護法指定産婦人科医によって医師の前で内服しますが、2剤目の子宮収縮剤のミソプロストールは数日後女性自身の判断で内服する事になります。しかし2剤目を服用する前に堕胎を思い留まり、それをやめて黄体ホルモンの継続補充治療を受けて、出産する事も可能なのです。米国ではこの逆転手段を助ける団体が活動しています。
https://www.abortionpillreversal.com/ しかし2剤目を服用して堕胎すれば、
その最終的判断と実行は女性自身によって行われた事になります。女性 自身には堕胎を行う資格は無く、堕胎法による薬物による自己堕胎罪を犯す事になるはずです。
3) 薬剤師の良心による処方拒否権の必要性。
排卵抑制作用だけではなくて、受精卵や早期胚の子宮内膜着床を阻害して極早期中絶作用も含まれる緊急避妊ピルの処方や、経口中絶薬の処方が薬剤師に指示された場合、小さくても胎児は私達と同じ生きる権利を持っている一人の人間である、との信念を持っておられる薬剤師に対しては、例え医師や薬局で指示されても処方を拒否する権利が与えられ、職場でも不利にならないようにしなければならないと思います。軍隊で上官から命令されても罪のない子どもを殺せば戦争犯罪人になる事と同じです。医師自身は中絶手術や経口中絶薬の処方を、信念に従って行いたくなければ、やらずに済みますが、薬剤師は立場上処方拒否の権利が保障されなければ、精神的にも生活上も非常に苦しみ続ける事になります。
公権力による著しいパワハラ、人権侵害となります。
4) 情報の徹底と重篤な副作用時の賠償について
各種ピルや経口中絶薬は病者にではなくて健康人に処方されます。それゆえ処方前に徹底的に作用機序と副作用、特に死亡を含む重篤な副作用情報を詳しく提示し読んでもらい、女性の承諾サインを得ておかなければ、副作用が起こった時に医療事故として賠償責任が発生する事が考えられます。今まで副作用で亡くなられた方や重篤な障害を受けた方々は、処方前に、はたして死亡例を含むこれらが詳しく提示されていたのでしょうか。諸外国では巨額の賠償訴訟が何件も起こされています。日本でも今後政府、製薬会社、医師、薬剤師に対する訴訟が起こる事が十分考えられています。
5) 今回の治験に関する数々の疑問点
今回の治験に参加した医療機関において、利益相反の申告と審査は正しく行われたのでしょうか?実際の使用に即してフリーな初診者のみを対象にしたのではなく、体調が既に把握されている通院者を対象者にしたのではないでしょうか?また2剤目のミソプロストールの服用後、最も副作用が現れる期間は医療機関に滞在して様子を見る形で行われています。これでは自宅で女性自身が服用して用いられる実際の使用状態とは全く異なっており、とても正しい治験とは言えないはずです。
以上の様に多くの問題点を抱えたまま、強引に進められようとしている緊急避妊ピルの一般市販化や、経口中絶薬ミフェプリストンの製造販売許可は、決して認められてはならないと思います。数か月後に犬や猫ではなくて100%人間の赤ちゃんが生まれて来ると信じているからこそ、邪魔者は早く消してしまうのが女性の権利だと主張する「死の文化」が怒涛の様に押し寄せてきています。これに対して、卵子が受精した瞬間から両親とは異なるいのちが始まり、幼くても人権が守られなければならないとする「いのちの文化」をもって今こそ全力で闘う時ではないでしょうか。
(2022年7月24日)