バール コーシカ
~九州挑戦編~



ススキノは狸小路の6丁目。明らかに目を引く建物。
見慣れない文字。そして放つ異様なオーラ。この時点でキープ決定。
そして例によって店の名前も知らないまま突入。
今回は俺とGの二人。
・・・もっと多人数で行けばまた違った結末もあったかもしれないが・・・。


まずは店内を見回す。もはや必勝パターン。勝った事ないが。
店内にはサラリーマン風が4人。早くも嫌な予感。
「慣れた人しか来ない店」の雰囲気が漂っている。

そして問題のインテリア。
80年代の喫茶店にコンサドーレのポスター。もはや何も語るまい。
雰囲気ぶち壊しという言葉があるがそれは当てはまらない。
何せこの店には雰囲気という言葉が存在しないのだ。
せめてロシア料理店を名乗るなら入り口に年代物の扇風機置くんじゃねぇよヴォケが。


まぁ、内装の査定しに行ってるわけじゃない。肝心のメニューだ。
さすがにウォッカが充実しているが・・・いや、ありすぎだろう、これは。
ウォッカの類だけで10種類はある。細かい説明もついている。これは期待が持てそうだ。
そして探検隊一行は実に興味深いメニューを見つける。

スピリタス 度数96
おぉ、未知との遭遇。
ストレートの酒では中国の白酒の56が今までの最高記録。
あれでも当時(高3)は喉が焼けるような印象を覚えた。あ、今は未成年じゃないっすよ。念の為。
これは頼まなくてはいけないだろうが、グラス一杯なんと950円。
酒税のせいだろうか。他の40度くらいのウォッカは500円なのにひどい違いである。
Gは渋っていたがまぁいい。俺持ちで頼んでくれる。そして飲ます。これ最強。
とりあえず腹ごしらえということで焼きピロシキとボルシチを頼み、ついでに生を一つ。
そしてちょっと期待のウズベク風炊き込み御飯。名前で笑える。いい兆候だ。
朝から何も食べていない俺の胃に96度はキツいだろう。

するとビールと一緒にロールキャベツが出てきた。俺たちは頼んでいないということから見ても
これはお通しなんだろう。豪儀な店である。しかも美味い。
今まで食べたロールキャベツの中でもかなり上位。ロシア料理店に入ったはずだが・・・。


まずはピロシキが出てきた。今日はもう売り切れで一個しかないとの事。
残念だが逆に期待できるということだろう。
しかし想像していた物とはかなり違う。普通のパンだ。
揚げパンを想像していたのは日本人のサガという事だろう。
そして肝心の味。ナイフで二つに切り分けると中にはハムとチーズ。セブンのブリトーか?
さぁ、味は・・・。普通だ。これといってコメントできない。本当に普通。
パンは焼きたてで美味かったがそれだけ。こんなんなら北欧行くっちゅーねん。

そしてロシア料理の代名詞、ボルシチ。
お?赤い。日本人には馴染みのない色だ。トマトスープとも違う。
一見すると辛そうだが、店のおばちゃん(名物)のコメントによると
上に乗っている赤いカブの色らしい。これが入らなければボルシチとは言わないそうだ。
そして、俺たちを衝撃が襲う。

G「これなんて言うんですか?」
おばちゃん「カブの名前?知らない。
二人「!?」

ロシア料理屋の看板下ろせコンチクショウ。
気を取り直し箸をつける。
おばちゃんのせいでかなり心配だったのだが、美味い。実にいい味だ。
コンソメスープのような味なのだが何とも言えないいい味が出ている。

これは謎のカブの味だろうか?しかし、カブを半分ほどかじったGの動きが止まった。
そして俺の皿に投げ捨てるように入れる。
いやな予感がするが仕方ない。食べてみるか・・・。
・・・予感的中。なんて味だ。不慣れとかいうレベルではない。
明らかに人間が口にしていいものではない。劇薬。いや、もはや毒。
しかしボルシチは美味い。世の中には不思議があふれているのだなぁ。


それからしばらく経ち、炊き込み御飯が姿を現した。
時間がかかるのはしょうがない。炊き込み御飯だもの。
だが、目の前に置かれた物体に俺たちは驚愕した。

二人「・・・チキンライス?」

どこをどう炊き込んだのか全く想像がつかない。
さすがは世界一の国土を誇ったソ連連邦。
ハラショー、ロシア。

味はノーコメントで。いや、つーかコメントできないです。はい。
不慣れ、としか言い様がない。旨みというものを感じることが出来ないのだ。
それにどう炊き込んだんかわからんし。得体の知れないものを食べるのは気分が悪い。
食べられないことはないのだが、美味いとも不味いともいえない。グレーゾーンだ。


そして炊き込みチキンライスが来たとき、計画は実行に移された。
まずは探りを入れる為におばちゃんを呼び止める。

俺「このスピリタスってお酒、実際どんな感じですか?」
ひどい質問もあったものである。抽象的過ぎる。
だが、無謀だった。抽象的表現という分野でこのおばちゃんに勝てる者などいなかったのだ。
それを俺たちは次の瞬間知る事になる。


おばちゃん「あぁ、それはもうねぇ、ぽわっとなるんだわ。ぽわっ。」


なんだよ一体なんなんだよ「ぽわっ」て。
そんな酒の表現聞いたことねぇぞ。
札幌に長島監督出現だよ畜生。
勝てねぇぞ俺らじゃミスターベースボールには。
だがおばちゃんの猛攻はとどまる所を知らない。

おばちゃん「あ、火はつけないでね。火傷した人いるから。」

何?何脅迫してんのこの人。
こっちは客だぞ一応。商売っ気出せよ少しはさぁ。
だがもうこの人は止まらない。

おばちゃん「あなたお酒強い?3人ぐらい倒れた人いるからね。」

だから脅迫すんなっつってんだよゴルァ!
もはや何を言っても無駄だ。俺は腹をくくりスピリタスを注文した。
ほどなくして俺たちの前に霜が着くほど冷やしたグラスとボトルが持ってこられる。

おばちゃん「水置いとくわね。水飲まないと危ないからね?」

ホント倒れて救急車呼んでやろうかこの野郎!
まぁいい。ある意味おばちゃん以上の強敵が現れたのだ。無駄な体力を使う余裕はない。

さて、一見何のことはない。水と見紛うほどの透明度だ。
だが妙な威圧感がある。シベリアの冬でも凍らないというその純度の高い液体。
液状のニトログリセリン並みの破壊力を秘めているだろう。
まずはGがその液体を口に運んだ。

G「!!!」

悶絶しお絞りで口元をぬぐい、狂ったように水を飲む。
ええい、貴様もかブルータス。
何故揃いも揃って俺を脅迫するような行動をとるのだ?
だが、その液体を口に含んだ瞬間、その謎は解けることとなる。

俺「!!!」

これは・・・確かにきつい。
いや、きついなどというものではない。
火をつけるどころか自然に発火している。どう考えてもおかしい。
ロシアは核ミサイルなんかよりこれで武装したほうがよっぽど恐れられるだろう。

だが、きついだけではない。
強烈な刺激の中にある豊かな味わい。
虜になる人がいるのも実に納得できる。体も温まる。
だがやはり、この刺激は強すぎるだろう。
これを好んで何杯も飲めるのはロシア人くらいだろう。そう思っていた時・・・。

おばちゃん「以前九州の人が4杯飲んでいってねぇ。それがうちの記録なんだわ。」

い、いたよ!日本人にも対抗できる人種が!
さすがは焼酎を産湯に育った九州人!
学校給食に紙パックで焼酎が出る国は違うね!
ロシアにも負けたが九州にも負けた。
確かに筆者もかなりのハイペースで飲んだらしく、おばちゃんが驚いていたが
4杯には遠く及ばない。俺など乳臭いヒヨッコだったのだ。
「1日に2度負けるバカがいるか。」という範馬勇次郎氏の名言があるが
俺の気持ちは清清しかった。
そう、自分が誇り高き日本人類であること。
偉大なる九州人と同じ血が流れている事を心に刻めたのだから・・・。



バール コーシカ



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