田所里夏女史インタビュー

1998/11/22 23:24〜25:19 IRCにて収録


---------- それでは田所さんのインタビューを始めたいと思います。よろしくお願いします。

よろしくお願いします。

---------- 最初にプロフィールの方をお願いできますか?

はい、では。本名は田所 里夏(たどころ りか)です。現在某理系大学院の2年(実は留年しているので3年目)です。大学院に来る前は社会人を6年ほど、2回目の大学の学部を2年ほどやってました。だもので、結構年だけは…(笑)

---------- エヴァのHPをやっておられましたよね?(って、過去形でいいのかな?)

 残骸はまだのこっているのですが、ほとんど更新してませんね。過去形でOKです(^_^;

---------- どのようなページだったかお聞かせ願えますか?

 「人格移植OS研究室」というホームページを持っています。現在でも一応削除はしていません。ただ、内容は期待しないで下さい。(苦笑)
エヴァのページといっても、小説を載せようとしてしくじり、あとはエヴァ的な何かを求めて日々駄文を書いていた、というのが真相です。本当は、ホームページ上で「MAGI SYSTEM」を構築する狙いがあったのですが、今となっては…もうはずしてますね(笑)

---------- 具体的に「MAGI」で狙っていた事でお話頂ける事なんかありますか?

当初の予定では、JAVAで人工知能クライアント&サーバーを作る予定でした。それが実現しないうちに、放送終了1周年を迎えてしまいました。1年経ったら、2年はあっと言う間でしたね…

---------- 当時はJAVAもたいしたこと出来ませんでしたから(^^;

---------- ページを立ち上げられたのはいつごろだったんですか?

かなり遅くて、放送終了してから3ヶ月も経った頃でしょうか。だから、1996の5月です。(1996.05.18)

---------- そもそも、ページ始めたきっかけってなんだったんでしょう?

もともと、HPを熱心にやっていたわけではないんです。それまで、自分自身のページは一切持っていませんでしたし。ただ、あの番組が後半になり、fj.recでエヴァの話題が盛り上がるにしたがって、これは、私もなにか発信しなければぁ〜という気分になったのを覚えています。祭りに参加するノリとでも言えばよいのでしょうか。

---------- 始めてみて何か感じる事ってありましたか?

その当時はエヴァ系HPが乱立する寸前だったので、比較的反響がありました。「MAGI SYSTEM、作ったら下さい」とか(笑)あと、一緒に書いていた日記を結構よんでた人がいて、驚きました。中でも一番驚いたのは「第3新東京市ノ解析」の西村さんから駒場へのイベント・メールが来たことですね。それ以前にもしかしたら、私があの現地調査に感動してメールしていたかもしれません。
 とにかく、HPを作るって言うのは、こういうことなんだと思うことしきりでした。逆に、私の方からメールをHPの作者さんへ出したこともたくさんありました。それが現在の交友関係の元になっていると思うと…(笑)

---------- JAVAやろうっていうのは、やはりご専門の関係ですか?

 ですね。JAVA Scriptがやっと使えるかな程度になって、Mac用の開発環境も出てきた頃だったかな? エヴァに関しては、専門がいわゆる情報科学・計算機科学の類なので、興味はその辺から始まっていると思います。

---------- 理系の人間にとってエヴァって評価し易かったんでしょうかね。

 評価と言うより、自分の専門に近ければ近いほど、その実現性などを考えてしまうと言うことがあるのではないでしょうか? 取っつき易い、というのが結構キーワードだった気がします。客観的な評価であるかどうかは、ちょっと無理だった気が…

---------- あらゆる専門分野の人が、自分の専門に近いと感じられたのでとっつき易かった?

そう思います。文系の人にはシンジ君の心理的葛藤とか人間関係に興味が向きやすく、あるいは軍事オタクな人はNERVという組織とUNの社会科学的関係、理系な人は、理学・化学・コンピュータ等々、ありとあらゆる「取っつき易さ」があったと思います。実際、中身のあるHPは多岐にわたっていたと思います。

---------- 私自身、自分の専門を方向づけたのが攻殻機動隊なのですが、エヴァでそうなる若者達って多そうですよね?

 多いと思いますね。特に人工知能は近年開発が活発でなく、人気が下り坂だったのが、バイオ関係のからみもいれて、結構これからはやるんじゃないかと思ってます。攻殻機動隊は、私も好きだけど(笑)

---------- 田所さん自身、そういう作品ってありましたか?

 どれがどうとは思わないんですが、小学生の頃にウルトラマン・シリーズが全盛で、出てきた怪獣の名前を暗記してました(笑)あと、サンダーバードは大好きでしたし、その他の特撮モノはほとんど網羅的に見ていました。アニメの最初のとどめが宇宙戦艦ヤマトの初回放送だった、という経歴です。恥ずかしながらファンクラブにも入ってました。あれは私のアニメ人生唯一の汚点です(^_^;
 サンダーバードは初回に見ていたかも…(年がばれますが)

---------- 田所さんのエヴァ以外の活動についてお聞きしたいのですが。

 エヴァ以外の活動は、今まで目立った活動はしていません。最近はHP関係はほとんど休止状態です。そのうちオリジナル小説をアップするべく、友人と計画を練っている最中です。あとは他の友人の関係で某漫画のファンがらみな掲示板をつくりました。実際には漫画とは何の関係も無いのですが。独自ドメインを取得したので、ゆくゆくはオタク者の集まるページを作ってみたいなとは思っています。よく考えてみると、私生活をかなりネットで駄目にしているような気もします…

---------- 小説っていうのは、どういったジャンルのものを?

 目指しているのは、SFな話で、ヤオイすれすれのラインです(^_^;

---------- 同人活動の大きな分野であるヤオイなんですけど、男性なんかには余り馴染みがないんですが(^^; 何か簡単に説明する事って出来ますか?

 男同士の恋愛関係で成り立っているのがヤオイといわれるもの、と言っていいのかな?(^_^;「女から見た、男同士の恋愛」といっても、男同士の恋愛関係だけでもくくれない所に、このジャンルの面白さはあるかもしれないのですが…何故あーゆー「駄目な」設定が受けるのか、自分でもよく理解していないんです。ただ、感覚的にはわかるという(苦笑)感覚的なものだから、非常に説明しずらいです。想像をたくましくすると、ダメダメな設定に行き着くというのも、考えてみると救いがたい(笑)

---------- 例えば、男性向け18禁でも、女性同士っていうのは然程大きくないと思うんですが、女性向けでは違いますよね?

 うーん、確かに。あんまりタブーがないというか。そもそも女性向け18禁というジャンルが無いような気がするんですが。たとえそれがある意味「ゲロゲロ」な設定でも、美化されて、気持ち悪さのかけらもないという…
 私の個人的感想としては、女×女のヤオイは、現実的過ぎて、女の子ウケしないと思います。私が感じる「女の子ウケする」ヤオイの設定の条件は「女ではない」設定かな?言い換えれば、自分自身が属する事柄については書きたくない、という何か。エヴァで言えば「アスカ×レイ」は、同人誌を見ても、二人だけでは成り立ってなかったような気がしますからね。どっちかというと、アスカは黒幕攻め、みたいな。一方「カヲル×シンジ」は二人だけでも異様に盛り上がっていた様だし(笑)
 全部の同人誌を見ている訳ではないけれども、男×男のヤオイは美化されて、女×女のヤオイは、精神攻撃的意味合いが強くて救われない気がします(^_^;きれいなおねーちゃん二人が絡んでるのは、ビジュアル的にはイケテルかもですが(爆)

---------- 最近は男性向けからも美少年モノとか出てきたりしてるので、社会のいたるところで起きている多様化の一種とみるべきなんでしょうかね?

 私も、ユニセックスとかジェンダーレスといった状況が、ここにも出てきている気がします。エヴァも結局、本編においてまともな恋愛関係ってありませんでした、というのが私の認識ですし。実際、人間関係として成立した話って、5話ぐらいまでだった、というのが私の感想です。エヴァに関しては。
 美少年といっても、女の子みたいだったら、男の人自身、それに対して同性であるという認識ができないような気もします。

---------- 最近の子供たちの様々な問題も多様化の具現だと思っているのですが、多様化ってエントロピーの増大ですよね。

 そうそう、あとは崩れていくだけ。多様化っていうのは、単一な状態に実は等しい気がします。なんでも最初の一歩を踏み出すのがエネルギーが必要なんだと思います。車でも、計算機でも、もちろんアニメでも、多様化してくると、本質が希薄になって、面白く無くなっていく。世間でいう多様化が、本当に多様なのか、疑問ですね。
 某Wintelなアメリカ巨大企業が席巻するパソコン業界やその市場動向を見ていると、結局多様化したと見せかけて、単一な状態に収束していっているような気が凄くしますね。Internetに関しても、開発元がアメリカだから、英語という母国語人口が高々5億人程度(数字にはあんまり自信がないですけど)の言語が、もしかしたら他言語をInternet上から駆逐してしまうかもしれない。いわゆるデファクト・スタンダードっていうのが私は嫌いなんです…もちろん、フォーマットがそろう事で得られる利便性もありますよね。フロッピーのフォーマットがMac用だったら窓ユーザは読めないけど、DOS用の1.44MBだったらMacでも読めるとか(笑)
 でもそういうのは規格といえるから、まだいいです。単一の製品でないと読めないとか、それがいかにも標準であるかのごとき宣伝をするとか、アルゴリズムに特許取るとか、そういう流れが厭だなあと思うんです。
 売れる物しか許可しないという偏狭な理屈がまかり通る市場経済とかそういう社会って、もしかしたら実は既にエントロピーが増大しきっていて、そのうちとんでもない状態で平衡するんじゃないかと、最近特にそういう所の方が気になります。
 子供達の問題にしても、個性を大切にする教育とかぬかしやがりながら、ほんの少しの情報しか選択肢として提供しない教育とか。まともな教育をしたいんだったら、情報整理の仕方をきっちり教えた上で(それは心構えとかモラル、常識だったりするかもしれないけど)それから質の良い情報をできるだけ偏り無く好きなだけ取得できる環境を与えてやればいいわけで。それを抑えるから若しくは与えすぎるからストレスがたまるんでしょ?ベクトルがみんな同じ方向を向いて無くていいんです。迷惑でなければ(笑)まぁ、情報の質はどうでもいいです(^_^;主観的なもんだし。エントロピーの増大による熱的平衡状態よりは混沌(カオス)の方が個人的はいいですねぇ。
 日本のパソコンって、NECのPC98シリーズが出る前までが一番面白かった。変な機種がたくさんでてましたし。統一規格でコケたMSXでさえ面白かった。アメリカでは、AT互換機が出る前後。アニメは初代ガンダム・マクロスくらいまでかな?もっとも私は生きてきた時代にそういうものにどっぷり浸かっていたから、今の状況がつまらないだけかも知れないけど。
 今までは多様化を排除する力と単一化を阻止する力が均衡していた、そのことが、いろんな事を面白くするエネルギーを生んでいたと思います。それが一旦、どちらかに振れてしまったら、あとはエントロピーが増大するだけ、壊れていくだけ、ですよね。
 エヴァは、三十余年間の、それこそ多様化しきった日本のアニメをアンノ的手法で単一化しようとした。だけれども、監督のエントロピーが増大しきって映画版「世界の終末」をめでたく迎えた、と(笑)

---------- そうした世相を強く反映した作品としてエヴァを捉えられると思いますが、どうなっちゃうんでしょうね? これからのリアルワールドって。

 それに関しては、最近読んだ本の中で、某解剖学者が言っていた言葉が印象的でした。曰く「この世とは、人間の脳が作り出した世界である」と。一字一句同じことを言っておられたわけではないのですが、以前からあった世界、人間が加工した世界を認識するのは人間の脳である、というような事をおっしゃっておられた。
 それが本当だとしたら(私はそれは結構正解に近いと思っているんですが)結局、バーチャルでもリアルでも、関係ないってことじゃないですか? 脳が認識しているのが現実なら、夢も現実もネット上も、実は同じ、って事になりかねませんよね?
 実際、インターネットという媒体はもしかしたら、全世界の人間の脳味噌が一度に繋がるかもしれない大イベントですし。60億の脳味噌がつながるって、もの凄いことだと思うのに、実はその辺の怖さがあまり認識されてないところとか。
 で、そんなことを考えてエヴァの話に戻ってみると、なんであんなに受けたか、っていう理由も『現実と非現実の差の無さ』が大きく関係していると感じますね。エヴァは、ガジェットは別として、話としては結構リアルでしょう?得体の知れない物に否応なく立ち向かわなければならないシンジ君に感情移入した人は、結構多いと思うんです。

---------- 私たちって仮想世界(Inet)のかなりヘビーなユーザだと思うんですが、それでも何か変だと思う事が多いと思うんですよ。これから先への危機感みたいなものってありますよね。

 私たちのまわりって、日本一くらいのヘビーな人間が集まってるんじゃないですか?ひょっとして…ちょっと考えるのが怖いんですけれども。「友達の友達」程度のポインタ参照で+3σはいけるはずだ(笑)遠く離れている人もいる割には、飲み会なんかもたくさんするという(笑)
 でも、実はうちら(と仮にいってしまうけれど)は、その辺の危機感が表に出さないにしろ、各個人で持っていたりするから、実際にあって話しもするし、共同でなんかイベント立ち上げようという気持ちと企画力を誰かが持っているように思うし、実際それを(何割かでも)実行していて、どうにかせねばと動いていると思いますね。本当は自分が過ごしてきた世界に疑問を多少ではあるけれども、疑問を持ち続けてきたなりに、集って(つどって)いる、というか。
 横のつながりがあるからこそ、この先への危機感っていったら、シンジ君がたくさんできるんじゃないかという危機感。シンジ君みたいな人ばかりだったら、先には何もないですからねぇ…

---------- そういう年代の人も読んでるかも知れないんで、何かメッセージとかありましたら。

 確固たる自己を築いて、常識ある人間に成長して下さい。いや、マジで(笑)
 シンジ君みたいに、他人に流されてると、きっとろくな事にならないです。でも、他人の言うことを聞かないで暴走しても、なんの意味もないともいえる。だから、常識ある人間になって欲しいんです。
 一見、私の発言と矛盾しているように見えますが、矛盾していません(笑)常識って言っても、そんなに大げさな意味じゃなくて、最低限のモラル、共通のルール、みたいなものですかね。別にガチガチの頭が硬い人間になって欲しいと思ってるわけでは無いです(^_^;逆に脳味噌が柔らかくなりすぎても、実用上支障はでてくると思いますが…常識とは何かを知った上で、いろいろと常識の破壊活動に専念するのも悪くないと思います(笑)
 なんでかというと、一般常識的な前提で話が通じなくなると今後世代間ギャップに私が悩むハメになるから、と言い訳しておきます(爆)
 あとは、リアルとバーチャルが大して実体に差がないとすれば、リアルでもバーチャルでも、自分自身の考えであるとか人格を首尾一貫しておかないと、自分自身を見失う可能性大です。人間の脳味噌は、人格とか性格にたいして、客観的で意識的な情報整理ができないと私は考えているので、下手に現実世界とネットあるいは他の仮想現実の世界で違う自分を演じると、それが後に負担になってくる人もいるのではないかなぁと思います。
 だから「チャットでの私、掲示板での私、現実世界の私」みたい多重人格の運用は、人間の場合通常「病気」と呼ばれて信用を落とすもとなのでやめましょうね。…人ごとぢゃないですけど。3つの人格を意識していた赤木ナオコさんはお亡くなりになってましたからね〜マジでやばいっす(笑)

---------- 田所さん自身、今後、どのような活動を考えておられますか?

 私自身、エヴァにもの凄く影響された方で、エヴァがなかったら、現在留年もしていないだろうというくらい(笑)庵野監督の毒に犯されました。ここ数年はその毒から立ち直るリハビリのようなものであったと最近思うくらい、しばらくはあれやこれやと、いろいろあって、他のことにエネルギーを使う余地が無かったように思います。ようやく最近になって、復活しつつありますが…
 とりあえず公にはは博士号取得に邁進し、私生活では文筆活動をすこし活発にしていきたいと考えています。といっても同人レベルで何かはじめられれば良いなと。
 JAVAのMAGIのクライアント&サーバプログラムも途中で終わって悔しいので、なんらかの形で発表したいですね。そのために、今の研究をしていると言う噂も…企画倒れで終わらないよう、祈っていて下さい(^_^;このネタで学会発表できたらちょっと嬉しいかも(爆)
 エヴァ関係で培った人脈は、これだけのために終わらせたくない人達ばかりなので、そういった人間関係の維持にも、ずっと是非かかわっていきたいと考えています。
 つまり、これからも一緒に飲もうね、ってことで(笑)

---------- それでは最後に、田所さんにとってエヴァって何だったんでしょうか?

 うーん… 私の3年間150万円(=学費)を返せ! かな?(^_^; いえ、進路は自分で選んだことだから良いんですが、あの本編ラストのシンジ君のセリフで、ものすごく力が抜けてしまったという… 「ぼくは僕でいいんだ」というような下りがありましたよね?

---------- ガマンして踏み止まっていた人にGOサイン出したみたいな(^^;

 もー、あとは波瀾万丈な人生の幕開けって感じです(^_^;;;

---------- 本日は長時間にわたり有り難うございました。バイト紹介しといてなんですが、ご学業の方、がんばって下さい(^^;

 ありがとうございます、って、もー何であそこに毎日私がいるんだろうって感じでんがな(^_^; 長久さん。こちらこそ、ありがとうございました。


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