鬼塚健太郎氏インタビュー

1998/11/28 06:25〜08:00 長久家LANにて収録


---------- それでは、鬼塚さんのインタビューをはじめたいと思います。よろしくお願いします。

よろしくおねがいします。

---------- まず最初に、プロフィールの方を頂けますか。

えっと、そうですね。一応普通の会社員です。仕事はいろいろかわってますが、今は、つくばの研究所にいます。一応、コンピュータ系の仕事です。

---------- エヴァ関連のHPについて、お願いできますでしょうか。

エヴァンゲリオンの放送されたものをどんどん海外に紹介するために、台本を翻訳したものを、自分のHPにおいています。

---------- 海外向けの翻訳ページですね。

そうです。最初に英語版を仲間で作って、それをrec.arts.animeという英語のニュースグループで配っていましたが、やがて、それをまとめたページを持つようにしました。最初はこの企画を始めたわだくんのページに置いておいたのですが、彼が引退したので、私が引き継ぎました。

---------- 海外からの反響はどうでしたか?

そうですね、まず、第一話が放送されて、それをわだくんが翻訳し、配ったら、あっちこっちから見たいという反響がありました。そして、彼の翻訳したものをアメリカで多少手をいれて、字幕にしたものが、そのころアトランタで開かれたアニメ関係のイベントで紹介され、上映したら、ものすごい人気になり、なんと5回くらい繰り返して上映されたそうです。
その後も、ほぼ毎週放送されるごとに、翻訳して海外に配っていました。で、まあ、海外の人は日本の友達などから1ヶ月分つまり、2時間分たまったところでコピーを送ってもらって、それを見ていたので、それまでに間に合うように翻訳していましたから、まあ、海外でも結構リアルタイムに近い感じでエヴァンゲリオンの鑑賞ができたようです。あとから聞いた話では、いくつかの大学などで、毎月上映会が開かれ、我々の翻訳をつかって、ストーリーの説明などが行われていたようです。我々の翻訳台本をつかって、弁師をしていた学生なんて結構いたんではないかな。岡田斗司夫のおたくウィークりーによると、マイクロソフト社でも毎月上映会をしていたそうです。

---------- 日本から海外向けの情報を発信していたというのは、貴重ですよね。

そうですね。そもそも、私自身は最初、ガイナックスの「トップをねらえ!」を翻訳して配ったのがきっかけです。あのアニメは何度も何度もみたので、内容もすっかり分かっていましたので、それを訳して、ネットワークで配ったところ、海外から結構反響があって、メールなどもたくさんもらいました。で、そのことを、当時いろいろメールなどで話をしていたわだくんに言ったら、彼も自分の好きなアニメの翻訳をやりたいと言っていたわけです。そんな時に、エヴァンゲリオンが始まる事がわかり、で、彼は「これは絶対ヒットするから、翻訳をやるんだ。」と言いだしました。まあ、一人では無理だと分かったので、私がサポート体制として、仲間を集めておいたのです。ま、結果として、全26話中、半分は私がやってしまったけれど。途中からはセリフの書き取りだけやって下さる人も入ってきて、それでなんとかなったって気がします。その後、エヴァは、ドイツ人のアニメオタクたちの努力でドイツ語版も一応全部できたし、スペイン語版やポルトガル語版もだんだん整ってきました。詳しくはこちらのページで。

---------- それ以前から翻訳して海外に伝えるという活動をされてたのでしょうか?

最初にやったのが、ちょうどエヴァの始まるとしの初め頃からですが、「トップをねらえ!」、それから、「吸血姫美夕」(OVA版)、あと、ファイブスター物語(劇場版)などです。で、そういう反響があったあとの95年夏に、ロサンゼルスで開かれたAnime Expo 95 に参加して、海外アニメファンとも交流するようになりました。いまでも、そのうちの何人かとつきあいがあります。

---------- 海外でのエヴァの評価ってどうなんでしょう?

そうですね、やっぱり衝撃的でクォリティの高い作品だという評価だと思います。

---------- 日本ですったもんだした感じとは少し違う感じですね。

やっぱり、一月以上遅れて見ている関係もあって、日本で毎週見ていろいろあったのとは少し違う。でも、うーん、18話あたりからの路線については、いろいろ意見が出されましたが、あまり批判的なものはありませんでした。私は、あの辺りからについては批判的ですけれど、海外では、それもまた新しいアニメの表現みたいな感じで受け入れられた気はします。

---------- 日本人ってヒネてるんでしょうかねえ(^^;

何ていうか、やっぱりまだまだ海外ではあるがままに受け入れるっていう感じがあると思いますね。日本の人はやっぱりいろいろ見ているから、それだけ敏感でしょう。私もそんなに当時たくさんアニメをみていたわけではないから、正直、最後の最後までエヴァの画質が悪くなったとかいうのには気が付きませんでした。そうですね、22話くらいでようやく、おかしいなあーという感じ。まあ、もちろん、18話くらいで、なんか路線が変だとは思ったし、制作スタッフの疲れみたいなものも感じたわけですけれど。でも、そこんところ、敏感に感じ取るのは、やっぱり日本の濃い人たちだけだったのではないかと思います。

---------- 海外では(一部マニアの間で)概ねTV路線が受け入れられたと考えて良いのでしょうか?

そこんところは、なんとも言えませんね。たぶん批判するほどのネタもなかったと思うし。私がネットニュースを見ていたかぎりでは、むしろ、エヴァゲイト事件なんかの方の話が多かったです。で、例えば、私が25、26話あたりの翻訳に付けたコメントを結構そのまま引用するようなのがあったりして。なんか、どっちかっていうと、日本での議論を静観しているような感じがありましたね。

---------- エヴァゲイト事件に付いて詳しくお願いできますか?

はい。エヴァが日本で放送され始めて、3ヶ月か4ヶ月たったころに、ADVisionというアメリカのアニメ配給会社が、ネットニュース上で大々的に、「我社は次に、エヴァを配給する」っていうニュースを流しました。さらにそこには、「エヴァンゲリオンはハイクォリティだが、ADVisionはさらにクォリティを上げるために、国際版として、ガイナックスが remake をしている。」とか書いたわけです。
当時ADVisionといえば、日本のアニメをエログロ的に改変して編集して配給していることで有名でしたから、この ADVisionの発表に対して、海外ファンは怒ったわけです。エヴァンゲリオンが酷い作品にされるんではないかと…… で、そういう議論が沸騰して、ネットニュースではいろいろな人がADVisionの批判を始めました。例えば、ADVision が翻訳したら、「5話で、レイがシンジに"Put off your fucking hand!”なんて言うだろう。」なんていう記事もありました。で、そんなときに、ガイナックスの武田氏が、同社のマイケル ハウス氏を通じて、「ADVisionのエヴァ配給については、聞いたことがない。これ以上変な宣伝をするなら、法的手段に出る。」という記事を流しました。まあ、それで、ADVision側は、がイナックスと再交渉することになったわけです。この一連の流れを、海外では、エヴァゲイト事件と呼んでいます。

---------- 国内でも一山、二山ありましたが、海外でもいろいろあったんですね。

ええ。このエヴァゲイト事件では、たとえば、「ガイナックスはADVisionを通じて、資金援助をうけて、エヴァをアメリカ人好みのものに作り替えさせられている。」なんていう憶測も生まれました。まあ、そんなことで、この事件は結構長いこと議論されていたし、その後も、エヴァのアメリカでの配給をどこが行うか、というようなことで、いろいろ憶測などが飛び交っていました。まあ、そんなわけで、エヴァの内容などの議論としては、18話以降のえぐい路線とADVisionとの話を絡めたりした憶測などはありましたが、実際、日本でいろいろ行われたようなエヴァのテーマや、深い考察などの議論はあんまり見かけなかったように思います。

---------- エヴァを掘り下げる議論があまりなかったのは、海外のアニメ事情が国内とは異なるからなんでしょうね。

そうですね。議論になるよりは、なんていうか、批評記事みたいなのが出てそれがアーカイブされていく感じがあったようです。まあ、rec.arts.animeなどはあまりにもたくさんの記事がでますから。あと、やっぱりなんといっても、リアルタイムで見ているのは、日本からビデオが供給されるつてのある人やその関係者しかいない。だから、日本で見ている人の数に比べれば非常に少ないんです。数万人というところでしょう。だから、彼らとしては、とにかく、エヴァに関する情報が欲しい。どういうストーリーで、どういうふうになっているのか、それが知りたいということが先にあって、まだ落ち着いて鑑賞して、議論する状況ではなかったんだと思います。

---------- 恐らく、エヴァ以降も状況は変わらないのでしょうね。

そうですね。まあ、日本でも、エヴァが放送されていない地域が方々にあったわけですが、最近になって放送されたりしているところがあります。実際、海外でも、最近になって放送されているなんてことがあったりします。やっぱり、日本からの伝手をたどってアニメを手にいれることができのは、一部の人。で、あとは、アメリカ版なりが出ないと手に入れられないってことでしょう。もっと、たくさん日本からアニメが出ていくようになれば、状況は変わるでしょう。市場としては十分に大きいわけですからね。これは、日本でアメリカ映画なんかが半年くらい遅れて公開されたりするのと似た状況ですね。リアルタイムで見ている人は非常に少ないわけですから。

---------- 海外のファンと同じ気持ちを共有できるようになれば。良いですよね。アニメの魅力ってズバリ何なんでしょう?

そうですね。ううむ。私が思うには、日本のエンターテイメントの中で、一番元気なのがアニメやゲームなんではないかと思うわけです。で、ドラマや映画などを見ても、なんかあんまり想像を絶するような作品がないんですが、アニメだと、いろいろなところに、想像を絶するような作品がありますね。それは、たぶん私がけっこういい歳になってから、トップをねらえ!を見て、そして、そのなんか凄い!ってところに感動してみ始めて以来ずっとそうです。

---------- エヴァ以前、以降で自分の中で変化した事ってありますか?

そうですね。なんか、エヴァ以前以降ってことでもないのかもしれませんが、深いテーマ性のあるようなアニメがすっかり嫌いになりましたね。たぶん、なんか、エヴァが放送されて、さらにあのエンディングについて、監督やらのコメントがでたり、いろいろあって、そういうの読んだりしてから、なんか、壮大なテーマをもったアニメっていうものがなんかうさんくさく感じるところがあって。で、それから、娯楽性のたかいかわいい子の出るような作品やそういうのをたくさん見るようになりました。ま、もっとも最近また面白い作品が出てきているので、またちょっと変わってきましたけれど。
あとは、エヴァが終わったころに、岡田斗司夫の「ぼくたちの洗脳社会」を読んで、それがエヴァをみたがゆえにいろいろ深く感じてしまったことがあって、それから、自分の中が革命されましたね。そして、実際、アニメもエヴァ以降、いろいろな意味で変わったと思いますし。まあ、それらすべてが、1996年に起こったことだと思います。世界が変わりましたね。自分の見方が変わったことで、いままでと違う原理で世界が動いているような気分になりました。エヴァがきっかけってこともあるし、それと関連した岡田の本を読んだこともあるし、そして、自分自身がエヴァ翻訳などを通じて、コンピュータネットワークの力を知った結果でもあるし、いろいろな要素が絡んだ上での自分の中の革命なんですけれどね。

---------- これから何かやろうと思ってる人にアドバイスなんか頂けますか?

えっと、何かってどういう範囲のことですか?

---------- 主にHPとかInetで。

やっぱり、なんでもいいから、自分で情報を発信することだと思います。で、もちろん、情報を発信して、それが自分の思った方向にいくこともあるし、思わぬ反応もあるし、一方で、全然反応がないこともある。けれども、なんか発信していると、いろいろ人間が分かるし、ネットワーク社会もいろいろ分かってくる。まあ、エヴァの翻訳なんかでずいぶんいろいろ勉強になったこと多いです。
これから、情報を発信する場合のコンテンツを作るのも、いろいろ便利なツールが増えたし、いろいろなチャンネルも増えています。自分のできることから、どんどんやっていれば、いろいろ面白いことあると思います。それから、やっぱり、結構大変なことも多いから、「本当にこれは好きだ!」と思えることに重点的にやっていくことが大切です。そうでないと続かないことが多い。エヴァ翻訳以降、やっぱり疲れてしまったところあるんで、そのあといろいろ翻訳プロジェクトやろうとしたけれど、続きませんでしたね。ま、いまはしばらく休息状態なのかもしれません。すこしずつやる。そして、好きなことをやる。それが一番よいと思います。そうすれば、いろいろ面白いことがあると思います。

---------- それでは最後になりますが、鬼塚さんにとって、エヴァってなんたっだ んでしょう?

なんであったか、というのはまだ分からないけれど、なんか、あのエヴァがあったおかげで、すごい精神的パワーをつかいましたね。つまり、喜怒哀楽っていうか、そういうもの、それから人間との繋がり、いろいろな面で、非常に心が、精神が動かされた。もちろん、エヴァ翻訳のために台本解釈するには、膨大な調査とかが必要だったし。その結果が蓄積されて、今の自分があるわけです。あの作品、結局、好きな作品じゃなかった、って今では思っていますが、一方で、最後まで翻訳させるだけの、強い力がありましたね。そういう意味で、私にとっては、なんか強い力で、自分を動かしたもの、そういうもんだと思います。

---------- 本日は長時間にわたり有り難うございました。

どうもこちらこそ、ありがとうございました。


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