林隆博氏インタビュー

1998/11/13 23:48〜25:20 IRCにて収録


---------- それでは、林さんのインタビューを始めさせて頂きます。

---------- 最初に、プロフィールの方を簡単に頂けるでしょうか?

林 隆博、29歳。名古屋生まれ。金沢工業大学時代に以前から興味のあったSFにはまる。卒業後地元名古屋で就職。基本的に理論屋の制御屋です。

---------- 有り難うございます。小説を書かれるようになったのは、いつぐらいからなんですか?

ちょうど4年になりますね。就職して2年目くらいです。

---------- 学生時代には書こうとはされなかったんですね。

そうです。読む方が専門でした。

---------- 最初に書かれたのも、やはりSFものだったんですか?

SF…といえばSFですね。ネットワークと人工知能ねたでしたし。

---------- 他にエヴァまでに書かれたものも、そういった方面のものが多かったんでしょうか?

いえ、それっきりでしたね。次に飛行機のレースものの長編(「烈風の吹くとき」)を書きかけて放り出しました。次に一つ飛行機ものの短いのを書いて、その後エヴァです。

---------- AnotherWorld(以下、AW)を執筆される時、抵抗とかはありませんでしたか? はじめて他人の作品をベースに書く事について。

いえ、それまで完成させていた2本が「蓬莱学園」物でしたから、そういった抵抗は無かったですね。ただキャラクターまで借りたのは初めてでしたけど。

---------- AWはInet上で発表された訳ですが、その辺りの経緯なんかをお聞かせ願えますか?

最初はTV放送中に「第3新東京市ノ解析」の西村氏と「TVレポート」という企画をウェブページで行っていました。これはエヴァのTV放映を見て、次の週の放送までにレポートを書くという、今にして思うと既知外じみた企画でした。この企画で自分の書いた文章をウェブページで発表するってことはやっていたんですよ。この後に「綾波レイの作り方」とか小ネタのコラムをいくつか書いていたんですが、これに少し反響がありまして、ウェブページが文章を発表する舞台に使えるんだ、ということが解りましたね。そしたらTVがあーゆー終わり方をしてくれて、数日ごろごろしていました。そのうちに第拾八話を見たあたりで、友人と話をしたりして考えた「たぶんこういう最終回になるだろう」というメモを書いておいたのを思い出して、「…書くか!」と。そうこうしているうちに「小説化計画」の久保田さんからリンク依頼のメールをいただきまして、先を越されたか!と思っているうちにnaryさんの「Genesis Q」とかが動き出しているのを見て、「もうこれはやるしかないな」というわけです。

---------- そうやって考えると、放送中から既に賛否があったにも関わらず、放送中に小説を展開された方っていうのはいらっしゃらないわけですね。

いえ、後から知ったのですが、NiftyとかMLとかではいらっしゃったようですね。ウェブページでも短いシノプシスのようなものはけっこうありました。ただウェブページでは長編指向のものはほとんど無かったと思います。

---------- そういう形でAWを展開されたわけですが、AW以降の活動としてはどのような事をされているんでしょうか?

以降ではないのですが、途中でAWを2ヶ月放り出して、書きかけだった「烈風の吹くとき」を完成させました。これが初のオリジナル長編になりました。その後はAWと平行して「エヴァ小説ML出版部」という組織に参加してエヴァのパロディ短編集の同人誌作成に関わったりしました。このあたりはネットのウェブページとは離れた活動になりましたけど。

---------- エヴァによって林さんの中での同人活動の重みが大きくなったと思うのですが、そういった意味でエヴァは人生の分岐点になってますよね?

分岐点というよりは堕落というか墜落に近いですねえ。しかしファン活動という意味では、学生時代からSFコンベンションの運営に関わったりしていますし、活動の分野がちょっと変わったくらいですね。エヴァ以前にもオリジナルの小説同人誌とか出していましたし。

---------- エヴァ以降、同人活動をやる人が増えたと思うんですが、それ以前から携わっておられる林さんから見て、気になる事とかありますか?

うーん、私はSFコンベンションとかのスタッフ出なので、一般的な同人活動をしている方々とはちょっと毛色が違うと感じますね。私見なんですけど、SFコンベンションの人間ていうのは、基本的に芸人と企画屋なんですよ。こんなこと言っているとまたあちこちで風当たり強くなりそうな気がするけど。それに対して、同人誌をやっている人達っていうのは基本的に編集と作家みたいに見えますね。まあ偏った見方だとは思いますけど。私のやり口なんかはずいぶん異質なんじゃないかと思います。

---------- 確かに、即売会のブースで企画ネタやるトコはほとんどないですもんね。私は好きですけど(^^;

---------- エヴァによって今回のCD-ROM企画のような活動が可能になったわけですが、このコミュニティはこの先どうなって行く、どうなって行くべきだと思われますか?

エヴァとしては袋小路でしょうね。オフィシャルからの作品供給が無い以上、どうしても活動が仲間内で先鋭化してゆくでしょうし、そうなると外部からの新しい参加者はどうしても入りづらくなっていきますから。どんどん閉鎖してゆく…というか、外部の方から切り離されてゆくんじゃないかと。どうなって行くべきかは…結局各個人が自分で考えるしか無いでしょうね。私はこれまでエヴァで活動してきた経験を元に、新しいことにチャレンジしてゆければいいと思います。たとえその結果コミュニティがばらばらになったとしても。 個人的にはあまりコミュニティというのは好きじゃないんですよ。個人個人がきちんと独立した自分の活動のステージを持っていて、そのうえで、そういった人の集まりにステップアップしてゆければいいと思っています。

---------- 林さん個人は今後の活動をどの様に考えていらっしゃいますか?

昨年秋に、エヴァ小説作家MLの有志で「Progressive」というオリジナル小説サークルを結成しました。短編小説がメインなのですが、しばらくはここで活動していくことになるかと。あとオリジナルの長編でどこかに討って出たいですね。AW完結以前に書いた小説はいずれも公募に送って、一つは商業誌掲載も果たしたのですが、最近とんとご無沙汰ですので。

---------- 実際に書いてらっしゃる林さんから、これから書きたい人へのメッセージなんかありますか?

書くだけなら簡単なんですよ。F・ブラウンでしたっけ、小説の書き方を「それは簡単、原稿用紙の升目を埋めていけばよいのだ」と言ってのけたのは。ただ傑作を書こうと思うと、七転八倒が待っていますけど。
とにかく、一本最後まで書ききることです。それが自信にもなりますし、自分の得意、不得意も見えてくると思います。
あとは沢山いい本を読むこと、いい映画を見ること。自分が作品を書く側にまわると、やはり人の作品を見る目も変わってきますから。いい作品からいい影響を沢山受けることが大切ですね。自分が実践できているかを考えると反省しきりですが。

---------- 最後に、林さんにとって、エヴァとは何だったのかを聞かせて下さい。

喩えるならば「パンドラの箱」ですかね。ギリシア神話で伝わる、諸悪の根元が封じられていた箱。とにかく中から何でも取り出すことができました。物語としては言いたいことが沢山ありますが、私にとって、大きな影響を与えた作品であることは間違いないですね。私にとっての希望が入っていたかは、まだ解りませんけど。

---------- 今日は長時間有り難うございました。これからの活動にも期待させて頂きます。


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