前田の算数

 算 数 コ ラ ム
先取り学習をしている子への対応
本当に分かってる? “分かったつもり”の曖昧さを浮き彫りにする

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 1、曖昧さを浮き彫りにする
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先取り学習している子に対する対応に、困ったという経験はないだろうか。
例えば、かけ算の学習を始める前に、既に九九を全部知っている子。
例えば、筆算の学習を始める前に、既に筆算のやり方を知っている子

例えば、わり算の導入。
「クッキーが12個あります。3人で同じ数ずつ分けると、1人分は何個になりますか。」
という問題。
教師としては、おはじきによる操作活動などを取り入れながら、
わり算の意味について考えていきたい。
ところが、塾やドリルなどで既に知っている子が、問題を見るなり
「なーんだ、わり算でしょ。12÷3で答えは4個です。」
と得意気に言ってしまう。
教師としては、そんなにすぐに答えを出されると困ってしまう。
本当は、45分間で練り上げていく予定だったのに…。

そんな時、どのようにすればよいのだろう。
「習ってないことを言ってはいけません」
とつっぱねてしまっていいのだろうか。
知っている子に知らないふりをさせて、
しらじらしく授業をすればいいのだろうか。
そんなはずはあるまい。
初めて学習する子にとっても先取り学習している子にとっても、
新しい発見のある授業が理想である。
授業は、全員にとって学びがいのあるものでありたい。

さて、ここで考えてみたい。
先取り学習をしている子は、本当に“分かっている”のだろうか。
知識として“知って”いるものの、
その本質は“分かって”いないことが多い。
例えば、わり算の計算方法は知っていても、
わり算の意味は理解できてはいない、など…。
その知識は曖昧なものである。
教師は、その曖昧さを浮き彫りにしてやればいいのである。
“分かったつもり”でいる子供たちが、
「あれっ!」「どうして?」と思うような授業 を仕組むのである。




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 2、説明させる
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曖昧さを浮き彫りにする方法の1つに、
“説明させる”という方法がある。

例えば、


 クッキーが12個あります。
 3人で同じ数ずつ分けると、1人分は何個になりますか。


という問題なら、その解き方を、先生になったつもりで説明させる。
ペアの子ども同士で教師役と子ども役に分かれ、説明し合うと盛り上がる。
さらに、
「2年生の子どもに説明するつもりで」
という言葉を添えると、使える既習の範囲が限定される。
本当に理解していなければ、既習を生かして説明できない。
計算の“方法”だけを知っている子も、
計算の“意味”について考えざるをえなくなるのである。

中には、たし算を使って考える子が出てくる。
配られたクッキーの数に着目した考えである。
1回に、3個ずつクッキーが増えていく。
0+3=3、3+3=6、6+3=9、9+3=12。
4回たすと12になるから、答えは4個という考えである。

ひき算を使って考える子も出てくる。
手元にあるクッキーの数に着目した考えである。
1回に3個ずつクッキーが減っていく。
12−3=9、9−3=6、6−3=3、3−3=0
4回ひくと0になるから、答えは4個という考えである。

もっと簡単にしようと、かけ算を使って考える子が出てくる。
□×3=12。
3の段で、答えが12になる数をさがして、
答えは4個という考えである。

こうした考えを紹介し合った後に、
3の段で答えが12になる数をさがすことを、
12÷3と書き表すことを説明する。

すると、それまで、別々にとらえていた
たし算・ひき算・かけ算・わり算が、1つに結びつけてとらえられる。
このことは、わり算の方法を知っていた子にとっても、
新しい発見になるのである。














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 3、当たり前を見つめ直す
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曖昧さを浮き彫りにする方法に、
“当たり前を見つめ直す”という方法がある。

例えば、3年生の表に整理する授業。
ばらばらになっているデータを、見やすく表に整理していく。
落ちや重なりなく数える方法を考えている中で、子どもから
「『正』の字を使えばいいよ」
という声があがる。

子どもたちが当たり前と思って使っている『正』の字。
そこに、ちょっと意地悪な質問をしてやる。

「『正』の字は、ちょうど先生の名前『前田正秀』の『正』だね」
「ところで、『正』の字じゃなくて、『秀』って字じゃ駄目なんですか」
と、尋ねるのである。
すると、子どもたちは
「あれ、どうして、『正』の字を使うんだろう」
と、それまで当たり前に使っていた『正』の字を見直し始める。

『正』の字を見直す中で、子どもたちは、
・『秀』の字は7画だから、不便
・『正』の字は、5画だから数えやすい
ということに気付いていく。

「なるほど」「さすがだね」
とほめながら、また、意地悪な質問をしてやる。
「だったら『田』の字じゃ駄目ですか。5画ですよ」
と尋ねるのである。

すると、子どもたちは、もう1度『正』の字を見直し、
・『田』は折れがあるから駄目。
・『正』はまっすぐな画ばかりだから、速いし間違いにくい。
ということに気付いていく。

「なるほど」「さすがだね」
とほめながら、また、意地悪な質問をしてやる。
「じゃあ、真っ直ぐな線で5画の字なら『正』の字じゃなくてもいいの」
と尋ねるのである。
すると、さすがに困った顔になる。

実は、いいのである。
江戸時代は『玉』という字を使って数えていたそうである。
また、外国では4本の縦線と1本の横線を使って数える国もあるそうである。

例えば、巻き尺の授業。
長い物の長さを、測るにはどうすればよいかを考える。
その中で、子どもから。
「巻き尺を使うといいよ」
という声があがる。
「ものさしよりも、速くて、正確だから」
というのが理由である。

子どもたちが当たり前と思って使っている巻き尺。
そこに、ちょっと意地悪な提案をしてやる。

「巻き尺って便利だね。これからは、ものさしは一切使わないで、何でも巻き尺を使って測っていこう」
と提案するのである。
子どもたちは、
「あれ、確かに巻き尺は便利だけど、でも…」
と自分の考えを見直し始める。

巻き尺について見つめ直す中で
「巻き尺は筆箱に入らないよ」
「短いものを測る時はものさしの方が簡単だよ」
「測るものによって、使う物が変わるよ。
 ものさしの方がいい場合と巻き尺の方がいい場合があるよ」
と、測る対象によって計器を使い分けることの大切さに気付いていく。

知識として知っていた“当たり前”を見つめ直すことで、
新たな発見が生まれるのである。




























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 4、まずは、ほめて、認める
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曖昧さを浮き彫りにする際に、
気をつけないといけないことがある。
それは、曖昧さを浮き彫りにする前に、
まず、ほめて、認めることである。

先取り学習した子の発言は、
教師の立場からすると、やっかいな発言かもしれない。
しかし、子どもの立場からすると、
頑張って勉強して知ったことを、発言しているのである。
それは、素直にほめて、認めてやらなければならない。

「そんなのわり算を使えば簡単だよ」
という発言に対しては、
「まだ、わり算を習ってないのによく知ってるね」
と、ほめた上で、
「ところで、そのやり方を、2年生にも分かるように説明してごらん」
と提案する。

「『正』の字を使えばいいよ」
という発言に対しては、
「よく知ってるね」
とほめた上で、
「ところで、『秀』の字じゃ駄目なの?」
と尋ねる。

自分の意見が認められ、その上で、曖昧さが浮き彫りになるから、
子どもは、夢中になって自分の考えを見つめ直すのである。
最初から頭ごなしに、
「習ってないことをつかっちゃいけません」
と言われたのでは、子どもの学習意欲は萎えてしまう。

まず、ほめて、認めることを、忘れないようにしたい。




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 5、“分からない”を生み出すのも、教師の仕事
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話をまとめると、次のようになる。


 先取り学習した子の発言に対しては、
 まず、“知っていたこと”をほめて、認める。
 その上で、考えの曖昧さを浮き彫りにする。
 曖昧さを浮き彫りにするには、
  @ 説明させる
  A 当たり前を見つめ直す
 などの方法がある。


おわりに。

“分からない”ことを“分かる”ようにするのも教師の仕事である。
しかし、それと共に、“分かったつもり”でいることを自覚させることも、
教師の大切な仕事だと思う。
子供たちは、自分の考えの曖昧さが浮き彫りになることで、
自分の考えを見直し、考えを深めていく。

“分かる”を生みだすのが教師の仕事だと捉えると、
先取り学習をした子の発言が、やっかいに思えてくる。
しかし、“分からない”を生みだすのが教師の仕事だと捉えると、
先取り学習をした子の発言への対応が、見えてくるように思う。

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