前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
教 科 書 に ち ょ っ ぴ り 味 付 け
「あれ」「どうして」を大きく演出する
−4年「面積」の実践より−

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 1、は じ め に
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 子供は「あれ?」「おや?」「どうして?」と考えが揺さぶられると、自ら考え始める。
 授業の中に、子供の考えが揺さぶられるような場面を仕組みたいものである。

 もちろん、子供がびっくりするような面白い教材を準備できれば、それに越したことはない。
 しかし、毎時間、面白い教材を準備できるわけではない。
 多忙な毎日の中、教材研究にかける時間は限られているからだ。

 そこで、提示の仕方にほんのひと工夫だけ、加えてみてはどうだろう。
 提示の仕方を変えるだけで、子供の反応はうんと変わる。
 「○○なのに、△△なのは、どうして?
 と提示するのである。
 一見すると矛盾しているかのように提示することで、子供たちは「あれ?」「どうして?」と考え始める。



事例@ 長方形の面積の公式を考える授業
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 さっきより大きいのに、すぐに求められるのは、どうして?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 長方形の面積の公式を考える授業。
 長方形を提示して、「面積の求め方を考えましょう。」という問題を出しても授業は成立する。
 しかし、それだけでは、何だか味気ない。
 そこに、もうひと工夫加えてみたいものである。

 東京書籍の教科書では、前時に「広さは1平方センチメートルのいくつ分で数値化できること」を学習する。
 そしてその練習問題として、授業の最後に4平方センチメートルpの様々な形をつくる問題を扱っている。
 本時では、この問題の復習から導入してみてはどうだろう。
 様々な形を提示し、何平方センチメートルかを当てるクイズをするのである。
 例えば、次のような形を提示する。

 【第1問】


 答えは、5平方センチメートル。
 このくらいなら、簡単に解くことができる。

 第2問は、
 「レベル2!もっと難しくするよ。」
 と言って、次のような形を提示する。

【第2問】

 答えは、10平方センチメートル。
 このくらいの大きさになると、解くのに時間がかかる。

 少しずつレベルが上がり、いよいよ第3問。
 「レベル3!今度は、もっと大きな形だよ。」
 というと、子供たちから悲鳴があがる。
 「きっと20分はかかるだろうなあ…。」
などと、あおりながら、次のような形をを提示する。

【第3問】


 ところが、子供たちからは、提示してすぐに、
 「分かった。24平方センチメートルだ!」
 という声があがる。

 「さっきより大きい面積なのに、すぐに求められたのは、どうして?
 と、とぼけてみせると、子供たちは、「だって…。」と語り出す。
 そして、
 「だって、長方形だから簡単だよ。」
 「縦に4個、横に6個だから、かけ算で簡単に求められるよ。」
 「全部数えなくても、縦と横だけ数えれば、すぐに求められるよ。」
 などと説明していく。

 「○○なのに、△△なのは、どうして?」という形で提示することで、
 子供が自ら考え始めるのである。


事例A 複合図形の面積の求め方を考える授業
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 長方形じゃないのに、公式が使えるのは、どうして?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 複合図形の面積の求め方を考える授業。
 課題提示の際、一気に形を見せるのではなく、少しずつ形を見せていく。

 まずは、形を紙で隠しておく。
そして、
「何平方センチメートルかな。」
と言いながら、紙を少しずつ横にずらしていく。



 形の左端が見えてくると、縦の長さが4pだと分かる。
 子供たちは
 「28平方センチメートル」
 「24平方センチメートル」
 「20平方センチメートル」などと予想していく。

 そのうち、
 「横の長さを教えて。」と言う子が出てきたら、しめたものである。
 「どうして知りたいの。」ととぼけると、
 「だって、縦と横の長さが分かれば、公式を使って面積を求められるもん」
 という答えが返ってくる。

 こうしたやりとりをしながら、
「長方形なら縦と横の長さが分かれば公式を使って計算で答えを求められること」
を確認する。



 紙を少し上にずらすと、横の長さが6pだと分かる。
 子供たちからは、
 「分かった!24平方センチメートルだ。」
 という声があがる。

 ところが、紙を取って形を見せると、子供たちから「ずるーい。」という声が…。
 実は、長方形ではなかったのである。


 ここで、
「残念。長方形じゃないから、長方形の公式は使えないよね」
ととぼけてみせると、子供からは
「使える!」「使える!」という声があがる。
 さらに、
長方形じゃないのに、長方形の公式が使えるのは、どうして?
と驚いてみせる。
 子供は
「使えるよ。だって…。」
と、ますますムキになる。
「じゃあ、この形の面積の求め方を、ノートにかいてごらん」
と言って、自力解決の時間をとる。

 「○○なのに、△△なのは、どうして?」という形で提示することで、
 子供が自ら考え始めるのである。


・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ねらいが決まれば、提示が決まる
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 「いちばん教えたいことは、子供に発見させなさい。」
 と、よく言われる。

 事例@で発見させたかったことは、
「全部を数えなくても、縦と横さえ分かれば、計算で求められる」
ということである。
 その言葉をいかに子供に言わせようかと考えて、提示の仕方を工夫した。

 実践事例Aで発見させたかったことは、
「長方形の公式が使える」
ということである。
 その言葉をいかに子供に言わせようかと考えて、提示の仕方を工夫した。

 その授業でいちばん大切にしたい考えが何なのか。
 ねらいがはっきりすれば、「○○なのに△△」という発問が、自然と浮かんでくる。


・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 既習を押さえることで、未習が演出される
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 その授業でいちばん大切にしたい考えが何なのか、ねらいをはっきりさせる。
 それは、言い換えると、
 既習と未習を明確にすることとも言える。

 「今日の学習は、これまでの学習とどこが違うのか」
 を考えれば、今日の授業でいちばん大切にしなければならないことが見えてくる。

 事例@でいえば、
 「広さは1平方センチメートルのいくつ分で数値化できること」
 が既習である。
 そして、その日の学習で新たに学習することは、
 「長方形は、数えなくても計算で数値化できること」である。

 既習の「広さは1平方センチメートルのいくつ分で数値化できること」
 をしっかりと押さえることで、
 「長方形は、数えなくても計算で数値化できること」
 の驚きが大きく演出されたのである。

 事例Aでいえば、
 「長方形は、数えなくても計算で数値化できること」
 が既習である。
 そして、その日の学習で新たに学習することは、
 「長方形ではない形でも、長方形の公式を利用できる場合があること」
 である。

 既習の「長方形は、数えなくても計算で数値化できること」
 をしっかり押さえることで、
 「長方形ではない形でも、長方形の公式を利用できる場合があること」
 の驚きが大きく演出されたのである。

 「○○なのに、△△なのは、どうして」
 の「○○なのに」に当たる部分。
 課題提示においては、「○○なのに」に当たる部分が、既習事項になっていることが多い。
 「○○なのに」にあたる部分、つまり既習事項をしっかりと押さえることで、「△△なのは、どうして?」という問いが大きく演出されるのではないだろうか。



・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 お わ り に
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 野中信行先生の言葉に、「味噌汁・ご飯授業」「ごちそう授業」という言葉がある。
 「ごちそう授業」とは、研究授業などのような授業である。
 深い教材研究を徹底的して行われる授業である。
 しかし、そのような授業を毎日できるわけではない。

 それに対して、
 「味噌汁・ご飯授業」とは、日常の授業である。
 この日常の授業の質を上げていかなければいけない。

 日常の授業の質をあげるための、1つの発想として、
 教科書にちょっぴり味付けして、
 「あれ」「どうして」を大きく演出するという発想があっていいように思う。

 教科書は主たる教材。
 料理で言えば材料。
 それに、どんな味付けをして料理するかが、教師の腕の見せ所である。
 ちょっとした工夫で、日常の授業を楽しく料理していきたい。

TOP