前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
「深い学び」に向かう教材づくり
教材づくりのポイント

 「教材研究」とは、ざっくりといえば、
 何を、どうやって身に付けるかを考えることである。
 ここでは、
 @何を
 Aどうやって
 身に付けるかを考える際の、ポイントについて考えたい。。

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 1、身に付けたい力を明確にする
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★身に付けたい力をズバリ一言で

 教材研究で、まずやることは、何を身に付けるのか、「子供に身に付けたい力」を明確に描くことである。

 できれば、その単元や授業で大切なことを、ずばり一言で言えるようになっておくとよい。
「この単元(授業)で大切にしたいことは○○です。
 そのために、○○という教材を設け、○○という手立てを講じます。」
 そんなふうにすっきりと説明できる時は、授業もすっきりうまくいくことが多い。
 子供たちから予想外の反応が出たとしても、ねらいが明確だとうまく対応できるからである。

★子供の具体の姿で描く

 さらに、身に付けたい力を子供の具体の姿で描けるとよい。
・子供が、どんな発言をしたら、その力が身に付いたといえるのか。
・子供が、活動でどんな動きを見せたら、その力が身に付いたといえるのか
 そんなふうに、子供の具体の姿で描きたい。

 おすすめなのが、授業の終わりに子供が書く感想文を思い描いておくことである。
 子供が書く理想の感想文を書いてみる。
 そうすると、子供に身に付けたい力が、明確になっていく。



★領域を貫く考えを踏まえる

 算数において、身に付けるべき知識や技能は、明確に決まっている。
 しかし、その単元で成長させたい見方・考え方はというと、なかなか明確に描くのが難しいものである。
 それを明確に描くための手掛かりとして、私の場合、「その領域を貫く大切な考え方」について考えるようにしている。
 坪田耕三先生は、著書や講演ので、各領域を貫く基本の考えを次のようにまとめておられる。
(注:領域が、現行の指導要領とは多少異なる)
 
 

 【数と計算】の領域
・十進位取り記数法の原理
・位ごとに分けて計算して、あとからたす

【量と測定】の領域
・単位を決めて、そのいくつ分かで数量化する

【図形】の領域
・概念の形成過程を体験すること

【数量関係】
の領域
・きまり発見(変わるものの中に、変わらないものを見いだす)


 
 例えば、六年「対称な図形」の学習であれば、図形の領域なので、
図形の概念の形成過程を体験すること」を手掛かりに教材研究を進めてみる。

 概念とは一般に
比較(比べる)
抽象(特徴を抜き出す)
概括(言葉でまとめる)」
という過程で形成されるといわれている。
 まずは、いろいろな形を見比べて、似ている形同士で仲間に分ける活動が必要になるだろう。
 「対称な図形」の学習なら、つり合いのとれた形とそうでない形に分けることになる。
 そして、釣り合いのとれた形に共通していえる特徴を抜き出し、それを言葉でまとめる活動が必要になるだろう。
 線対称な形の仲間なら「折るとぴったり重なる形」と定義づけることになる。

 こうした「比べる」「特徴を抜き出す」「言葉でまとめる」という概念形成の過程は、三年「三角形と四角形」「いろいろな三角形」、四年「垂直・平行と四角形」等においても大切にしてきたことである。
 「三角形と四角形」なら辺の数、「いろいろな三角形」なら辺の長さという観点で、形を比べ、特徴を抜き出し、言葉でまとめてきた。
 そこに、対称性という新たな観点が加わるのが「対称な図形」の学習ということになるだろう。
 対称性という新たな観点から形を見ていくことで、それまで別の仲間と見ていた形を同じ仲間と見ることができる。
 また、それまで似てると見ていた形をより詳しく仲間分けできる。
 図形の見方が深まるとは、そういうことではないだろうか。

 このように「領域を貫く大切な考え方」を手掛かりに教材研究をしていくと、大切にしたい見方・考え方が少しずつ明確になっていく。

 

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 2、どうやって身に付けるか
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★ 「学ばせたいこと」を「学びたいことに」

 身に付けたい力が明確になったら、それをどう子供に学ばせるかを考える。
 教師にとって「学ばせたいこと」を、子供にとって「学びたいこと」となるように授業を構想するわけである。
 教師の「ねらい」と子供の「ねがい」を一致させるといってもよいだろう。

 「対称な図形」の導入なら、子供に学ばせたいことは「線対称な図形に共通する特徴」である。
 それを、教師が「共通する特徴は何ですか」と尋ねてしまっては、寂しい授業になってしまう。
 そうではなく、子供が「共通する特徴は何か」と考えたくなるように教材を仕組めばよいわけである。

 例えば、「形くじ引き」というゲームをしてみてはどうだろう。
 様々な形を黒板に貼っておき、指名した子に好きな形をひかせるゲームである。
 形の裏には、「当たり」か「はずれ」を書いておく。
 ここでは、線対称な形を当たりに、そうでない形をはずれにしておく。
 子供は最初のうち、当てずっぽうでくじを引いていくだろう。
 しかし、当たりの形が2〜3個集まるうちに、
「左右同じになっている形が当たりなのかな」
「上下同じでもいいのかな」
と、当たりの形を観察し始める。
 そこから、「当たりはどんな形の仲間なのだろう」という学習課題が生まれていく。

 先輩から、
一番教えたいことを、教師が言うではなく、子供に発見させるようにしなさい。
と教わったことがあります。
 大切なことを子供にどうやって発見させようかと考えることで、いろいろな教材が思い浮かんでくる。

 
 
★夢中になれる教材か、4つのチェック

 教材が思い浮かんだら、子供が夢中で考えたくなる教材かどうか、私は次の4点をチェックしている。


必要感が生まれる教材か

驚き・矛盾が生まれる教材か

多様な考えが生まれる教材か

適度な負荷が生まれる教材か


 例えば、「形くじ引き」は、必要感が生まれる教材といえるだろうか。
 きっといえるはずである。
 「当たりのくじを引きたい」という必要感から、形の特徴に目が向くからである。

 では、驚きや矛盾は生まれるだろうか。
 矛盾とは「○○なのに△△だ!」という事象に出会った時に生まれるものである。
 例えば、「A」や「M」のような左右対称な形が登場した後で、「E」や「D」ような上下対称な形が登場すると
「あれ、左右同じ形が当たりだと思っていたのに、Eも当たりだ!」
という驚きが生まれ、
「当たりはどんな形の仲間なのだろう」
という疑問が高まることだろう。
 チェックするうちに、提示の順についても何らかの仕掛けが必要だと気付いてゆく。

 適度な負荷は生まれるだろうか。
 問題が難しすぎても簡単すぎても、子供は夢中にならない。
 児童の実態に応じて、扱う図形の数や形を工夫する必要があるだろう。
 児童の実態によっては、最初は、分かりやすい形だけを提示して、線対称の特徴を言葉でまとめる。
 その後で、紛らわしい形を提示して、それが線対称といえるかどうかを弁別する。
 そうしたやり方だってあるかもしれない。
 チェックするうちに、提示する数や形についてのアイディアがわいてくる。

 多様な考えは生まれるだろうか。
 そもそも、この学習における多様な考えとは、どのようなものなのか、それを考える必要があるだろう。
 きっと、対称な図形に対する素朴な概念が、それに当たるだろう。
 では、素朴な思いを引き出すにはどうすればよいのか。
 どんな言葉かけをして、誰を指名するのか。
 チェックするうちに、授業の細かな部分まで想像が広がる。

 このように、4つの観点から教材をチェックしていく中で、教材がより洗練されていくのである。



















 
適度な負荷は?
   
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