前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
文章題が苦手な子には…
しっかり読むって、どういうこと?

 テストで文章問題を読み間違える子どもがいる。
 そんな時、ついつい
問題文をしっかり読みなさい
という言葉をかけてしまいがちである。

 しかし、「しっかり読みなさい」とは言っているものの、
「しっかり読む」とはどうすることなのだろうか。
 その具体的な指導がなされていることは、案外少ない。

 本稿では、「しっかり読む」とはどういうことなのかについて、考えていきたい。


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 は じ め に
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 子供は、大人が思っている以上に、問題文を読んでいないものである。

 文章問題を解けない子の中には、 
 教師が横について問題文を読んであげると、
 「あ、分かった!」とすらすら解けてしまう子供がいる。
 教師は何の解説もしていない。
 ただ、問題文を読んだだけである。
 それなのに、解けるようになる。
 つまり、その子は問題文を読めていないのである。

 教員に成り立ての頃は、そんな子に出会うと驚いた。
 なぜなら、算数に出てくる文章は、そんなに難しい文章ではない。
 どうして、そんな簡単な日本語が読めないのか、理解できなかったのである。

 しかし、子供と関わっていくうちに、だんだん気付いてきた。
 日本語が読めないわけではない。
 算数の文章題の読み方を知らないことが原因なのである。
 国語の読解力が問題ではなかったのである。

 算数の文章題の読み方は、読書の読み方とは全く違う。
 読書の読み方は斜め読みである。
 日本語は漢字や平仮名、片仮名がまざっているため、斜め読みすることができる。
 漢字だけを目で追っていくだけで、あらすじの大体が分かってしまうのである。
 それに対し、算数の文章題の読み方は、精読である。
 文章題は最低限必要な条件だけで構成されているので、何1つもらしてはならない。

 ところが、算数の文章題でも斜め読みしてしまう子がいる。
 数だけを目で追っていく読み方である。

 実際、教科書に出てくる問題は、数だけを見たら解けてしまうものが多い。
 例えば、「たし算」の学習に出てくる文章題なら、読まなくてもたし算の式になると分かっている。
 数だけを見れば、式が立ち、答えが求まる。
 例えば、「かけ算」の学習に出てくる文章題なら、数だけを見て、それをかければ答えが求まる。

 そうやって、数だけを目で追って斜め読みする癖がついた子が、「たし算」「ひき算」「かけ算」「わり算」のまじったテストに出会うと、とんでもない式を立ててしまうのである。


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 イメージしながら読む
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 それでは「しっかり読む」とは、どういうことなのだろうか。

 まず第一に、「イメージしながら読むこと」だと、私は思う。
 もっと言えば「1文ずつ区切って、イメージしながら読むこと」である。
 さらに言えば「1文ずつ区切って、図をかき、イメージしながら読むこと」である。


★☆ 1文ずつ区切って、イメージしながら読む


 興味深い実験の話を聞いたことがある。
 ある教授が、問題の内容は全く同じで、「改行せずに書かれた問題文」と「改行して書かれた問題文」を出題し、その正答率を比べる実験をしたそうである。
 結果は、「改行して書かれた問題文」の方が正答率が高かったそうである。
 改行する…、たったそれだけのことで正答率が上がるとは驚きである。

<例題>1mあたりの値段が40円の針金があります。この針金4mの重さを測ると200gでした。この針金120gの値段はいくらですか。

<例題>

 1mあたりの値段が40円の針金があります。

 この針金4mの重さを測ると200gでした。

 この針金120gの値段はいくらですか。


 改行することで、1文1文が頭に入ってきやすい。
 この実験から、「一気に読み進んでは頭に入らない」ということが考察できる。
 1文ずつ区切って読んでいかなければ、問題場面をイメージできないのである。

 上の問題ぐらいに複雑な文章になると、ぱっと読んだだけでは関係を把握するのが難しい。
 1文ずつ、頭の中でイメージしながら読み進めることが必要になる。




★☆ 心の中で音読しながら読む!

 とはいえ、子どもは、ついつい、ささっと読んでしまいがちになる。
 1文ずつイメージしながら読むのが苦手な子には、音読させることが効果的である。

 たかが音読、されど音読である。
 先程、問題が解けなかった子が、横で音読してあげるだけで解けるようになったというエピソードを紹介した。
 音読の効果は、大人の予想以上に大きいものである。

 現場の先生方は、音読の効果を、感じておられることだろう。
 そして、授業では、どの先生方も必ず問題文を音読させておられることと思う。
 昔から伝わる、どの先生方も当たり前にやっている教育技術である。

 では、家庭学習においては、どうだろうか。
 案外、斜め読みをしている子が多いのではないだろうか。
 私は、苦手な子には、家庭学習の際にも音読させればいいと思っている。

 それでは、テストにおいては、どうだろうか。
 まさか、テスト中、声に出して音読するわけにはいかない。
 案外、テストの時は斜め読みをしている子が多いのではないだろうか。
 私は、声に出せない時には、心の中で音読させればよいと思っている。
 「心の中で音読」
 そういうと、普通に読むのと同じと思われる方もおられるかもしれない。
 しかし、 「心の中で音読する」のを「普通に黙読する」のとでは、全然違う。
 読むスピードが全然違うのである。
 心の中で音読しようとすると、自然と1文ずつ区切って、ゆっくり読むようになる。


★☆ 鉛筆で追いながら読む!

 また、指や鉛筆で文章を追いながら読んでいくのも効果的である。
 長い文章題になれば、読んだところまで、印を付けながら読んでいくのもいい。


★☆ 図をかきながら読む!


 1文ずつ区切って読むだけでなく、図をかきながら読むということも大切にしたい。
 読んだ後に図をかくのではなく、図をかきながら読み進めるのである。

 そもそも、文章題を全部を読んだ後に、その関係をぱっと図で表せるような子は、既に文章題を理解できている子である。
 むしろ、図が必要なのは、読んだだけではイメージできない子である。
 文章を読んだだけではイメージしづらいから、図をかく。
 1文ずつ、図をかきながらイメージし、イメージしてから次の文へと読み進めていきたい。

 図をかく際、弊害になっている思い込みがある。
 「はじめから完成された図をかかなくてはならない」
 という思い込みである。

 子供の中には、「図は丁寧にかかなければならない」と思い込んでいる子がいる。
 しかし、図はあくまでもイメージしやすくするためのものである。
 例えば、「あめを4人で分けます」という問題文なら、棒人間を4人かくだけでも構わない。
 落書きのような図で構わない。
 メモをするつもりで、図をかいていってほしい。

 また、子供の中には、「図をはじめから清書しよう」と思い込んでいる子がいる。
 複雑な問題になると、一発で簡潔な図がかけることなどない。
 落書きのような図を何度も修正しながら、簡潔な図にしていくのである。
 どんな図でも構わない。
 図というと肩に力が入るなら、メモといった方がいいかもしれない。
 とにかく、何かをかくということが、イメージする上で大切なことある。


★☆ 問題文は4行で板書!

 研究授業を見ていると、模造紙に書かれた問題文がぱっと貼られることがある。
 きっと、少しでも無駄な時間を省こうという思いの表れであろう。
 しかし、問題提示は無駄な時間ではないように、私は思。
 子どもにとっては、一気に全文を提示されると、イメージしづらいものである。

 坪田耕三先生は、著書(算数楽しく授業術)の中で、文章題は4つの文に区切って板書するようにと述べておられる。
 第1文は「状況」
 第2文は「条件1」
 第3文は「条件2」
 第4文は「求答事項」である。

 例えば、次のような板書である。

<例題>

 あめを分けます。        @状況  

 あめは12個あります。     A条件1 

 4人で同じ数ずつ分けます。 B条件2 

 1人分は何個になりますか。 C求答事項


 さらに、その4行も、ただ板書するのではなく、子どもと楽しく対話しながら書いていきたい。

T「あめを分けます」
T「みんなは、どんな味のあめが好き?」
C「ミルク」「レモン」「梅」
T「この袋の中にあめがあるよ。何個入ってるかというと、1、2、3…」
C「10個くらいかな」「20個かな」「100個あったらいいな」
T「…9、10、11、12。あめは12個あります。」
C「たった12個かあ」
C「でも、人数によってもらえる数が多くなるかもしれないよ」

 例えば、そんな対話をしながら板書していく。
 子供の中には、あめの味を尋ねたりすると、どうして算数の時間にそんな質問をするのか不思議そうな顔をする子もいる。
 しかし、案外、そんなことが大切なのである。
 問題文は、1行ずつイメージをふくらませながら、提示していきたい。


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 整理しながら読む
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 「イメージしながら読む」ことの他に、もう1つ大切にしたいことがある。
 それは、「整理しなら読む」ということである。
 整理しながら読むとは、
 「@必要な情報だけ取り出して読む
 「A簡単な数値に置き換えて読む
ということである。

★☆ 必要な情報だけ取り出して読む

 「必要な情報だけ取り出す」とは、具体的に言えば、
 「必要な箇所にアンダーラインを引きながら読む」
 「必要な箇所だけを要約して書き出す」
ということである。


【アンダーラインを引く】

 あめを分けます。あめは12個あります。4人で同じ数ずつ分けます。1人分は何個になりますか。


【要約して書き出す】

 あめは12個

 4人で分ける

 1人分は何個?


 こうして、アンダーラインを引いたり、要約して書き出したりするだけで、問題場面がすっきりと整理される。

★☆ 必要な数値を選ばせる

 教育技術の1つとして、「問題文をノートに写させなさい」とよく言われる。
 もちろん、授業の核になるような問題文は、写させるべきであろう。

 しかし、時には、問題文を写させないこともあってよいのではないだろうか。
 むしろ、場合に応じて、要約して書き出させたり、練習問題ではアンダーラインだけひかせたりと、様々なパターンを経験させることが大切だと思う。
 そうしながら「必要な情報だけを取り出す力」を育んでいきたい。

 また、出題する問題にも工夫を加えたい。
「大切なところに線をひきましょう」と言っても、面倒くさがる子がいる。
それは、線をひく必要感がないからである。
大抵の問題は、問題文に「使う数値」しか書かれていないので、わざわざ線をひく必要がないのである。
 時には、問題文の中に使わない数値を潜ませておき、必要な数値を子どもたちに選ばせるのも面白い。

【必要な数値だけの問題例】
 ケーキが9個ありました。7人の子ども たちが、1人1個ずつケーキを食べると、ケーキは何個残りますか?

【不要な数値もまざった問題例】
 和子さんは6才の誕生会を開きました。ケーキを9個買っておいたのですが、集まったのは7人でした。1人1個ずつケーキを食べると、ケーキは何個残りますか?


問題文を要約してノートにかく

★☆ 要約の技術を教える


 問題文を要約して書き出す場合、原則3行で書き出させる。
 教科書に出てくる問題は、条件が2つと求答事項で成り成っているからである。


【3行で書き出す】

 あめは12個   (条件1)

 4人で分ける  (条件2)

 1人分は何個? (求答事項)


 しかし、中学受験ともなると、こうした単純な問題ばかりではない。
 要約の技術を教えておくことも必要であろう。

要約の技術@ 単位が3種類出てくる問題】

 例えば、単位が3種類出てくる複雑な問題なら、「単位をそろえて書き出すこと」が大切になってくる。

【問題例
1mあたりの値段が40円の針金があります。この針金4mの重さを測ると200gでした。この針金120gの値段はいくらですか。

 上のような複雑な問題になると、単位をそろえないと関係をとらえにくい。



 書き出した数値の中から、さらに必要な数値だけを抜き出す。
 そうすると、関係をもっとすっきりと把握できる。


4ますごとに区切って考えていく。
まずは、左上の4ますだけを見る。

4ますだけを見ると、4mで160円なのが、一目で分かる。

分かった数値(160円)を書き入れて、さらに右下の4ますだけ見る。

そうすると、複雑に見えていた問題が、うんとすっきりしてくる。

大切なのは「4ますだけ書き出すこと」である。
4ますのうち3ますが埋まっていれば、残りの1ますは、必ず埋まるからである。

要約の技術A 比や比例の関係の問題】

 1mの重さが2.3gのはり金があります。ただしさんは、このはり金を4mもっています。ただしさんのはり金の重さは、何gですか。

 上の問題のように、比や比例の関係になっている問題文がある。
 こうした問題も、3行で書き出すよりも、単位をそろえて書き出した方が、関係をとらえやすい。

<3行で書き出した場合>

 1mで2.3g
 4mある
 重さは何g

<単位をそろえて書き出した場合>

 1m → 2.3g

 4m → □ g


こうした整理の仕方があることは、子供に教えておきたい。

要約の技術B 割合の問題】

 ある店では、今日、牛にゅうを144円で売っています。このねだんは、昨日のねだんの90%にあたります。昨日の牛にゅうのねだんはいくらでしたか。

 上のような割合の問題がある。
  こうした問題は下のような図で整理する方が関係をとらえやすい。



 さらに、問題文を「○○の○倍は○○です」と要約して音読してみる。
 言葉の文にすれば、
 「昨日のねだん0.9倍は、今日のねだんです」となる。
 数値の文にすれば、
 「□円の0.9倍は、144円です」となる。
 こうして要約すると、複雑だった関係が、すっきりと整理される。


 問題文を要約して書き出す場合、原則3行で書き出させる。
 さらに、問題に応じた応用の技術も、子供に教えておきたい。


★☆ 簡単な数値に置き換えて読む


 問題によっては、関係そのものが複雑なのではなく、数値が複雑な問題がある。
 小数や分数などが登場する文章題である。
 そんな場合には、簡単な数値に置き換えて読むことも効果的である。
 「数値による難しさ」という余分な負荷を取り去ることで、頭の中が整理されるのである。


 授業で扱うなら、複雑な数値の部分を穴埋めにして提示してもいい。


 (  )mで240円のリボンがあります。

 このリボン1mのねだんはいくらですか。


 上のような形で提示し、
「(  )の中が何mなら、簡単ですか」
と子供に尋ねる。

子供たちは、
「2mなら簡単。240÷2で、答えは120円」
「3mなら簡単。240÷3で、答えは80円」
などと、答えるだろう。

そうした、やりとりをした上で
「(  )の中は、0.8です。」と言って、問題を提示する。


 0.8mで240円のリボンがあります。

 このリボン1mのねだんはいくらですか。


 簡単な数値に置きかえることで、子供は関係をとらえやすくなる。
 そして、立式の見通しが持てるのである。


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 お わ り に
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 ついつい「問題文をしっかり読みなさい」という言葉を使いがちになる。
 しかし、そうした曖昧な指示では、子どもは動けない。

 「区切って読みなさい」
 「1文1文イメージしながら読み進めなさい」
 「図をかきながら読みなさい」
 「必要な数値に線をひきながら読みなさい」
 「要約して書き出しなさい」
 「簡単な数値に置き換えて読みなさい」など、
 具体的な指示をすることで、子供がしっかり読むことができるのではないだろうか。

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