前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
授業のアイディア 4つの発想法

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 は じ め に
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「授業のアイディアってどうやって思いつくんですか?」
先輩に、そう質問したことがある。
答えは、
「苦しみ抜いた先に思いつくものだ」
というものであった。

授業のアイディアを生み出す魔法など、ないのかもしれない。
しかし、私なりに心がけていることはある。
心がければ、必ずアイディアが浮かぶわけではないのだが…。


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 1、アンテナをいつでも立てておく
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 普段の生活の中で、いつでも心のアンテナを立てておくように心がけている。
 意外なことが「あ、これ、算数で使える!」とひらめくものである。
 猛獣狩りゲームを見て、「あ、これ、いくつといくつの学習で使える!」
 住民運動会の満水レースを見て「あ、これ、かさの学習で使える!」
 持久走のラップタイムを見て「あ、これ、折れ線グラフの学習で使える!」
 そんなふうに感じられるように、いつでも心のアンテナを立てておきたい。

 アンテナの感度をよくする方法がある。
 それは、本をよく読むことである。
 私の場合、大抵、研究授業の1〜2ヶ月前になると、自分の持っている教育書や教育雑誌を読み返す。自分が授業する単元のページをさがして、目を通しておくのである。
 熟読ではない。
 目を通すだけである。
 心の引き出しを知識でいっぱいにしておく。そうすると、何かを見た時に、その事象と自分の知識が共鳴することがある。「あ、これ、あの学習で使える」とひらめくのである。
 面白いアイディアとは、意外な事象と事象の結びつきである。引き出しの中身が多いほど、共鳴する可能性が高まるのではないだろうか。



満水レースで
かさの学習



ラップタイムで
折れ線グラフの学習

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 2、悩みをオープンにする
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 時には、引き出しの中身を満タンにできないこともある。
 「はこの形」の授業をした時のことである。当時、「はこの形」は、新指導要領で入ったばかりの単元で、いろんな本を見ても過去の実践記録がほとんどなかった。苦肉の策で、インターネットで調べてみることにした。
 「はこづくり」というキーワードで検索したのだが、ヒットしたサイトは算数の実践と関係ないものばかり…。「子作り」に関するサイトがずらりと並んだ。「〜は、子作り〜」といった内容の記事である。
 今度は「はこ」を「箱」と漢字に変え、「箱作り」で検索してみたものの…、ヒットしたのは、「箱作駅」と「箱作海水浴場」。やはり算数とは無関係である。ちなみに「箱作海水浴場」とは、大阪にある海水浴場で、別名を「ピチピチビーチ」と言うそうである。

 この「はこの形」の授業。
 アイディアをひねり出すのに心がけたのは、悩みをオープンにしたことである。

 最初の悩みはこうである。
 ただ単に箱をつくらせても子どもは夢中にならない。子どもが作りたくなるような箱ってないかなと考えた。「びっくり箱」「箱でつくる高層ビルの町」など、いろんな箱を思い浮かべた。
 せっかくなら、子どもが「綺麗な箱にしたい」と思えるような箱がいい。
 最初は、画用紙で自由に箱を作る。ぐにゃぐにゃの箱が出来上がる。「もっと綺麗な箱にしたい」と箱の形を観察する。そんな学習の展開にしたいと考えたのである。

 さて、子どもが「綺麗に作りたい!」と思う箱って、どんな箱だろうか…。

 自分だけで考えていても、だんだん煮詰まってくる。
「箱の形の授業のことなんだけど…」
 職員室で雑談の合間に授業の話題を切り出した。
 私の学校は、元々、授業が好きな先生が集まった学校である。
 授業の話を始めると、いろんな先生が話に加わってきてくれた。

 隣にいた先生が「宝箱にしたらどう?」と知恵を貸してくれた。
「図工の時間に粘土で宝物をつくって、その宝物を入れるための宝箱をつくるっていうのは、どう?」というのである。
 なるほど。図工と関連させるというのは面白い。
 しかし、1つ困ることがある。
 紙でつくった宝箱は強度が弱い。粘土でつくった宝物を入れると壊れてしまうのである。
 そこで、粘土ではなく、アルミホイルを素材にした作品にしてはどうかと考えた。アルミホイルをグシャグシャにして丸めて、そこにカラーセロファンを貼る。きっと素敵な宝石ができあがる。
 しかし、ここで、また1つ困ることが出てきた。
 宝石だと、丸い形に限られてしまう。それを入れる箱となると、底辺が正方形の箱に限られてしまうのである。

「いろんな形ができるような工作のテーマはないかな…」
そう悩んでいると、向かいにいた先生が、
「魔法の鍵をつくるっていうテーマはどう?」
と知恵を貸してくれた。
 なるほど、魔法の鍵なら、いろんな形が出来そうだ。それを入れる箱の形もいろんな形が考えられる。

 早速、図工の時間に「魔法の鍵」をつくってみた。
 つくってみると、面白い発見があった。
 子どもたちは、鍵だけでなく、「魔法のアイテムだよ」と言って、鍵の周りに小さな装飾品をいっぱいつくっていったのである。「これは使えるぞ」と思った。
 子どもたちの作品を廊下に展示した。案の定、小さな魔法のアイテムはコロコロと転がってしまう。「どうしようかなあ…」と困ってみせると、「箱を作って周りを囲んだらいいのに」という声が聞こえてきた。しめしめである。

 授業の事前検討は、既に考えがきっちりまとまり、指導案も完成された状態で行われることが多い。しかし、考えが固まる前に、いろんな人の意見を聞いておくことも大切である。
 できれば、正式な場でなく、雑談の場で気軽に語り合いたい。実現可能かどうかを抜きにして、自由にアイディアを出し合うのである。どうせ悩むなら、楽しく悩みたいものである。幸いなことに、本校には、授業の悩みを楽しく聞いてくれる先生方がいっぱいおられる。ありがたいことである。







魔法の鍵



魔法のアイテムが
転がっちゃうよ。
箱に入れたいな…



これでばっちり!

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 3、本質について考える
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 授業のアイディアを考える時に心がけていることの3つ目は、その単元の本質は何かを考えることである。
 本質が見えてくると、自分のやりたいことが明確になる。
 やりたいことが明確になると、そのために必要な手立てのアイディアが浮かんでくるものである。

 まずは、学習指導要領とじっくり向き合いたい。
 例えば「はこの形」の学習ならば、学習指導要領解説には次のように記されている。

「ものの形についての観察や構成などの活動を通して、図形を構成する要素に着目し、図形について理解できるようにする」

「図形を構成する要素」とは、面、辺、頂点のことである。これらに「着目」することが大切だと書かれている。「着目する」とは、「辺の数は?」「辺の長さは?」と教師に言われて調べるのではなく、自ら目を向けて調べていくことである。そして「同じ長さの辺が4本ずつあるよ!」「4本ずつ3種類あるから、全部で12本だ!」と、きまりを発見していくことである。

 では、面、辺、頂点に、着目させるためには、どうすればよいのだろうか。
 面に着目させるのは、わりあい容易であろう。大抵、子どもは箱の形を観察する際、まず面に着目するものである。そして「面は6枚ある」「向かい合う面の形は同じ」といったことに気付いていく。
 しかし、なかなか辺や頂点にまで着目する子は少ないのではないか。子どもが辺や頂点に目が向くようにするには、そこに何らかの手立てが必要になりそうである。面だけを観察していては解決できないような場を設定せねばなるまい。

 通常は、箱の形を画用紙に写して、切り取り、組み立てるといった活動をさせることが多い。しかし、それでは辺や頂点に着目しなくても、すんなりと箱の形ができあがってしまう。
 そこで考えたのが、6種類の色板から好きな色板を選んで直方体の箱を作るという設定である。








どれにしようかな?

はこやさんの
色いたメニュー

橙、7p×10p
緑、7p×12p
黄、7p×18p
青、10p×12p
赤、10p×18p
黒、12p×18p


「はこやさんの色いたメニュー」に6種類の色板を並べて、子どもに色板を自由に取りに来させた。
 大抵の子どもは、向かい合う面の形は同じなので、2枚ずつ3種類の色板を選ばないといけないことに、容易に気付いていった。
 まずは、1種類目の色板を自由に選んで底にする。次に、底の色板の辺の長さに合うように2種類目と3種類目を選ぶ、というように活動していった。
 しかし、つなげてみると、2種類目と3種類目の色板の辺の長さがうまく合わない。ここで、子どもたちは辺の長さに着目し始めた。辺の長さが合うように3種類目の色板を取り替えに来たのである。



あれ、辺の長さが
合わないよ!



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 4、面白い間違いを授業に生かす
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 授業のアイディアを考える時に心がけていることの3つ目は、子どもの活動をよく観察することである。特に、間違ってる子の様子を見ていると、面白いアイディアが浮かんでくることがある。

 箱をつくる時に、こんな子がいた。
 正しい6枚の色板を選んだのだが、箱の形にならなかった子である。
 なぜ箱の形にならなかったかというと、組み立てる順番に秘密があった。
 大抵の子は、まず底の色板を決めて、底の色板に4つの側面を貼っていき、最後にふたの色板をはる、という作り方をしていた。
 その子の組み立て方は、違っていた。まず、3種類の色板を1枚ずつ取り出し、それらを貼り合わせた。すると、斜めに切ったような半分の形が出来上がった。次に、それと全く同じものをもう1個作った。そして、最後にその2つを合体させようとしたのである。
 しかし、合体させようとしても、うまく合わない。合体させるには、向きの異なるものを2つ作らなくてはいけなかったのである。

 こんな面白い間違いをする子がいるとは予想外であった。何か授業に生かせそうな気がしてくる。
 この日の授業では、この子の考えを生かす機会がなかったのだが、今度、2年生を担任したら、これを生かして授業を仕組んでみたい。
 例えば、次のような授業展開はどうだろう。まず、子どもたちに箱を半分だけつくらせる。そして、お隣の子と合体させる。ところが、うまく合体しない。どうして?と考えていく授業である。
 間違ってる子の様子を見ていると、面白いアイディアが浮かんでくる




箱にならない





箱になる
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