前田の算数
前 田 の 算 数 実 践 事 例 | |||||
6年 「資料の調べ方」 | |||||
だまされない資料の見方を育む | |||||
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1、は じ め に ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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(1)身に付けたい力 だまされない資料の見方を育む 6年生の「資料の調べ方」の学習。この学習で身に付けたい力は、「だまされない資料の見方」です。「だまされない資料の見方」とは、1つの観点からの情報を鵜呑みにするのではなく、「本当にそう言えるのかな」と多様な観点から考察する見方のことです。 (2)教材について みんなって何? だまされやすい言葉の1つに、「みんな」という言葉があります。 「みんなのお小遣いはもっと高いよ」といったように、日常生活の中で、よく用 いられる言葉です。 それでは、みんなって一体何なのでしょうか。平均した金額のことなのでしょうか。 それとも、その金額をもらっている人が多いということなのでしょうか。 本実践では、1200円のお小遣いをもらっているまさお君が 「みんなのお小遣いはもっと高いよ」と母親に訴える物語を提示し、 その訴えが妥当かどうかについて討論していきました。 提示する資料の数値を、‘平均値’と‘中央値’と‘最頻値’が異なるように設定しておくことで、 「あれ、1200円より安い人の方が多いのに、平均すると1200円より高くなるよ」 という矛盾が生まれるように仕組みました。 そうすることで、子どもたちは、様々な観点から資料を考察していきました。 |
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2 授業の実際 【第1時】 安い人数が多いからって、「安い」って言えるかな? 「物語を作ってきたよ」そう言って、次の話を子どもに聞かせました。
みんなのお小遣いの金額はの通りです。 ここでは、これらの金額を度に全てを見せてしまうのでなく、1つずつゆっくり見せいきました。 ゆっくり提示することで、資料をしっかりと子どもの中に入れたいと思ったからす。 子どもたちからは、「1200円より安い人が多そうだよ」「でも、すごく高い人もるよ」というつぶやきが聞こえてきました。 全て提示し終えたところで、 「みんなのお小遣いは、1,200円より、高いと思う?安いと思う?」 と子どもたちに尋ねました。 全員が、1,200円より安いと思う方に手を挙げました。1200円以上は7人しかいいのに、1200円以下は13人もいるというのが、その理由です。 しかし、安い人数の方が多いからといって「みんなのお小遣いは1200円より安いと言い切れるわけではありません。 ある子どもが「確かに人数は安い人の方が多いけど、1,200円よりうんと高い人いるし、ちょっとだけ安い人もいるよ」と発言し、「平均を求めたらいいんじゃなかな」という声が高まっていきました。 |
みんな? |
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【第2時】 平均が高いからって、「高い」って言えるかな? 平均を求めてみると、1325円でした。 「みんなのお小遣いは、まさお君の1200円より高いぞ!」という驚きの声があがりました。 驚きの声に混ざって、「でも、確かに平均は高いけど…」という疑問の声も聞こえてきました。 子どもは「○○なのに、△△」といった逆転事象に出会うと、考えが揺さぶられます。ここでは「みんなのお小遣いの方が安そうなのに、平均してみると高かった」という逆転事象に、考えが揺さぶられたのです。 ここで、「でも…」を考えていく手立てとして、数直線を提示しました。 数直線に表すと、散らばりの様子が視覚的に分かります。 数直線を見せた後に、次のような物語を聞かせました。
子どもたちには、お母さんになったつもりで反論するように指示しました。 子どもたちは、平均だけを見て高いと言ってはいけない理由を、お母さんになり切って楽しく説明しました。 |
でもね… |
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清司の反論は、 「600円の人が1番多いよ」というものでした。 最頻値(最も人数の多い金額)に着目した考えです。 清司の考えに、他の子どもたちも「600円の人が6人もいるよ」「600円のまわりにもいっぱい人がいるよ。」と付け加えました。 清司は、さらに 「4500円の人が極端すぎるんだから、4500円の人を抜いて平均をとればいい」 という新たな提案をしました。 4500円という外れ値(集団から大きく離れた値)が、たった一人で平均を大きく引き上げていることに気付いたのです。 4500円を抜いた平均を計算してみると、「1158円」になりました。 まさお君のお小遣いである1200円よりも安い金額になるように仕組んでおいたのです。 |
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みんなの特徴を最もよく表している金額はいくら? さて、ここまでの話し合いで、3つの金額が話題にのぼりました。
この3つの中で、みんなの特徴を最もよく表している金額はいくらでしょうか。 子どもたちには「お母さんの立場」も「まさお君の立場」も両方とも忘れるように言い、 「あなたなら、どの金額がみんなの特徴を最もよく表していると思いますか」 と問いかけました。 この問題に正解はありませんが、統計的な根拠をもとに説明できることが大切です。 子どもたちにもそのことを伝え、討論の場を設けました。 まずは、平均値の600円を選んだ子どもたちに根拠を聞きました。 「最頻値」や「外れ値」の考えも聞いた上で、なお、平均にこだわる子どもたちの根拠は、どのようなものなのでしょうか。
平均派の子どもたちがこだわったのは「全員」という言葉でした。 「600円や1158円は、全員を入れていない」というのが彼らの主張です。 実は、私が平均派を先に指名したのは、この「全員」という言葉を引き出すためでした。 「全員ではない」という主張を受けて、最頻値派の子どもたちの考えが揺さぶらることを期待したのです。 最頻値の600円を選んだ子どもたちは次のように反論しました。
富山県が誇る立山を例にした説明は、うまいものです。 「全員ではない」という揺さぶりを受けたことで、根拠が明確になったのです。 |
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外れ値をどう扱えばいいの? 話し合いは、外れ値である4500円の扱いに焦点がしぼられていきました。 「外れ値を入れてでも、みんなの金額でならすべきだ」というのが平均派の主張で、 「外れ値を入れては全体の特徴とずれてしまう」というのが最頻値派の主張です。 清司は、最初、外れ値を抜かした平均の「1158円」を選んでいました。その理由を次のようなものでした。
この発言からは、平均値のよさを感じつつも、外れ値に引っ張られるという欠点を理解しているのが伝わります。清司が考えた「外れ値を外した平均」という案は、その折衷案として考えた苦肉の策だったのです。 しかし、清司は、その考えに満足していたわけではありません。 みんなの真ん中を取りつつも、外れ値に左右されない方法はないかをずっと模索していました。 |
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ちがった見方はできないかな? やがて、清司は 「意見が変わって、やっぱり800円だと思う」 と声をあげました。 考えを見つめ直すことで、新たな考えを作り上げたのです。 突然出てきた「800円」という新たな提案に教室がどよめきました。 800円とはどういう意味なのでしょう。清司は、 「800円なら、それより多い人も少ない人も8人だよ」 と説明しました。 中央値(真ん中の順位の人の金額)の考えです。 清司の考えを、数直線を使って他の子どもたちにも確認しました。 右端と左端から数えて、ちょうどぶつかるところの金額が800円になります。 「平均は金額の真ん中だけど、800円は人数の真ん中だね」 と、ある子が言い、他の子どもたちも納得しました。 清司の案は、一見、新しい発想に見えますが、実はそうではありません。 ある金額よりも多い人と少ない人の人数を調べるという点で言えば、 授業の1番始めに出てきた 「1200円以上は7人しかいないのに、1200円以下は13人もいる」 という素朴な考えと原理は同じです。 考えが逆転して逆転したら、結局、元の考えに戻ったわけです。 しかし、その根拠は、授業の始めよりも深まっています。 清司は、授業後のノートに次のように書きました。
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3 おわりに 私が、授業をする時に心がけていることがあります。それは「本当にそう言えるのかな?」と、子どもの考えを揺さぶることです。子どもは、考えを揺さぶられることで、自分の考えを見つめ直し、考えを深めていきます。 考えを見つめ直すとは、何も、考えを変えるということばかりではありません。今回の授業では、最初から平均の観点で資料を見ていて、最後もやっぱり平均で結論を出した子もいました。また、最初から人数で見て、最後もやっぱり人数で結論を出した子もいます。けれど、考えが変わらなかった子にとって、学びがなかったわけではありません。平均という観点だけで見るのと、多様な観点で見ながら平均の観点を選ぶのとでは大きく違います。考えそのものは変わらなくても、考えの根拠が、より明確になっているのです。 「本当にそう言えるのかな?」と、何度も考えを見つめ直すことで、「だまされない資料の見方」が育まれるのです。 |
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