前田の算数
前 田 の 算 数 実 践 事 例 | ||||||
4年「折れ線グラフ」 | ||||||
800m走ラップタイム ― イエゴ選手の走りに近づこう ― | ||||||
1、はじめに 2、全体計画 3、授業の実際 4、まとめ |
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1、はじめに (1)「問い」が子供自身のものになるには @ 「問い」が子供自身のものになるには 授業をしていて、 「問い」が子供自身のものになっているなと感じる時がある。 そんな時、子供は、目を輝かせて課題に没頭し、 「ああだ」「こうだ」と意見をたたかわせ、 見方・考え方をうんと深めていく。 そんな時は、子供にとっても教師にとっても、 授業が楽しい。 逆に、「問い」が子供自身のものになってないなと感じる時もある。 そんな時には、教師が無理矢理引っ張る授業になってしまい、 子供にとっても教師にとっても、 授業がつまらなくなってしまう。 では、「問い」が子供のものになるには、どうすればいいのだろうか。 4年「折れ線グラフ」の実践をもとに考えてみたい。 A 「問い」が子供自身のものになった姿とは
「切実感をもつ」とは、生活の中に解決すべき数理的な事象を見出すことである。 「曖昧さに気付く」とは、当たり前と捉えていた中に考えてみたい数理的な事象を見出すことである。 そして、このような姿を生み出すためには、次のような手立てを工夫すればよいのではないかと考えた。 B 「問い」が子供自身のものする手立てとは
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(2)単元について ― 「問い」を子供自身のものにするために ― @ 切実感をもたせるための手立て ◇ 生活とかかわりのある問題を教材取り上げる 本実践では、800m走のラップタイムを教材に取り上げた。 子供たちは、体育の授業で800m走の練習に取り組んでおり「タイムを縮めたい」という強い願いをもっている。この願が教材への強い興味・感心を抱かせ、「変化の様子を見やす表したい」という切実感につながると考えたのである。 ◇ 生活の中の素朴な「問い」を数学的な「問い」に洗練させる 単元の導入において、自分のラップタイムと世界上金メダリストであるイエゴ選手のラップタイムと比べるという活動を仕組んだ。 ラップタイムそのもは、イエゴ選手に近づくことなど不可能である。しかし、ラップタイムの変化の様子なら、近づくことがきる。そのため、子供たちが、変化の様子に目を向ていくと想定したのである。 さらに、「変化の様子」に目を向けた子どもたちが数学的な問いをつくり上げるために、話し合いのを設けた。まず、何を見れば自分の走りを見直せのかを確認することで、「変化の特徴をつかみたいという思いを高め「変化の様子を見やすく表したいという問いを作り上げた。次に「グラフで表せばい」と考えていく子どもたちに棒グラフと折れ線ラフを提示することで、「どんなグラフだとより見やすいか」という問いを作り上げた。 このように、生活の中の素朴な願いが、数学的な問いへと洗練されていく過程を想定たのである。 A 曖昧さを浮き彫りにするための手立て ◇ それまでの考えでは不都合が生じるような場面に出会わせる 本実践では、折れ線グラフを用いて、自分の前回と今回のラップタイムを比較する場を設けた。 それは、前回と今回のラップタイムは違いが僅かであるため、変化が見えづらという「不都合」に出会わせるためである。そして、不都合が生じることで、「もっとやすく表せる方法はないだろうか」と、目盛りの取り方に目を向けていく姿を期待したである。 ◇ それまでの考えと矛盾するような事象や考えと出会わせる 波線で目盛りを省略した折れ線グフに対して、大半の子どもたちは、「僅かな変化が分かりやすくていい」と考える。 本実践では、そのような子どもたちに、「同じペースになったことを伝たいなら、目盛りを省略しない方がながらかでいい」という考えと出会せた。 異なる考えと出会うことで、「本に目盛りを省略した方がよいのか」と、自分の考え見つめ直し、「目的に応じ表現方法を工夫することの大切さ」に気付いていく姿を期待したのである。 |
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2、全体計画 第1次 イエゴ選手の走りに近づこう(8時間) イエゴ選手と比べて、自分の走りを見直そう ・ イエゴ選手の走っているビデオを見て、走る速さの変化に目を向ける。 ・ イエゴ選手と自分のラップタイムを調べて、表にまとめる。 変わり方がもっと見やすくなる方法を考えよう ・ 折れ線グラフの存在を知り、読み方を理解する。 ・ 折れ線グラフと棒グラフを比較し、折れ線グラフのよさや特徴を理解する。 ・ 折れ線グラフのかき方を理解し、自分のラップタイムを折れ線グラフで表す。 折れ線グラフを使って、走りの作戦をたてよう ・「ラップタイムの変化を折れ線グラフで表す」→「折れ線グラフを考察し、自分の走りの課題を読み取る」→「走る」という活動を繰り返す。その中で、目盛りのとり方を工夫したり、複数のグラフを重ねて表示したりする。 第2次 いろいろな折れ線グラフを見てみよう(2時間) ・ 折れ線グラフから中間値を推測する。 ・ 身の回りから折れ線グラフを見つけ、他のグラフの使われ方と比較する。 |
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 指導の実際 (1)切実感をもって課題に取り組んでいった子供たち @ もっとタイムを縮めたい! 体育の時間において、「4の2オリンピック」という大会を企画した。 子供たちは、「4の2オリンピック」の種目の1つである800m走の練習に取り組む中で、「もっとタイムを縮めたい」という願いを高めていった。 そんなある日のこと、子供たちに世界陸上のビデオを見せ、
と投げかけた。 最初のうち、子供たちは「腕のふりが…」「足の上げ方が…」などとフォームに目を向けて走りを見直していった。 そのうちに、 「僕たちはだんだん遅くなるけど、イエゴ選手は最初ゆっくりで最後が速かった」 という子が出てきた。これは、走りの変化に目を向けた意見である。 それに対して 「違うよ、イエゴ選手はずっと同じ速さで走ってたよ」 という子が出てきて、本当はどちらなのか議論になった。 さて、そうして生活の中で生まれた議論を、算数の授業で取り上げることにした。 そして、
子供たちは、知恵を出し合いながら、ラップタイムを計測すればいいことに気付いていった。 |
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A 変化を見やすく表したい! 実際にラップタイムを調べてみると、イエゴ選手は一定の速さで走っているのに対して、自分たちはペースが大きく変化していることが分かる。 一人の子供のラップタイムを例に挙げ、みんなで見ていった。 |
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表を見た子供たちは、 「第A区間から第B区間が、一気に6秒もぐーんと遅くなっているよ。 第B区間に入る時に、気を付けるといいね」 「イエゴ選手は1番速いタイムと1番遅いタイムの差が2秒だけど、秋子さんは9秒もあるよ。 最初はもっとゆっくり走って、体力をためておくといいね」 など、口々に感想を語る。 これは、子供たちが自ら変化の様子に目を向け、考察し始めている姿である。 ここで、「変わり方」についての意識をもっと強めるために、 「何を見ると走りを見直せるのかな」と問いかけた。 子供たちは、意見を出し合いながら、走りを見直す時に必要なのは「タイムそのもの」ではなく「タイムの変わり方」であることを確認していった。 そうして「変わり方」への意識が高まっていく中、子供たちから、 「変わり方を見るんだったら、表じゃなくてグラフで表した方がいいんじゃないかな…」 というつぶやきが聞こえだした。 そこで、それらのつぶやきを取り上げて、
という学習課題を提示した。 |
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B どっちのグラフがいいかな? 「グラフで表せばいい」という意見には、全員が納得した。しかし、どんなグラフで表すとよいかについては意見が分かれた。既習の棒グラフを生かそうとする子もいれば、「折れ線グラフっていうのを見たことがあるよ。それを使うといいんじゃないかな」という子もいる。 まずは、思い思いのグラフをかいてみることにした。 そして、「折れ線グラフ」と「棒グラフ」を話し合う場を設けることにした。 棒グラフをかいた子を最初に指名した。 グラフで表すことにより、表と比べ「タイムの変わり方」や「1番速いタイムと遅いタイムの差」が視覚的に見やすくなったことを確認する。 そこに「もっといい方法があるよ」と折れ線グラフをかいた子たちが手を挙げた。 まずは、折れ線グラフの読み方を説明してもらう。 みんなが理解したところで、
大半の子供たちは、「折れ線グラフがいい」と答えた。 理由を聞くと、 「棒グラフは色を塗るのが面倒だけど、折れ線グラフは、速くて簡単だから」だという。 この理由にみんなも納得の様子で、大きく頷いていた。 しかし、加奈子は、
この加奈子のつぶやきを取り上げ、みんなで考えていくことにした。 「面倒だから」という言葉に込められた考えの背景を引き出したいと考えたである。
加奈子のつぶやきをきっかけに、 ・何を表したいかが大切だということ ・変わり方は、傾き方で表されるということ が明確になってきた。 更に話し合いを続けていく中で、 「棒の高さはラップタイムが何秒かを表すけど、ラップタイムそのものはイエゴ選手のようにはなれない。走りで見直すのは、ラップタイムの変わり方だから、傾き方が分かればいい。」という意見が出てきた。 「タイムそのもの=高さ」「変わり方=傾き」と、グラフの特徴を生活と結びつけて捉えた見方である。 また、「線だけだとイエゴ選手のラップタイムもかくことができる」というアイディアも出てきた。重ねて表示できるというのも、折れ線グラフのよさの1つである。 話し合いの中で、明らかになった「折れ線グラフの特徴」をまとめると、次のようになる。 ≪折れ線グラフの特徴≫ ・ 速くて簡単。 ・ 傾き方で変わり方が分かる。 ・ 重ねて比べることができる。 加奈子は、授業の後、ノートに次のような感想を書いている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ このように、子供たちは「タイムを縮めたい」という生活の中の問題から、「変化の様子」という数理的な事象に目を向け、更に「変化の特徴をつかみたい」→「変化の様子を見やすく表したい」→「どんなグラフだとより見やすいか」と問いを洗練していった。そして、問いに向かって追究する中で、折れ線グラフの特徴をより深く捉えていったのである。 |
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(2)自分の考えの曖昧さに気づき、考えを見つめ直していった子供たち |
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@ 1秒の差が表れないよ 「変わり方を折れ線グラフで表したい」という思いを高めた子供たちに、体育の800m走で折れ線グラフを使う場を設けた。 →「走る」→「ラップタイムの変化を折れ線グラフで表す」→「折れ線グラフを考察し、自分の走りの課題を読み取る」→「走る」という活動を繰り返し行ったのである。 |
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→→→→→→→ 走 る→ 折れ線グラフで表す→ 考察する→ また走る |
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その中で、子供たちは折れ線を読んだりかいたりする技能を高めていった。 また、ただ折れ線グラフを読み取るだけでなく、 「300mからタイムがぐんと遅くなるから、最初をもっとゆっくり走って…」 などと、考察しようとする姿も見られた。 何しろ、教科書やドリルに載っているグラフと違って、自分の生のデータである。 「もっとタイムを縮めたい」という切実感が、考察しようとする姿を生み出すのである。 |
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さて、子供たちは、折れ線グラフだと変化を見やすく表せるという「手応え」を感じる一方、次のような「不都合」も感じ始めた。 ラップタイムを1秒縮めることの大変さを実感するにつれ、1秒の重みが増してくる。 しかし、イエゴ選手と自分のラップタイムを比べた時には、変化の様子の違いをはっきりと表すことができたのだが、自分の前回と今回のラップタイムを比べると、違いが僅かであるために、はっきりと表すことができないのである。 ただし、これらの「不都合」は漠然と感じているものであって、まだ「問い」になるまでには至っていない。 そこで、子供たちが漠然と感じている「不都合」を明確なものにするために、ある子の書いた感想を紹介した。
この感想に、みんなも共感した様子で頷きながら聞いていた。 実際に何度も走る中で、誰もが1秒の重みを感じ始めているのである。 ここで、 「1秒の違いも、みんなにとっては大きくなってきたんだね…」と言いながら、 折れ線をかいた2つの紙を提示した。 2つの折れ線は、傾き方が1秒分違うものである。 2つの紙をぱっと見せて隠す。 「実は、今見せた折れ線は傾き方が1秒分違うんだけど、 どっちの傾きが急だったか分かったかな」 と質問すると、子供たちの答えはばらばらである。 子供たちは 「ぱっと見ると違いがはっきり分からないよ」 「グラフで見るとちょっとの差だなあ」 「本当は大きな1秒なのに…」 などと、つぶやいた。 「僅かな違いも見やすく表したい」という願いが子供たちの中に芽生え始めたのである。 |
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A このグラフ、どういうこと? その後、子供たちの中から、波線で目盛りを省略してラップタイムの変化を大きく表す子が数名現れた。 その考えをみんなに広めるために、教室にみんなのかいた折れ線グラフを掲示した。 40個並ぶ折れ線グラフ。その中に、明らかに変化が大きいグラフが数個ある。それを見た子供たちは、目盛りを省略したグラフの前に群がった。 何か言わずにいられなくなったのであろう。子供たちは、グラフをかいた子に質問したり、感想を言い合ったりしていた。 こうして、目盛りを省略したグラフに対して、子供たちの思いが高まっていったところで、話し合いを開始した。 |
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「実は先生も気になるグラフがあったんです」 と言って、AとBの2つの折れ線グラフを提示した。 あえて名前はふせてある。 「○○君のだ」「いや、△△君のだ」と予想を楽しむ子供たち。 子供たちに、誰がかいたものか、その正体を知らせた。 実は両方とも大輔のグラフなのである。 2つとも大輔のグラフだと知って、「えっ?」とつぶやく子、「ははぁん!」と頷く子。 こんなに見え方が違うグラフなのに、同じ人のグラフとは、どういうことなのだろうか。 ざわめく子供たちに、
「Bのグラフは、1秒を3ますにとったんだよ」 「本当は波線の下にもグラフがあるんだけど、書く必要がないから省略したんだよ」 「ここしか必要ないから、ここのいらない部分を省略して、その分大きくしたんだよ」 などと、子供たちは前に出てきて、グラフを指さしながら説明する。 子供たちが説明したことを、更にイメージしやすくするために、Aの折れ線グラフを縦に拡大したものを用意し、いらない部分を切り取ると、Bのグラフになることを実演して見せた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
Aのグラフを縦に伸ばして… いらない部分を切り取ったら… Bのグラフになるね |
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こうして目盛りを省略するやり方について理解した子供たちに、
大半の子は、目盛りを省略したBのグラフを使っていきたいと答えた。 理由は次の通りである。 |
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<Bを使いたい理由 ー揺さぶりの前ー> ・要らない部分をとった方が目盛りが大きくとれるからいい ・変わり方が見やすいからいい |
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子供たちの発言からは、目盛りを省略するよさを理解してはいるものの、まだまだうわべの言葉が多く、目盛りを大きくとれるよさを実感するまでには至っていないように感じられた。 そこで、AとBのどちらを使おうか迷っている子の発言を聞くことで、考えに揺さぶりかけることにした。 迷っているという秋子に、その理由を聞くと、
Aのグラフも見やすいというのは、本当なのだろうか。 みんなで確かめてみることにした。 試しに、大輔の走りが1番遅くなっているのはどこなのか、Aのグラフを使って見てみる。 すると、確かにAのグラフでも簡単に分かるのである。 子供たちは「そうだけど…」「でも…」と、つぶやき始める。 それまでは、漠然と「Bの方が見やすい」と言っていたのだが、「Aも見やすい」という考えと出会ったことで、「本当にBの方が見やすいのか」もう1度考えを見つめ直していいるのである。 そして、子供たちは、Bのよさを次のように説明していった。 |
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<Bを使いたい理由A ー秋子の考えをきっかけにー> 「折れ線グラフってことはどっちも同じだから、どっちとも変わり方は分かるんだけど、Bのグラフだと1秒の違いまでぱっと見て分かるよ。Aのグラフだと2秒遅くなったのがこんな傾きで、3秒遅くなったのがこんな傾きだけど、Bのグラフだと2秒と3秒でこんなに違うよ。」 「たった1秒でも縮めるのはとっても大変だから、1秒の違いまではっきりと分かるBの方がいい」 |
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最初の発言と比べると、子供たちの発言の質が高まったのが分かる。目盛りを大きくとることのよさを、より明確にしていったのである。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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C なだらかな方がいい…!? 子供たちの思いが「傾き方」に焦点化されていく中、良雄が傾き方に対する次のような迷いを口にした。 |
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<良雄の発言> 確かにBは1秒の差を大きく表せるけど、僕は大きくしようかどうか迷っている。 もし、ペースが同じっていう人ならAを使うと思う。 |
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この良雄の発言は、グラフの核心に迫る発言である。 しかし、良雄の言葉はたどたどしく、内容が高度なだけに、他の子供たちには良雄の真意を理解しかねる様子であった。 そこで、私は、あえて良雄の言っていることが分からないような振りをして、 「うーん…。もし、ペースが同じっていう人ならAを使うと思うって、どういうことかな…?」 と首を傾げてつぶやいてみせた。 すると、良雄の発言に対して、何人かの子供たちが 「私、良雄君の言ってること分かるよ」 「良雄君は多分こんなこと言いたいんじゃないかな」 とつぶやき出した。 |
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子供: 良雄君が言ってるのは、例えば走りがなだらかになった人なら、 Aのグラフを使いたいってことじゃないかな。 ガタガタだといやだもん。 教師: 目的によって変わってくるってことかな。 子供: 例えば、同じペースで走るイエゴ選手のような人ならAのグラフを使うってこと。 良雄: 目盛りを大きくするのが嫌な人だっていると思う。 子供: 私たちみたいに、どこが遅くなってるかを見る人はBの方が見やすいけど、 イエゴ選手のようにラップタイムが2秒しか違わない人は、 そんなに1秒を大きくする必要はないと思う。 たった2秒の差をグラフいっぱいにとったら、何だか変になってしまう。 |
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良雄の真意が分かり出すにつれ、クラスがざわつき始めた。 それまで、安易に「違いが見やすい方がいい」と思っていたのだが、果たして本当にそうなのか、自分の考えを見直し始めたのである。 そして、Bを使いたい理由を次のように説明していった。 |
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子供: イエゴ選手と私たちは違う。やっぱり私はBの方を使いたい。 子供: 良雄君の言うことも分かるけど…。 でも、今は走りを振り返るのに使うんだからBの方がいい。 教師: 何を大切にしたいかによって使うグラフが変わっていくってことだね。 では、みんなが大切にしたいことって何なの。 そのためには、どっちのグラフがいいの。 子供: イエゴ選手は違うかもしれないけど、 僕たちは走りを振り返るんだから、Bの方がいいと思う。 子供: 良雄くんの言うことも分かるんだけど…、 振り返るのに使うんだから、Bのグラフの方が分かりやすいと思うよ。 子供: Aの方がいい場合もあるかもしれないけど…、 今は振り返るのに使うんだから、 違いが大きく見えるBの方が走りを確認できると思う。 子供: 走りがなだらかに見えたら、課題が見つからないよ。 私たちにとっては、課題がはっきりと分かるBのグラフの方がいい。 |
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子供たちの意見をまとめると、次のようになる。 ・ 大切にしたいことによって、使うグラフが変わってくること ・ 走りを振り返るには、変化が大きく見えるBのグラフの方がいいこと 良雄の発言をきっかけに、子供たちは、目的に応じてグラフを工夫することの大切さに気づいていったのである。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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さて、ここで話し合いを終えてもよいのだが、私にはもう1つ、子供たちに考えてほしいことがあった。 それは、 「本当に目盛りを省略してもよいのか」 ということである。 そこで次のように揺さぶりをかけた。 「3年生で棒グラフを学習した時のことを思い出してごらん」 そういって、3年生の「棒グラフ」の学習で使った棒グラフを提示した。 本学級の子供たちは、3年生の時、宿泊学習を教材にして「棒グラフ」の学習を行っている。 楽しかった活動のアンケートを行い、棒グラフに表した時のことである。用紙に入りきらなかった「月光ハイク」を2段にして表したグラフに対して、「それでは駄目だ」という話になった。 目盛りを小さくしてでも、ちゃんと1段で表さないと、『本当の高さ』じゃなくなるというのが理由であった。 そんな「棒グラフ」での学習を想起させてから、 「いじわるな質問をするよ」 と言って、子供たちに次のような話をした。 「棒グラフの時は、みんな『本当の高さ』じゃなきゃ駄目だって言ってたよね。 でも、目盛りを省略すると本当の高さじゃなくなるよ。 例えば、Bのグラフだと第7区間が30秒で第2区間が25秒なのに、2倍の高さになってるよ。」 そして、
この揺さぶりに子供たちは「でも…」「だって…」と反論を始めた。 「棒グラフの時は『本当の高さ』が大切だったけど、今は『本当の高さ』は大切じゃないよ。 大切なのは、変わり方だよ。」 「折れ線グラフは高さで見るものじゃないよ。傾き方を見るものだよ。」 などと、棒グラフと折れ線グラフを比べた時のことを想起しながら、説明を行う。 子供たちの発言の中に「高さ」「傾き」という言葉が出てきた。 「高さ」や「傾き」について、もう少し掘り下げて思いを聞いてみた。 「高さっていうのは、ラップタイムの秒数そのもののこと。 傾き方っていうのは、ラップタイムと次のラップタイムの差のことだよ。」 「何秒と何秒が何倍かを比べるなら、棒グラフみたいに本当の高さが大切だけど、 今は差がどう変わっていくかを見る方が大切だよ。」 などと子供たちは、グラフを指さしながら説明した。 どうやら、Bのグラフによって見やすくなることと、見えなくなることがあるようである。 子供たちの考えを整理すると、 ・Bのグラフで見やすくなること =傾き具合 (=ラップタイムの変わり方) ・Bのグラフで見えなくなることは=本当の高さ(=ラップタイムの秒数そのもの) となる。 そして、走りを振り返るのに何が大切なのかを考えると、やっぱりBのグラフがいいのである。 グラフとは、伝えたいことを強調して表すものなのである。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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さて、話し合いを始める前、大半の子供たちがBのグラフがいいと言っていた。 そして、話し合い後、やっぱりBのグラフがいいという結論に達した。 しかし、話し合いを通して、子供たちの考えが変容しなかったというわけでない。 話し合いの中で子供たちは、目的に応じてグラフを工夫することの大切さに気付いていった。 そして、目盛りを省略して変化を強調することの「よさ」と「危険性」を理解した上で、自分たちの目的にはBのグラフが適していると判断したのである。 異なる考えに出会って心が揺さぶられ、考えを見つめ直すことによって、見方や考え方を深めていったのである。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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目盛りを省略したグラフとしていないグラフを比較し、目盛りの省略に関する理解を図る活動は、特に珍しいものではない。 しかし、秋子や良雄の発言のような考えは、例えば「気温」の変化を教材にしていては、決して出てこない考えである。800m走のラップタイムという切実感ある教材を用い、1秒に対する強いこだわりを持たせたからこそ生まれた考えなのである。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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D やっぱり、目盛りを省略するっていいね。 さて、話し合いの後、実際に自分のラップタイムを目盛りを省略したグラフで表してみる場を設けた。 追体験することで、話し合いで深まった見方や考え方を、実感させようと考えたのである。 良雄は、 「なんだか、自分の走りがガタガタになってしまったような気がする。」 と感想を述べ、その後に 「でも、自分の走りの課題がはっきり分かるから、こっちの方がいいな」 と付け加えた。 「課題がはっきりするから、次へのやる気が出てくるね」 と他の子が良雄に続く。 また、「こんなうれしいこともあったよ」と手を挙げる子もいた。 「前よりも1秒速くなったところが、大きく表されてうれしい。」 のだという。 何も課題がはっきりと浮かび上がることばかりが、変化を大きく表すよさではない。 よくなったところも大きく表され、次の走りへの励みになるのである。 話し合いでは気付かなかったよさが、実際にかいてみることで実感できたのである。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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E その後… | ||||||
その後、身の回りになるいろいろな折れ線グラフを調べたり、折れ線グラフから中間値を推測する活動などを行った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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4、まとめ 本実践では、生活とかかわりある800m走のラップタイムを教材に用い、そこから「変化を見やすく表そう」という学習課題をつくり上げることで、子供たちは切実感をもって課題に取り組み、「折れ線グラフ」の特徴を創造的に獲得していった。 そこに、それまでの「折れ線グラフ」では不都合が生じるように単元を構成したことで、子どもたちは「1秒の違いまで見やすく表そう」という願いを高め、目盛りを省略するよさを実感していった。 更に、目盛りを省略する考えに手応えを感じる子供たちに、「なだらかな方がいい場合もある」という考えを出会わせることにより、子供たちは自分の考えを見つめ直し、目的に応じて表現方法を工夫する大切さに気付いていった。 この実践から、次のことが言える。 |
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まず、生活とかかわりある問題を取り上げ、強い興味関心を抱かせる。 そして、その中にひそむ数理的な問いを見出させる。 そうすることで、子供たちは切実感をもって課題に取り組んでいく。 そうして、課題に取り組み、手応えを感じていった子供たちに、 それまでの考えでは不都合が生じる場面に出会わせる。 或いは、それまでの考えと矛盾するような事象や考えに出会わせる。 そうすることで、子供たちは自分の考えの曖昧さに気付き、 考えを見つめ直していく。 そうして、子供たちは見方・考え方を深めていく。 |
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指導案(PDF) | ||||||
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