前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
第4学年 「電卓を使って計算しよう」
電卓マジック 〜算数トリックを見やぶれ〜 
指導案(PDF)



はじめに


東京書籍の教科書に、「電たくを使って計算しよう」というページがあり、次のような電卓を使った不思議な計算が紹介されている。




<不思議な計算>

好きな数字を選んで、そこから3桁ずつ足しながら回り最初の数に戻る。
例えば、123+369+987+741
例えば、478+896+632+214
どこから足しても、どちら向きに足しても、答えは2220になる。


本来は、電卓の使い方を学ぶことがねらいのページなのだが、そこにアレンジを加えてみた。規則を見つけ、見つけた規則が成り立つ理由を考えていく授業である。


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(1)導入のマジック

「マジックをします。」
そう言って、1人の子供を指名する。


教師:1から3の中で、好きな数字を言ってください。

子供:じゃあ、2。

教師:やはり2ですか。
   実はその数字を、先生は予言していたのです。
   ロッカーに貼っておいた紙をめくってみてください。

子供:(紙をめくって…)
   あれ、「2」ってかいてある!?


驚く子供たちから、「もう1回やって」と,、リクエストの声があがる。
「いいでしょう」と言って、1人の子供を指名する。


教師:1から3の中で、好きな数字を言ってください。

子供:じゃあ、今度は3。

教師:やはり3ですか。
   実はその数字を、先生は予言していたのです。
   ホワイトボードに貼っておいた紙をめくってみてください。

子供: (紙をめくって…)
   「3」ってかいてある(笑)


子供たちから笑いがおこる。
しかし、何人か不思議そうな顔をしている子もいる。
「おやおや、みなさん笑ってますね。
 しかし、まだ何人か不思議そうな顔をした人もいますよ。
 念のため、誰かこのマジックのトリックを説明してくれませんか。」
と言って、子供の中の1人に説明してもらう。
「1から3までの紙が教室のどこかに貼ってあって、1って言ったら1の紙をめくって、2って言ったら2の紙をめくって、3って言ったら3の紙をめくる。」
「1から3の何を答えても当たるようになってる。」

実はこのマジック、ナポレオンズがTVでやっていたのを真似したものである。
冗談みたいなマジックであるが、「何を答えても当たるようになっている」という言葉が、この後の授業のキーワードになってくる。

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(2)規則を見つける

 @算数マジック、その1

さて、
「今のは冗談。ここからが本気のマジックだよ。」
そう言って、袋の中から仰々しく紙を取り出す。
いよいよ算数マジックの始まりである。

子供たちは、今度もトリックを見やぶってみせようと、真剣な表情で見つめる。
同じ教材でも、提示の仕方で授業は大きく変わってくる。
今回は、マジック風に演出した導入を試みた。
「トリックを見やぶろう」という挑戦意欲が、「規則を見つけようとする算数的な態度」につながると考えたのである。

袋の中からとりだした紙を裏返しにして黒板に貼る。
「この紙の裏には、数がかいてあります。
 あなた方は絶対にこの数を選ぶでしょう」
そう言って1人の子供を指名する。


教師:電卓の端には4つの数があります。
    1と3と7と9です。
    まずは、この4つの中から好きな数を選んでください

子供:じゃあ、3。

教師:3ですか…。それでは、3から始めましょう。
   3から3まで、電卓を一周します。
   みなさんは、今から先生が言うように電卓をうってくださいね。
   (電卓のモデル図を指さしながら、ゆっくりと数を読み上げる)
   369+987+741+123=
   みなさんの電卓に出ている数は…
   (紙を裏返す。紙には2220と書いてある)
   2220ですね。

子供:…!?


「ずるだ、ずるだ。」
「何を答えても2220になるよ」
とブーイングが起こる。
理由を尋ねると、






子供:1でも3でも7でも9でも、
    どこから始めても、足す順番が変わるだけだから、
    答えは同じ2220になる。

子供:例えば、1から始めたら、123+369+987+741。
    7から始めたら、741+123+369+987。
    式の中に同じ数が出てくるよ

と子供たちが、説明する。
子供たちの説明を聞きながら、式をチョークで色分けして板書する。


 1から 123369987741
 7から 741123
369987


他の子供たちも、納得する。


A 算数マジック その2

「またしても、見やぶられましたね。では、次のはどうかな。さっきのが初級レベル。今度のは超上級レベルですよ。」
そんなことを言いながら、袋の中から紙を取り出して黒板にはる。
そして、電卓のモデル図を指さしながら、今度のルールを説明する。


「今度は、1・2・3・4・6・7・8・9、どこから始めても構いません。
 例えば、2から始めて、236+698+874+412でも構いません。
 さらに、今度はどちら向きに回っても構いません。
 例えば、4から右回りに回って、
 478+896+632+214でも構いません。
 みなさんは、好きな数と、どちら回りかを自由に言ってください。
 その答えが、この紙の裏に書いてあります。」


「また、どれも2220になるんじゃないの」
と子供から野次がとぶ。
気の早い子は、電卓をいじって試し出す。
こんな子供を注意してはいけない。
子供がじっと話を聞いているのは、楽しい授業ではないのだ。

しかし、黙って子供たちの野次に負けているわけにもいかない。
次のように反論した。
「え、どれも2220になる…。そんなはずはありませんよ。
 だって、何から始めてもいいし、どちら向きに回ってもいいんですよ。
 そうすると、16種類もの式ができるんですよ。
 本当に全部2220になりますか。」
そう言って、16種類の式を書いた模造紙を子供たちに見せた。

(左回り)
1から 123+369+987+741
2から 236+698+874+412
3から 369+987+741+123
4から 412+236+698+874
6から 698+874+412+236
7から 741+123+369+987
8から 874+412+236+698
9から 987+741+123+369
(右回り)
1から 147+789+963+321
2から 214+478+896+632
3から 321+147+789+963
4から 478+896+632+214
6から 632+214+478+896
7から 789+963+321+147
8から 896+632+214+478
9から 963+321+147+789

それでも子供たちは、
「きっと全部2220になるよ」と言いはる。
本当に全部2220になるか試してみることになった。

全部「2220」になるか試してみよう
子供たちは、「2220」になることを証明したくて、夢中に電卓をたたく。
そうやって、夢中になって電卓を使っているうちに、電卓の使い方を学習していく。









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B 整理して確かめる

さて、本当なら、ここで
「全部試さなくてもいいんじゃない」
という子が出てきてほしかったのだが、なかなか出てこなかったので、次のようなヒントを与えた。

算数は楽をする教科です。
16種類全部の式を計算しなくても、
全部の答えが2220になることを、確かめられる人はいませんか。

何人かの子供たちが、
「あ、そうか。先生の言ってること分かったぞ。」
と手を挙げる。
その中の1人を指名する。
「同じ数を並び変えただけの式がある。例えば、
 123+369+987+741
 369+987+741+123
 741+123+369+987
 987+741+123+369
 は同じ数を並び変えただけで、答えは同じはず。
 だから、123+369+987+741
 だけ計算すれば、4つともの答えを確かめられる。」
すると、
「他にも同じ数を並び変えただけの式があるよ」 
と他の子供たちも続く。
前に出てきてもらって、同じ数が出てくる式同士を色分けしていく。
だんだん、「あ、そうか」「なるほど」という子供たちが増えていく。

(左回り
1から 123+369+987+741

2から 236+698+874+412
3から 369+987+741+123
4から 412+236+698+874
6から 698+874+412+236

7から 741+123+369+987
8から 874+412+236+698
9から 987+741+123+369
(右回り)
1から 147+789+963+321
2から 214+478+896+632
3から 321+147+789+963
4から 478+896+632+214
6から 632+214+478+896

7から 789+963+321+147
8から 896+632+214+478
9から 963+321+147+789

まとめると、
・左回りで1・3・7・9から始まる式
・左回りで2・4・6・8から始まる式
・右回りで1・3・7・9から始まる式
・右回りで2・4・6・8から始まる式
の4種類の式を確かめればいいことになる。

実際に確かめてみると、4種類とも答えは「2220」になる。















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(3)規則が成り立つ理由を考える。

@理由を考えようとする

マジックのトリックは、見事に見やぶられてしまった。
しかし、授業はここからが本番である。
規則を見つけて終わりではなく、規則が成り立つ理由を考える子供に育ってほしいと思うのである。
そこで、
「やっぱりインチキだった。」
という子供たちに、
「あれ、偶然ですね。
 先生もまさか16種類とも2220になるとは思いませんでした。」
とぼけてみせた。すると、子供たちは、
「偶然じゃないよ。何か理由があるはずだ」
と反論する。
そして、全部が「2220」になる理由を考えていくことになった。


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A考えるべきことを整理する


全部2220になる理由を考えよう

まずは、考えるべきことを整理しなければならない。
・どちら向きに回っても答えが同じになる理由を考え、
・どこから始めても答えが同じになる理由を考えれば、

全部「2220」になることが証明されることを、子供たちに確認した。

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Bどちら向きに回っても答えが同じになる理由を考える

どちら向きに回っても答えが同じになるのはなぜ?
この問題はちょっと難しい。
ヒントが必要である。
そこで、次のように板書してみせた。
筆算にしたところがミソである。



板書する様子を見ていた子から、
「そうか、分かった。」
という声があがる。
「縦ごとに丸で囲めば理由が分かるよ。」
と、ある子供がつぶやく。
「じゃあ、囲んでみますよ」
と、チョークで囲んでいく。

    



百の位から順番に囲んでいく。
百の位を赤で囲み、十の位を青で囲む。
次は何色で囲もうかな…
と問いかけると、
お調子者が「黄色」と答え、別の子が「赤色だよ」と反論する。



「赤色」にしようという子に理由を聞く。
1・3・7・9赤色2・4・6・8青色。」
に区別したのだという。更に、
「左回りでも右回りでも、になる。
 同じ数を足してるんだから、答えは同じになるはず。」
と説明する。

こうして、どちら向きに回っても答えが同じになる理由が証明された。





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C どこから始めても答えが同じになる理由を考える

どこから始めても答えが同じになるのはなぜ?
次に、どこから始めても答えが同じになる理由を考える。
「1・3・7・9」から始めるパターンと、「2・4・6・8」から始めるパターンの2種類がある。
先程と同じように、筆算にして板書する。



そして、先程と同じように「1・3・7・9」は赤、「2・4・6・8」は青と、チョークで色分けして囲んでいくのだが、困ったことになる。



さっきは、どちらも「赤青赤」だったのだが、
今度は、2・4・6・8から始めた式は、「青赤青」になるのである。

」と「」なのに、どうして同じ答えになるのかな。
と子供たちに問いかける。
子供たちは、

「1+3+7+9=20、2+4+6+8=20、どちらも足したら20だよ。
と答える。

それでは、
どうして、どちらも足したら20になるのだろう。
 赤 1+3+7+9
 青 2+4+6+8
2つの式を板書し、見比べる。

ある子が次のように説明した。
「8から2に3あげると、両方5になるよ。6から4に1あげると、両方5になるよ。
 9から1に4あげると、両方5になるよ。7から3に2あげると、両方5になるよ。
 どちらの式も5+5+5+5になるよ。」




同じ説明を別の子に、電卓の図を使って説明してもらう。

向かいの数に、いくつかあげると全部5にできるよ

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見えなかったものが見えてくる!
それが、算数の楽しさの1つである。
ここでは、マジックの中で使われていなかった「5」という数が見えてきたのである。

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電卓の数が全部「5」に見えてくると、答えが2220になる理由は簡単に分かる。


どこから始めても、555+555+555+555
どちら向きに回っても、555+555+555+555
答えは同じ。
当たり前である。




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おわりに

今回の授業では、不思議な計算を知るだけでなく、
不思議な計算になる「理由」を考えた。
不思議と出会った時、「なぜ」と思える子供、
そんな子供に育ってほしいと、私は願っている。

 

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