前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
2年「たし算のひっ算」
「だって…」を引き出す!

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「だって…」を引き出す

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“答え”だけでなく、そう考えた“理由”も説明できる子供に育てたい。
しかし、教師が「理由を説明しましょう」と言ったからといって、
子供がすらすらと理由を説明していくわけではない。
子供に理由を説明させるには、
子供が「だって…」と説明したくなるための“手立て”が必要である。

2年「たし算の筆算」の実践を通して、その手立てについて考えていきたい。


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授業の概要

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本実践では、□の中に1〜5の中から4つの数字を入れて、なるべく大きな答えをつくるという問題に取り組んだ。

【説明場面@】95が1番大きな答えである理由

1番大きな答えは「95」である。
ここでは、答えを求めるだけでなく
「なぜ、95が1番大きいと言えるのか」を説明する場を設けた。

【説明場面A】違う筆算で同じ答えができる根拠
同じ「95」という答えでも、「53+42」「52+43」「43+52」「42+53」の4つの筆算ができる。

  

ここでは、4つの筆算を求めるだけでなく、
「違う筆算なのに同じ答えができる理由」を説明し合う場を設けた。

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授業の実際

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(1) 「あれ?」「そうだ!」をしくんで「だって…」を引き出す

 とある小学校に招かれての飛び込み授業。
 授業の前に、ちょっとしたゲームを行った。
 2つの箱がある。
 箱の中には、それぞれ1〜5の5枚のカードが入っている。
 黒板に「大きい方が勝ち」と板書し、「先生vsみんなの勝負です」と告げた。
 ルールは、次の通りである。


 @ 2枚のカードを引き、2桁の数を作る。

 A 数が大きい方が勝ち


 1人ずつ前に出てきてもらい、
 「代表の子vs教師」で楽しくゲームをおこなった。
 名前を聞いて、ゲームをして握手。
 「勝った」「負けた」と盛り上がり、すぐに仲良くなれた。

 ゲームの中で、子供から、
「数を入れ替えてもいいんですか?」
という質問が出てきた。
 こんな質問ができる子を素敵だと思う。
「いいですよ」とこたえ、
大きい数を十の位にした方が、数が大きくなることを確認した。

 続いて、2つ目のゲーム。
 ここからが、本番。授業の開始である。
 ルールは次の通りである。


 @ 2枚のカードを引き、2桁の数を作る。

 A もう1度、2枚のカードを引き、2桁の数を作る。

 B 2つの数を足す。

 C 足した数が大きい方が勝ち。


ここでは、「何が出てほしい?」と尋ねながらゲームを進めた。
「大きな答えを作るにはどうすればよいか」という課題意識を
子供たちの中に芽生えさせるためである。


1回目のゲーム




2回目のゲーム


 ゲームを進めるうちに、子供が1枚目に「5」を引き当てるという場面に出くわした。
子供たちは「やったあ」と盛り上がる。
 すかさず、教師も1枚目に5を引き当てた。
(実は、思い通りのカードが引けるように細工しておいたのである)

 そして、子供たちに「次は何が出てほしい?」と問い掛けた。
 ほとんどの子が「4」と答えた。
 そこで「特別サービスだよ。箱の中を見ながら引いていいよ」と言って、4 を引かせてあげた。
 次に「みんなが勝つには、先生には何を引いてほしい?」と尋ねた。
 ほとんどの子が「1」と答えた。
 そこで、「特別サービスだよ」と言って、箱の中を見ながら1 のカードを引いてみせた。

「やったあ」と歓声を上げる子供たち。
しかし、「みんなの思い通りに引いたんだから、これでみんなは絶対勝てるよね」
そう問い掛けると、子供たちの自信が揺るぎ始めた。
それぞれの箱に入っている残りのカードを提示してみせると、
子供たちは「あれ、勝てないかも…」とざわめき出した。
最初に5 4を出すより、もっと大きな答えを作る方法があることに気付いたのである。



 そこで、
「このゲームでできる一番大きい答えは何なのだろう」
と子供たちに問い掛け、
「1番大きな答えになる筆算を作ろう」
という学習課題を提示した。

 しばらく自力解決の時間をとった後、話し合いの場を設けた。
 さっき子供たちが作った「54+32」の筆算を見せ、
「これよりも答えが大きくなる筆算はできましたか」と尋ねた。
子供たちは「できたよ」と手を挙げ、
「4を十の位に置けば大きくなったよ」
「1番大きい答えは95になったよ」
「まず、50と40を足して90にして、残った3と2を合わせて5にしたよ」
と説明していった。
 中には、「証明できるよ」という子も出てきた。
「1番大きい5と2番に大きい4を十の位にして、
 3番目に大きい3と4番目に2を一の位にしたから、
 95が1番大きいはずだよ」
というのである。


 誰もが分かっている当たり前のことを説明させようとしても、
子供はなかなか動かない。
 反対に「あれ?」と考えが揺さぶられ「そうだ!」とひらめいたことは、
放っておいても子供は誰かにしゃべろうとする。
 ここでは「4よりも1を引いた方が大きくなる」という意外な事実を提示したことで、
子供の「あれ?」「そうだ!」「だって…」を引き出したのである。


(2)あえて教師が間違えて、「だめだよ! だって…」を引き出す。


さて、1番大きな答えは「95」である。
しかし、答えが「95」になる筆算は1つだけではない。
次の4種類の筆算ができる。



「53+42じゃない筆算もできませんか。」
そう問い掛けると、子供たちは次々と手を挙げて,
「42+53」「43+52」と答えていった。

 しかし、ここでは4種類すべてを発表させずに、
3つまで発表させたところで、1度子供たちを制した。
そして、「すごいなあ。3つもあるんですね」と大げさに驚いてみせた。
子供からは「まだあるよ」「もう1つあるよ」「だって…」という声があがった。
 そこで、
「もう1つあることを、その筆算を言わないでみんなに伝えられないかな」
と子供たちに投げかけた。答えではなく、ヒントを言わせるのである。

 子供たちは、
「(い)を逆にすれば、もう1つできるよ」
「だって、逆にしても答えは一緒だもん」
などと説明していく。

ここでは、子どもの曖昧な説明に対して、教師がわざととぼけてみせた。


教師 「逆?」と言いながら(い)の筆算の紙を裏返す。

子ども「そうじゃなくて、上と下を逆にするの!」

教師 「上と下?」と言いながら、紙を逆さ向きにする。

子ども「「そうじゃなくて、足す数と足される数を逆にするの!」

子ども「(あ)の一の位を逆にしてもいいよ」


教師がとぼけてみせることで、
子どもたちは、正しい用語を使って説明するようになる。


 さて、もう1つの筆算は、「53+42」である。
そのことを確認した上で、次のようにとぼけてみせた。
「さっき“逆にしても答えは一緒”って言ってたよね。
 だったら、こんなのはどう?」
そう言って、数字カードを横に入れ替えてみせたのである。
 子供たちは、
「だめだよ。だって、十の位と一の位を入れ替えたら、
 答えが変わるよ」
「5と3を入れ替えたら、“5と30”が“30と5”に
 なっちゃうよ」
「同じ位の数同士を縦に入れ替えるのなら
 “50+40”も“40+50”も同じだからいいけど…。」
と説明していった。


教師がわざと間違えると、子供たちはむきになって反論してくる。
子供たちにとって、正しいことの理由を説明するよりも、
間違っていることを説明する方が、説明しやすいものである。
ここでは、
「同じ位同士を入れ替えても答えが同じになる理由」ではなく
「横に入れ替えると答えが変わる理由」を尋ねた。
 教師がわざと間違ったことを言うことで、子供の「駄目だよ。だって…」を引き出したのである。


(3)言葉で説明することで、次に使える知識にする

 授業の中で「十の位に1番大きな数と2番目に大きな数、一の位に3番目に大きな数と4番目に大きな数を入れればよいこと」や「同じ位の数同士を入れ替えても、答えは同じになること」を説明し合った。
 頭の中で感覚的に考えたことを、言葉で説明し合う。
 説明し合う中で、考えが一般化され、次に使える知識となるのである。




 授業の終わりに適用問題として「1番小さい答えになる筆算」を求める問題を出題した。
 「十の位に1番小さい数と2番目に小さい数、一の位に3番目に小さい数と4番目に小さい数を入れればよい」ので、答えは13+24=37となる。
 子供たちは、「大きな数を作る問題」で獲得した考え方を使って、問題を解くことができた。

【参考文献】新しい発展学習の展開(東洋館)田中博史
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