前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
学年「三角形と四角形」
「かたちくじびき」で図形を見る目を育む
指導案

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 1 は じ め に
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 坪田耕三先生は、C「図形」の領域において、
概念形成の過程を体験すること
が大切だと述べておられる。

 2年「三角形と四角形」の学習は、子どもにとって初めての本格的な図形の学習となる。
 ここでは、三角形や四角形の定義を教え込むのではなく、そこにいたる概念形成の過程を丁寧に扱っていきたい。

 一般に、概念は「比較(比べる)」「抽象(特徴を抜き出す)」「概括(言葉でまとめる)」という過程で形成されるといわれている。
 本実践では、生活の中で「しかく」「さんかく」と漠然ととらえていた図形の見方が、「比較」「抽象」「概括」という活動を通して、より明確な見方へと変わっていく過程を大切にした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 2 教材について
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 本提案では、「かたちくじびき」を教材に扱った。
 形の裏に「あたり」「はずれ」と書いておき、指名した子に好きな形をひかせるのである。
 三角形を「あたり」にしておくことで、子供たちは、当たりの形をひこうと三角形の特徴をとらえていった。
【参考文献:「算数教科書アレンジ」盛山隆雄(東洋館)】




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 3 授業の実際@
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

★☆ ものの形に見立ててとらえる

 「形くじ引きをします。形くじ引きでは、こんな形を使います。」
 そう言いながら、からの形を1枚ずつ提示していった。
 子供たちは、形くじ引きって何なのだろうと興味津々で形を見つめる。

 ここでは、
 「何に見えますか。」
 と子供たちに尋ねながら形を提示していった。
 ものの形に見立てることで、形の特徴をとらえてほしいと考えたのである。

 子供たちは、
は、富士山みたい。」
は、跳び箱みたい。」
「プリンみたい。」などと発言していった。
 「富士山」「跳び箱」「プリン」というのは、が三角形と違って上の角が欠けていることをとらえた姿である。
 さらに
「プリンみたいだけど、左がちょっと長いよ。」
と辺の長さにも着目する子が出てきた。
 それを聞いた他の子が、
「左が長いから滑り台に見える。」
と付け足した。
 右から上って左で滑るのだと言う。角度に着目して形をとらえた姿である。

 以外の形でも、子供たちは
は、くちばしみたい。」と細さに着目したり、
「○こはおにぎりみたい。」と角の丸さに着目したりしながら、形をとらえていった。


ここでは、
「かどの形に目を向けたんですね。」
「長さに目を向けたんですね。」
「細さに目を向けたんですね。」など、
それぞれの子供の着眼点を価値づけ、板書した。



 また、
は向きを変えるとくちばしみたい。」
は向きを変えるとプリンみたい。」
といった発言も聞かれた。
これらの発言を取り上げ、形に向きは関係ないことを確認した。








★☆ 「同じ」と「違い」を観察する
【比較】

 次に、
の形と似ている形はありませんか。」
と問いかけた。
 からの形が印刷されたワークシートを配り、の形に「似ている」と思った形には○を、「ちょっとだけ似ている」と思った形にには△を、「似ていない」と思った形には×をかくように指示した。
 三角形であるの形と比較し、三角形と何が「同じ」で何が「違う」のかを観察させたいと考えたのである。



 に関しては、「似ている」か「似ていないか」、子供たちの意見が分かれた。
 の形に関しては、
「下の部分が同じだから似てる。」
と捉える子もいれば、
「でも、上につくつくがないから違う。」
と捉える子もいた。
 前者は「同じ部分があるかどうか」で判断したとらえ方であり、後者は「構成要素の数」で判断したとらえ方である。



 の形に関しては、
「細いから似てない。」ととらえる子に対し、
「でも、向きを変えると、つくつくの場所が同じになるよ。」という子が出てきた。
 の向きを変えると、と同じように上、右、左にかどがくるというのである。
 頂点の位置に着目したとらえ方である。
 さらに、
「向きを変えなくても、かどが3つあることは同じ。」
という発言も出てきた。
 頂点の数に目を向けたとらえ方である。

★☆ 「あたり」の形に、共通していえることを見出す 【抽象】

 ここで、
「形は様々な視点で見ることができること」
「見た目が似ているかどうかは、人によって感じ方が違うこと」
を確認し、
「先生もあるきまりで、これらの形を“当たり”と“当たりじゃない形”の2つの仲間に分けてみました。」
と子供たちに告げた。
 試しにを裏返してみせると、裏に「当たり」と書いてある。
 三角形の裏には「当たり」、そうでない形の裏には「はずれ」と書いておき、くじ引きゲームができるようにしておいたのである。

 「くじびきをひいてみたい人?」
と尋ねると、たくさんの手が挙がる。
 最初に指名した子供はを引いて「当たり」、次の子供はを引いて「はずれ」、3番目の子供はを引いて「はずれ」であった。
 「当たり」の形と「はずれ」の形に分けて黒板に貼っていくと、だんだんきまりが見えてくる。
 くじを引く度に、まわりの子供たちから、
「それは、はずれだよ!」
「○○が当たりだよ。」
という声が飛び交った。

 そこで、
「“当たり”はどんな形の仲間なのでしょう。」
と問いかけ、ワークシートの「当たり」だと思う形を赤で囲むよう指示した。
 その後も同様にくじ引きを続けたが、くじを引く前に、みんなに「当たり」か「はずれ」かを予想させ、その理由を尋ねていった。



 の形では、子供の予想が半々に分かれた。
は細長くて、向きを変えても○あと似た形にならないから。」
というのが「はずれ」だと思う理由である。
 しかし、裏返してみると「当たり」であった。
 子供たちからは、
「あれ?」「どういうこと?」
「太さは関係ないのかな…。」
というつぶやきが聞こえてきた。



 また、の形でも、子供の予想は半々に分かれた。
 裏返してみると「はずれ」であった。
 子供たちからは、
「線が曲がっていたら、だめなのかな?」
というつぶやきが聞こえてきた。
 こうしたことを繰り返しながら、子供たちは、当たりに共通するきまりは何なのか、自分の考えを何度も修正していった。


★☆ 言葉でまとめて定義付ける 【概括】



 の形でも、子供たちの予想が半々に分かれた。
 子供からは、
「当たりはさんかくだよ。」「はずれにもさんかくがあるよ。」
というつぶやきが聞こえてきた。
 ここでいう「さんかく」とは、子供たちが生活の中で曖昧にイメージして使ってきた言葉である。
 この「さんかく」について、約束事を決め、明確に「三角形」と定義していく必要がある。

 そこで、
「“当たり”にも“はずれ”にも“さんかく”があるという声が聞こえました。“当たり”の形は、どんな形だと言えばいいですか。」
と問いかけた。
子供からは
「“ぴったりのさんかく”が当たり。」
「“さんかく”の直線になってる形が当たり。」
という答えが返ってきた。
「“さんかく”って何ですか。」
と、さらに突っ込むと、子供は
「かどが3つの形」
と構成要素から形の特徴を説明していった。
 確かめてみるとに、当たりの形は全てかどが3つなのに対して、はずれの形をみると、例えばはかどが4つになっている。
 しかし、はずれの形を確かめていくと、おかしなこともおこった。
 は、かどが3つなのに「はずれ」なのである。



 「あれ、おかしいですね。」
と言ってみせると、子供たちは
「そうじゃなくて…。」
「かどが3つなだけじゃなくて…。」
「当たりは、かどが3つで、直線も3つの形。」
と必死に反論していった。
 「当たり」の形の定義をと修正していったのである。



 さらに、のように線が途切れた形を提示してみせると、
「当たりは、かどが3つで、直線も3つで、途切れてない形。」
と「当たり」の形の定義をより明確に修正していった。

★☆ 言葉を吟味する

 ここで、「当たり」の形のように「かどが3つで、直線も3つで、途切れてない形」の仲間を「三角形」と呼ぶことを子供たちに伝えた。

 さらに、言葉を吟味するために、教科書に書いてある「三角形の定義」と比較した。
教科書には
『3本の直線でかこまれた形を三角形といいます。』
と書かれている。
 「3本」「直線」という言葉は、みんなで作り上げた約束事と共通している。
 また、みんなのいう「途切れてない」にあたる言葉が、「かこまれた」という言葉である。

 しかし、1つ違うところがある。
 教科書には「かどが3つ」という言葉は書かれていないのである。
 かどの数は3つじゃなくてもよいのだろうか。
 子供たちに、「かどが3つ」と書かれていない理由について尋ねた。
 子どもたちは
「3本の直線でかこめば、いつの間にか、かどが3つになるから、わざわざ書いていない。」
のだと説明した。
 3本の直線でかこめば必ずかども3つになることを、実際にかいて確かめる場を設け、みんなで確認した。
 このように、教科書の言葉と比べたのは、「定義」と「性質」の違いを、2年生なりにとらえさせたかったからである。

★☆ 定義をもとに弁別する

 授業の最後に、残った形を定義をもとに三角形(当たり)と三角形じゃない(はずれ)に弁別する活動をおこなった。
 ここでは、弁別するだけでなく、その理由も言わせた。
 子供は
「これは4本の直線でかこまれているので、三角形じゃありません。」
「これは3本の直線でかこまれているので、三角形です。」
といったように、定義の言葉を使って理由を説明していった。


【図形の概念形成について】

 本単元が子供にとって初めての図形を定義付ける学習となる。
 定義を理解するだけにとどまらず、図形をどのように見て定義づけていけばよいのか、その過程を体験することを大切にした。

★☆比べる活動 【比較】
 三角形の概念を形成するには、まず「三角形」と「そうでない形」を見比べる活動が必要になる。どこが「同じ」でどこがの「違う」のかを見比べるのである。本授業では、の形と似てるかどうか見比べる活動を行った。見比べる中で「かどの数が違う」などの違いが見えてきた。
★☆共通していえることを見出す活動 【抽象】
 次に、似ている形同士で仲間に分け、そこに共通していえることを見出す活動が必要になる。本授業では、くじ引きをおこない、当たりの形を観察する活動を行った。「向き」など形に関係ない要素や、「細長い」「平ら」など曖昧な特徴を捨象していくと、「辺の数」といった構成要素だけが共通の特徴だと分かってきた。
★☆言葉でまとめる活動 【概括】
さらに、それらの共通性を言葉でまとめる活動が必要になる。本授業でいえば、「当たり」の形を
どんな形と言えばよいか話し合った。「3本の直線でかこまれた形」と定義づけることで、それまで違った形とみなしていた、細長い三角形も、同じ仲間だととらえられるようになった。

 今後、学年が進むにつれ「辺の長さ」「平行」など着目する構成要素は変わっていく。
 しかし、こうした図形の見方は、どの単元にも共通していくものである。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 3 追 記
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ここでは三角形を当たりにした。
 このくじ引きは、四角形を当たりにすれば、四角形の学習にも使える。
 直角三角形を当たりにすれば、直角三角形の学習にも使える。
 単元を通して使える教材である。

TOP