前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
1年「かたちあそび」 〜積み木の遊園地〜

     


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1、条件を工夫することで、“遊び”を“算数的な活動”に! 
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 1年生の“かたちあそび”、
 ともすれば、“ただの遊び”になってしまいがちである。
 楽しく遊ぶ中で、‘算数的な気づき’が生まれるようにしていきたい。
 本実践では、積み木で遊園地をつくった。
 その中で様々な『条件』を工夫することで、
 算数的な気づきが生まれるように授業を仕組んだ。




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2、 単 元 の 概 要
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全体計画(全5時間)
第1次 積み木遊び (30分)
 ・積み木を使って自由に遊ぶ
第2次 遊園地をつくろう (60分×3)
 ・活動@ 世界一高いタワーをつくろう!…【本時】
 ・活動A 世界一楽しいジェットコースターを作ろう!
 ・活動B 上から見た絵をつくろう!

積み木の遊園地:活動@
 
 世界一高いタワーをつくろう!  

積み木でタワーを作る。
「高いタワー」という条件を付けるところがミソである。

子どもたちは、まず、積み木を選んで取ってくる。
できるだけ高いタワーを作ろうと、大抵の子は直方体の積み木を真っ先に選ぶ。
反対に、球の形の積み木は使おうとしない。
「高い」という条件を付けることで、「転がりやすい形」と「転がりにくい形」を見分けて選ぶという算数的な営みが自然と生まれてくるのである。

次に、選んだ積み木を積んでいく。
最初のうち、子どもたちは、とにかく上へ上へと積んでいく。
しかし、上に積んでいくばかりでは、すぐに崩れてしまう。
何度も失敗する中で、子どもたちは様々な工夫を始める。
例えば、積み木を縦長ではなく、横長の向きで置いて安定させようとする子。
辺の長さや面の形に着目した姿である。
例えば、タワーの下の方をたくさんの積み木で固めて、土台を安定させようとする子。
タワーの形を角柱から角錐にしようとしている姿である。
「高い」という条件を付けることで、立体図形の様々な要素に着目していくのである。


どの積み木を使おうかな


どんどん積み上げると…  わあっ 倒れちゃった!


積み木の遊園地:活動A
  世界一楽しいジェットコースターを作ろう!

  

積み木で作った坂道に球を転がす。
名付けて『積み木のジェットコースター』である。

ここでは、子どもたちに手渡した積み木にちょっとした仕掛けを施す。
あえて、直方体の積み木を少なめに、三角柱の積み木を多めに手渡すのである。
最初のうち、子どもたちは、直方体を土台に使い、三角柱を坂の部分に使う。
しかし、もっと長いコースが作りたくなるにつれ、だんだん土台になる部分が足りなくなっていく。
そんな中で、三角柱を2つ合わせて直方体の形にする工夫が生まれていく。
あえて直方体を少なく手渡すことで、三角柱2つを直方体とみる発想が生まれるのである。


 しかくい積み木が足りないな


 さんかく」と「さんかく」で「しかく」になるよ



積み木の遊園地:活動B
  上から見た絵をつくろう!

バイキング、バス、チケット売り場などなど、遊園地にある様々なものを作る。
ここでは、真上から見て絵になるようにという条件を与えた。
つまり投影図をつくるのである。
手渡す積み木は、前回同様、直方体を少なめにする。
「四角を使いたいけど、もう直方体がない」
そんな状況に追い込まれた子どもたちは、三角柱や円柱も、見る角度を変えれば、四角形に見えることに気付いていく。
投影図をえがくことで、子どもたちは面の形に着目していくのである。






横から見ると…
何だこりゃ??



上から見ると…
あっ、バスだ!!



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 授 業 の 実 際 
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 世界一高いジェットコースターをつくろう

(1) 導入

「遊園地には何がありますか」
そう質問すると、
「ジェットコースター」「観覧車」「メリーゴーランド」などと、
子どもたちから、いろいろな答えが返ってきた。
そんな子どもたちに、
「実は、今日、遊園地の地図を持ってきたんです」
と言って地図を提示した。
何もかいてない大きな地図である。

 

子どもたちはきょとんとした顔になり、
「え、それが遊園地?」「でも、何もないよ…??」
とざわめきだした。
そこで、「そうだね。これじゃあ寂しい遊園地だね」
と、教師も子どもと一緒になって、困った顔をしてみせた。
1年生には、こんな演技が有効である。
ある子が「だったら、みんなでつくっていこうよ」と声をあげ、
みんなも「そうだよ、みんなでつくればいいよ」と賛同していった。

ここで、
「これから積み木で楽しい乗り物や建物を作っていくこと」
「作った作品を写真に撮って、地図にはっていくこと」
を子どもたちに提案した。
子どもたちは「さんせーい!」という力強い返事を返し、
これから始まる「形あそび」の学習への期待を高めていった。




(2) 活動@

遊園地にあるタワーの写真をいくつか提示し、
今日はまず、タワーをつくることを、子どもたちに告げた。
更に「ただのタワーではありません。世界一高いタワーです」
そう付け加えた。
この「高い」という条件を付けるところがミソである。
高く積み上げるという活動が、算数の学びにつながっていくのである。

まずは、積み木を取ってくる。
この「積み木を選んで取ってくる」というのも、算数的な活動なのである。
面白いことに、大抵の子は直方体の積み木を真っ先に選ぶ。
反対に、球の形の積み木は使おうとしない。
子どもたちは無意識のうちに、これまでの生活経験から「転がりやすい形」と「転がりにくい形」を見分けているのである。
     


次に、選んだ積み木を積んでいく。
ひたすら高く積み上げるというシンプルな活動である。
低学年の子どもたちは、こうしたシンプルな活動にこそ夢中になる。
最初のうち、子どもたちは、とにかく上へ上へと積んでいく。
しかし、上に積んでいくばかりでは、すぐに崩れてしまう。
何度も失敗する中で、子どもたちは様々な工夫を始め出した。
例えば、積み木を縦長ではなく、横長の向きで置いて安定させようとする子。
辺の長さや面の形に着目した姿である。
例えば、タワーの下の方をたくさんの積み木で固めて、土台を安定させようとする子。
タワーの形に着目した姿である。



ここでは、4人グループで1つのタワーをつくることにしておいた。
グループで活動するというところがミソである。
「こうした方がいい」「ああした方がいい」と、グループ間でのかかわりが生まれてくる。
また、そのうちに、他のグループがつくった高いタワーが目に入ってくる。
すると「あのグループはどうやって、あんなに高いタワーつくったんだろう」
と気になり出す。
グループ同士のかかわりが生まれてくるのである。

こうして、積み木を横長の向きで置いて安定させようとする姿やタワーの下の方をたくさんの積み木で固めて、土台を安定させようとする姿に、子どもたちの関心が高まってきたところで、一旦話し合いの場を設けることにした。


わあ、倒れちゃう



「土台を太くしようよ!」
「積み木を横向きに置いていこうよ」
(3) 話し合い

話し合いの場では、子どもたちが活動の中で何気なく行った算数的な営みを、言葉で表し、価値づけていく。

まずは、使った積み木について考えていくことにした。
「この積み木(直方体や三角柱)は人気があったけど、この積み木(球)は人気がなかったね。 どうして、これ(球)は使わなかったの?」と子どもたちに尋ねた。
「だって、しかくやさんかくはいいけど、まるい積み木はバランスが悪いもん」
「まるいから転がってしまうもん」
と子どもたちは答えた。
生活経験の中で、転がりやすい形と転がりにくい形は認識しているようである。
子どもたちは「当たり前だ」という顔つきであった。

そこで、形に対する見方をもっと掘り下げるために、意地悪な質問をすることにした。
「へえ、まるい積み木は駄目なんだね」
と言って、円柱の積み木を提示したのである。
「これもまるいから使えないね」
と、子どもたちの考えを揺さぶった。

子どもたちは、「まるでも、こういうのならいい」と口々につぶやき、
「だって、縦にすれば立つもん」
などと、その理由を説明していった。その中で、
「この形(球)には真っ直ぐなところがないよ。でも、この形(円柱)には真っ直ぐなところがあるよ。だから、この形(円柱)は使っていいよ」
という発言が出てきた。
子どもなりの言葉で、球の特徴を的確にとらえた発言である。

次に、積み上げ方について、考えていくことにした。
「横長に置くのと、縦長に置くのではこっちの方が高いよね」
そう言った後に、
「それなのに、横長に置いてるグループが多かったよ。どうしてかな」
と尋ねた。

算数には何気なく見過ごしがちな「矛盾」がたくさん転がっている。
「〜なのに〜なのは、どうして?」
と尋ねることで、そんな「矛盾」に目を向けさせる。
これは、子どもの心を揺さぶる発問技術の1つである。

縦長に置く方が高いのに、横長に置くのはどうしてか。
子どもたちは、その理由を次のように説明していった。
「だって立てて置くと最初はいいけど、後からすぐに倒れるよ」
「横に寝かせて置けば倒れにくいよ」
「細い積み木はバランスが悪くなるからだめだよ」
「上の方は、立てて置いてもいいけど、下の方は安定させないとだめだよ」
「下を太くするとたおれにくいよ」
















縦長は、高いけど倒れやすい
横長は、低いけど倒れにくい



(4)活動A

さて、話し合ったことを参考にしながら、もう1度、タワーをつくる時間を設けた。
最後にできあがった作品を写真に撮り、地図に貼った。


<板書>



<掲示>



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 お わ り に
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低学年の算数は、遊びの中で学習していきたいと思っている。
しかし、ただの遊びであってはいけない。
遊びの中に算数的な気づきが生まれるように、
場の設定を工夫することが大切である。
そして、遊びの中で生まれた算数的な気づきを、
言葉で表し、価値づけていくことが大切である。
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