前田の算数

前 田 の 算 数  実 践 事 例
1年「かさくらべ」
まんすい リレー! どちらが おおい?
指導案(PDF)

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1、満水リレーで、かさの学習
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住民運動会の人気種目に満水リレーというゲームがある。
コップに水をくんで、瓶に注いでいき、はやく瓶が満水になったチームが勝ちになるという楽しいゲームである。

この満水リレー、算数の教材として見ても、面白い要素がたくさんある。
例えば、満水リレーを行う中で、ある容器から別の容器に水を移し入れたり、他のチームと瓶の水の高さを比べたりするなど、かさの学習の素地となる体験が豊富にあるのだ。
本実践では、満水リレーを教材にして1年生「かさくらべ」の学習を進めた。

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2、授業の実際
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 −比較を通して、新しい視点を獲得していった子どもの姿−


第1時(60分)


@ 高さも太さも異なるコップのかさを比較する中で、
 「正確に」比べられる方法を求めていった子どもの姿

 子どもたちに、1グループ4人の計グループで「まんすいリレー」を行い、順位を競い合うことを伝えると、みんな「面白そう」「負けないぞ」と大喜びで、教材への興味・関心を抱いた様子であった。

 さて、「まんすいリレー」を教材化するにあたって、子どもたちが「かさ」に着目するように、ルールにちょっとした仕掛けをほどこした。使うコップを2種類用意したのである。くじ引きを行い、1番になったチームから順に、使うコップを選んでいく。
勝負がかかっているから、当然、多く入るコップを選びたい。コップを選ぶ中で「このコップがいい」「あのコップがいい」と、子どもたちがコップに入る水のかさに着目していくことを狙ったのである。



【満水リレーステージ@のルール】

 
・コップに水をくんで、ペットボトルに注ぐ。
・ペットボトルを満水にする速さを競う。
・1グループ4人の計10グループで一斉に勝負し、順位を競う。
・グループの4人で、1杯入れるごとに交代して注ぐ。リレーのようにコップをまわしていく。
・使うコップは2種類あるコップの中から選ぶ。
 (2種類のコップが5個ずつある。くじ引きを行い、順番に好きなコップを選んでいく)



まん水リレーのルールを説明し、2種類のコップを提示した。
太さも高さもばらばらなのコップである。
グループごとに使いたいコップを選んでいくと、高さの高いのコップが圧倒的に人気だった。
しかし、実際にゲームをしてみると、を使ったグループがどんどん満水になっていく。
子どもたちは「あれ、のコップの方が多く入りそうだよ」
「いや、やっぱりのコップだよ」
と、コップに入る水のかさに着目していった。

  

ゲームの後、教室に戻り
「多く入るコップは、どちらですか」と問いかけた。
だよ。だって、の方が高いよ」
「でも、の方が太いよ」
と子どもの意見が分かれた。
だ!だ!と元気に言い合ってた子どもたちだったが、
「絶対にそうかな」
と問いかけると「絶対とは言えないけど…」と自信が揺らいでいった。
そのうちに
「見た目だけでは分からないよ」
と発言する子どもが出てきた。
高さも太さも揃っていないから比べられないというのである。
そこで、正確にかさを比べられる方法について考えていくことにした。

そんな中、ある子どもが
「粘土みたいにぎゅってコップの形が変えられたら比べられるのに…」
とつぶやいた。
確かに、コップは粘土のように形を変えることはできない。
しかし、中に入っている水なら、移し替えることで形を変えることができる。
この発言をヒントにしながら、正確にかさを比べられる方法について考えていくことにした。
まずは、グループごとに様々な方法を試す場を設けた。
子どもたちは、思い思いの方法で、コップのかさを比べていった。

ここでは、太さも高さもばらばらなのコップを提示することによって、
の方が太いから多い」「の方が高いから多い」
という一見矛盾した考えが引き出された。
そして、それを正確に確かめようという切実感が生まれた。
比較を通して「正確に」という視点を獲得したのである。

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のコップを使いたいっ!


あれ!?
のコップが勝ってくよ…



の方が高いけど
の方が太いよ
見た目だけじゃ分からないな





どっちが多く入るの?
正確に比べなきゃ!





A 正確に比べられる方法同士を比較する中で、
 「より速く」「より簡単な」方法を求めていった子どもの姿

活動の後、それぞれが考えた方法を発表し合う場を設けた。

琴美児は、どちらかのコップからもう一方のコップに水を移し替える方法を発表した。
のコップの水をのコップに移し入れると溢れ、のコップの水をのコップに移し入れると余るから、の方が多く入ると分かったのだという。
いわゆる直接比較である。
   

ある子どもは、別の容器に揃えて比べる方法を発表した。
と○いのコップの水を、ペットボトルに移し替えると、の方が高くなるから、の方が多く入ると分かったのだという。
いわゆる間接比較である。



また、ある子どもは、小さな容器に移し替えて、その何杯分かで比べる方法を発表した。
いわゆる任意単位による測定である



どちらかのコップに揃えたり、別の容器に揃えたり、小さな容器に揃えたりと、揃える物はそれぞれ異なるが、どの方法にも共通するのは「揃えている」ということである。
どれも正確にかさを確かめられる方法であることを確認した上で、
「もし今度、今回と同じように2つの入れ物の多さを比べる問題が出たとしたら、
 どの方法を使いたいですか」
と問いかけた。

それぞれが、自分が一番使いたい方法を選び、お互い選んだ理由を発表し合った。
そして、自分と異なる考えと比較する中で、自分の考えを見つめ直し、根拠を明確にしていった。

琴美児は、どちらかのコップからもう一方のコップに水を移し替える方法を選び
「他のものを使わなくてもそれだけでできるし、簡単で速いから」
と理由を述べた。
この琴美児の発言に、他の子どもたちも心を動かされていった。
それまで、小さなコップ何個分で表す方法がいいと言っていた子も
「ああ、そうか。やっぱり、ぼくもその方法がいいよ。
 だって小さいコップに入れてたら、大変だったもん」
と賛同した。

琴美児は、授業後のノートに、次のように書いた。





琴美児のノート

 なんでこの方法を選んだかというと、 3つの便利な条件がそろっているからです。
 @速い
 A簡単
 B比べたい物と水、
  それだけで比べられる

正確に比べられる方法同士を比較する中で、
「速く」「簡単に」という新しい視点が生まれてきたのである。

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第2時(60分)


B どちらも簡単だという方法同士を比較する中で、
 「能率性」や「明瞭性」に目を向けていった子どもの姿


【満水リレーステージAのルール】
※使うコップは3種類の中から選ぶ。
  (3種類のコップが4個ずつある。くじ引きを行い、順番に好きなコップを選んでいく)

満水リレーステージ2では、ステージ1とは異なり、3種類のコップを使って満水リレーを行うことを告げ、の3種類のコップを提示した。
使いたいコップを選んでゲームを始めると、子どもたちは、ステージ1の時と同様にコップのかさに着目していった。

  


ゲームの後、教室に戻り、3つのコップのかさの順番はどうだったのか、子どもたちに尋ねた。
口々に、自分の予想を言い合う子どもたちだったが、
「じゃあ、多数決で、決めようか」と提案すると、
一斉に「だめー!」という声があがった。
前回の学習を生かし
「見た目だけでは分からないよ」
「ちゃんと確かめてみなきゃ」
と考えたのである。

そこで、正確に比べる方法を考えていくことにした。
「前回は、琴美さんの方法(直接比較)が簡単だって言ってたよね。
 でも、今回はコップが3つだよ。
 3つでも確かめられるかな?」
と子どもたちに投げかけた。
自信なさそうな表情の子どももいれば、
「できる、できる」と自信たっぷりの子どももいた。
まずは、グループごとに実際に確かめてみる場を設けた。

琴美児のグループは、前回の方法を生かし、直接比較を繰り返して比べていった。
まず、を比べ、次にを比べ、最後にを比べていったのである。
コップが3つに増えても、自分の考えが使えることに、琴美児は自信を深めた様子であった。
その他のグループも思い思いの方法で、3つのコップのかさを比べていった。

活動後、それぞれの方法を発表し合った。
最初に琴美児を指名し、直接比較を繰り返す方法をみんなに紹介した。
みんなも、それなら正確に比べられると納得の表情であった。

   


そこに「もっといい方法があるよ」と和歌子児が手を挙げた。
和歌子児が発表したのは、形の揃った3つのペットボトルに水を移し替え、高さで比べる方法である。
いわゆる間接比較である。
和歌子児は前に出て実際に操作しながら
「階段みたいに並べると、どれが多いかはっきり分かるよ」
とそのよさを語った。

  


2つの方法を比較し
「今度似たような場面があったら、どっちの方法を使いたいですか」
と尋ねた。
子どもは、それぞれ自分の使いたい方法を選び、その理由を言い合った。

琴美児の方法(直接比較)を選んだ子どもから
「琴美さんの方が簡単だよ。だって、水とコップしか要らないもん」
といった理由が出てきた。
また、和歌子児の方法(間接比較)を選んだ子どもから
「和歌子さんの方法の方が簡単だよ。だって、1回で比べられるもん」
といった理由が出てきた。
面白いことに、どちらも意見からも、自分たちの方が簡単だという言葉が出てきている。
そこで
「どちらの方法からも簡単という言葉が出てきたけど、それぞれ何が簡単なの」
と問いかけた。

簡単という言葉に焦点を当てて話し合う中で、和歌子児の方法(間接比較)のよさが、だんだん浮き彫りになっていった。



 「琴美さんの方法は、何回も繰り返して疲れちゃう」

 「それに、一人でやると、やってるうちに、どっちが多いか忘れちゃうかもしれない」

 「和歌子さんの方法なら、並べたら分かるよ。」

 「つまり、高さで比べられる。」

 「琴美さんの方法は、繰り返すうちに、どれが多いか分からなくなっちゃう。」

 「頭が混乱する。」


次第に和歌子児の方法に賛同する子が増えていった。
琴美児は、自分の思いが伝わらないことにもどかしさを感じたのであろう。
「みんな分かってない。私の方法だって置き方を工夫すれば混乱しない」
と、泣きそうになりながら主張した。
双方「混乱する」「混乱しない」と半ば喧嘩のように熱くなり、話し合いは平行線を辿った。

そこで、どちらも簡単にしたいという願いは同じであることを確認し、それぞれのそのよさを整理することにした。
琴美児の方法は、「水とコップだけで比べられる」つまり、「操作の手際がよい(能率性)」という意味で簡単なのである。
それに対して、和歌子児の方法は「高さで1度に比べられる」つまり「やり方や結果が分かりやすい(明瞭性)」という意味で簡単なのである。

ここでは、どちらも自分たちの方が簡単だという一見矛盾していることがらに目を向けて話し合いを進めた。そうすることで、漠然と使っていた簡単という言葉の中に「能率性」「明瞭性」という新たな2つの視点が見えてきたのである。

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コップが3つでもできたよ


もっといい方法があるよ
階段みたいにはっきり分かるよ
C コップの数が2つと3つの場合を比較する中で、
 「いつでも使える」よさに気付いていった子どもの姿


 こうして、どちらの方法にもよさがあることを確認した上で、子どもたちに
「ペットボトルに揃える方法がいいっていう人が増えてきたね。
 でも、この前はみんな琴美さんのような方法がいいって言ってたよね。
 どうして考えが変わったの」
と問いかけた。


教師 : どうして考えが変わったの。

子ども: だって、この前は2つだったもん。今日は3つあるから。

子ども: 2つの時は琴美さんの方法(直接比較)がよかったけど、
      3つに増えたら大変になった。

教師 : へえ、2つの時と3つの時で違うんだね。

子ども: 今は3つだからいいけど、コップが4つとか5つとかになると
      琴美さんの方法だと大変になると思う。
子ども: 和歌子さんの方法(間接比較)なら、コップが4つとか5つでも、
      すぐに分かるよ。


子どもたちは、コップが2つの場合と3つの場合を比較する中で、「4つなら」「5つなら」と考えを拡張していった。
これは、いつでも使える方法なのか一般性を確かめる姿である。

すると、さっきまで琴美児の方法(直接比較)にこだわっていた子どもたちも
「確かに、4つや5つなら、ペットボトルの方法がいい」
と和歌子児の方法(間接比較)のよさを認め始めた。
コップが3つの場合については両者納得がいかず意見は分かれたが、コップが2つの場合なら琴美の方法がよく、4つ以上なら和歌子児の方法がよいということに関しては、みんなが納得した様子であった。
そうした中、琴美児が、次のように発言した。


琴美児: どっちがいいっていうか、場合によって使い分けていけばいいんだと思う。


測定する対象によって計器や方法を使い分けることの大切さに気づいたのである。

ここでは、前回と今回で選ぶ方法が違うという一見矛盾した事柄に目を向けて話し合いを進めた。そうすることが、コップの数が4つや5つの場合に拡張して考えるきっかけとなり、いつでも使える方法を求めたり、場合よって計器を使い分けることの大切さに気付いたりすることへとつながった。
比較を通して「いつでも」という視点を獲得したのである。






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4、 ま と め
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 Aの特徴は、Aでないものと比較することで分かる

算数の学習において、
ねらいの中に「〜のよさに気づく」「〜の特徴に気づく」という言葉が、よく登場する。
よさや特徴に気づくための、1番の手立ては、そうでないものと比較することである。
あるものの特徴は、そうでないものと比較しなければ分からない。
直接比較のよさは、見た目だけの判断と比べることで明確になり、
間接比較のよさは、直接比較と比較することで明確になるのである。

本実践では、多様な考えが生まれるような教材を設定し、それぞれの考えを比較していった。
一見矛盾しているように見える事柄に目を向けて比較することで、子どもは「正確に」「速く、簡単に」「明瞭性・能率性」「いつでも使える」といった視点を獲得していった。
そして、新しい視点から自分の考えを見つめ直すことで、考えの根拠を明確にしたり、多面的に事象を捉えたりと、見方・考え方を深めていった。


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