P2PからスマートP2Pへ(イントロダクション)

 

 

 

 
作成・横田真俊

 

P2PからスマートP2Pへ

GnutellaやNapsterの登場により、「P2P」サービスを提供するところもずいぶんと数が増えてきた。2000万人の会員数をほこるNapsterをはじめ、winampの開発者が中心となったオープンソースのGnutella、動画ファイルもやりとりできる「Scour」など大小あわせれば、その数はかなりの数にのぼる。

利用ユーザー数やNapsterやGnutellaライクなP2Pサービスが次々と登場しているという事もあり、P2Pサービスをビジネスに結びつける動きもいくつかあるが、現在のP2Pサービスで提供されているコンテンツのほとんどが違法コンテンツという事もあり、現在の状況ではP2Pサービスはビジネスにはならないという考えが根強い。特に先月末にNapsterに対し連邦地裁が停止命令を行った事(1)で「P2Pサービスは違法性が高いもの」というイメージがより鮮明になってしまった。事実NapsterやScourなどのサービスの大部分が違法コンテンツであり、どんなにユーザー数がいても「違法」ではサービスを提供する意味も無いと考える人も多いとだろう。

しかし、現在ではP2Pサービスは「違法コンテンツ」の流通の場としての側面が強いが将来的にはP2Pサービスはインターネットの情報検索やコミュニケーションになくてはならない要素になるという指摘も様々な方面から指摘されている。例えばタイムワーナーの社長Richard Parsons氏はNapster「悪魔」と呼びながらも、同時に「われわれは自己満足が強すぎる。変化を前にして眠り続けている。だがもう眠り続けることはできない。レコード業界もゲームに参加しなければならない。われわれはこの技術を使って,音楽を可能な限り幅広い層に届けていく必要がある」と語っている。(2)また、同じくAOLのCEO(最高経営責任者)Gerald Levin氏は海賊行為については否定的だが同時に「音楽へのアクセスは増える一方だ。素晴らしい技術だ。いつでもどこからでも音楽にアクセスできるなんて,まったくエキサイティングだ」と語っている。(3)注意してほしのはこれがタイムワーナーのCEOと社長の発言という事だ。同社の「ワーナーミュージック」は「マドンナ」などの人気スターを擁し音楽の市場シェア13.7パーセントを持っており(4)GnutellaやNapsterなどのP2Pサービスは最大の脅威となっている。にも関わらずタイムワーナーはなんとかP2Pの概念を自社のサービスに組み込もうとしており、音楽を販売するためのサブスクリプション方式のフォーマットを開発するよう社員に奨励しているという。(5)

このように、P2Pは現在では違法コンテンツの流通の問題があるが、NapsterやGnutella によって損害を受けている一部の音楽コミュニティの人達でさえP2Pに注目している。もはや、インターネット上のコミュニティを考える上でP2Pの概念もとりあげなければならなくなってきているだろう。しかし、P2Pがコンテンツ流通にすぐれているとは言っても、前述した通り現在では様々な問題がある。P2Pをビジネスに勝つようするならばそれらの問題を解決しなければならないだろう。

そこで、本レポートではP2Pが次世代コミュニティに与える影響について考えていきたい。

1 情報検索に活用されるP2P

P2Pサービスは音楽以外の場面でも活用されはじめている。例えば先日までGnutellaの仕組みを使った検索エンジン「InfraSearch」が公開されていた。(6)InfraSearchと従来の検索エンジンの大きな違いは従来の検索エンジンは検索されるコンテンツが更新されても検索エンジン側ではそのサイトに関する情報は更新されなかったが、InfraSearchでは検索されるコンテンツが更新されると同時に検索エンジン側のサイト紹介も更新されるようにできている。従来の検索エンジンはリンクが切れているサイトも検索結果に表示されていたが、InfraSearchはサイトが更新されればその更新された情報はただちにInfraSearchに反映されるので、従来の検索エンジンのような「リンク切れ」が表示されず、常に最新の検索結果が表示されるようになっている。この機能を使えば例えば自社の新製品についての情報を自分達のページ新しく載せた場合、検索エンジン側でもその情報が表示されるようになる。この機能を上手く使えば自社の目玉製品の宣伝にも使えるだろう。

また、従来の検索エンジンもNapsterやGnutellaの影響を受け始めている。現在の検索エンジンはあまりにも多くの検索結果を表示するためどのページが自分にとって重要なページなのかわからない場合が多かったが、最近ではより検索の専門家に力をおいているページも多くなってきている。Ask JeevesはWebサイト運営企業向けに垂直型検索サービスを提供すると明らかにているし、AltaVistaも最近実施した強化によって,同じような垂直型検索を採り入れている。Jupiter CommunicationsアナリストのLydia Loizides氏は垂直型検索が注目を集めたのはNapsterとGnutellaの影響であり,主要検索サイトもこの手法を採用していくと分析している。(7a)

このように情報検索という分野では既にP2Pの概念は既に浸透している。現在の検索エンジンは10億にものぼるインターネットのページを現在の方法でカバーするのは難しい。(7)このため、このような専門的な検索エンジンが登場しているのだろう。このような専門的な検索エンジンはその分野の専門的な言葉を理解し、少ない情報量で自分の望んでいる情報が手に入る事ができるようになるだろう。(8)

このように、P2Pサービスの影響によって、P2Pの仕組みを使った検索エンジンの登場や従来の検索エンジンがより専門的な垂直型サービスが登場しようとしているが、検索エンジンにP2Pが与えた結果はこれだけではない。P2Pの情報共有という部分を使った新しいタイプの検索エンジンも登場している。例えば「blink.com」というページはユーザーが登録したブックマークを共有しより精度の高い検索をめざしているページだ。blinkの仕組みはユーザがblinkにブックマークを登録・共有し、このうち全会員への公開対象となったブックマークをデータベース化し、検索サービスの形で提供する。通常の検索サイトと同様のキーワード検索の他にキーワードの代わりに、自分が作成したブックマークのフォルダが対象となる検索方法もある。これは、他の会員が作成したフォルダ内容との類似性を判断し、類似性の高いフォルダから検索対象フォルダに収納されていないブックマークを選び出す。つまりフォルダ内容から興味/関心が近い会員を自動的に選出し、その会員が登録しているブックマークを推薦する機能だ。従来の検索エンジンではキーワードでしか検索できずに、自分の望んでいない情報も表示されてしまう恐れがあるが、blinkのように自分のブックマークと関連する情報を表示できるようになれば、より自分が望む情報が検索されるようになるだろう。

2 P2Pが新たな知識を生み出す。

このように、P2Pサービスは、違法音楽コンテンツの流通だけでなく、それぞれの持っている情報を共有する事で新しい検索システムを作る事ができるようになる。Napsterが有名になりすぎて、P2Pと「違法コンテンツを流通させるサービス」を混同する人達も出てきているが、決してP2Pサービスは違法音楽を流通させるだけのサービスではない。P2Pは個人が持っている情報を全体で共有しそれを活用していくものである。

既にP2Pの「情報共有」を組織の生産性を上げるものとして認識しているところも登場している。例えば、ニューヨークにあるコールド・スプリング・ハーバー研究所の生物情報科学準教授、リンカーン・スタイン博士は、Napster型のP2P技術を利用して、遺伝子情報の共有が増えれば病気の診断法や治療薬を発見していく方法などが早く実現するだろうと語っている。(10)また、博士はNapsterに停止命令が下った事を受けて「ある種のソフトウェアが非合法な目的に使用することができるという理由で、そのソフトが同時に純粋に合法的な機能も備えているという事実が考慮されずに、禁止される恐れがある。それが非常に心配だ」と述べさらに、今回の裁判官の決定が、P2P技術に留まらず、それ以上のものまで妨害するような、大きな意味を持つ可能性があることが心配だとも述べている。(11) P2P技術の情報共有によって生産性があがるのは、遺伝子情報の特殊の分野だけでないこのP2P技術による「情報共有」は我々の仕事まで及ぶ事になるだろう。既にそのようなモデルを提示している企業もいくつか登場しているが、その中でも特に大きな影響力を持った企業もP2P技術に参入する事になった。 サンノゼで開催のIDFでIntelのCraig Barrett社長は調講演に立ち、P2Pコミュニケーションモデルの可能性について語った。(12)

その中でBarrett氏はNapsterの例を引き「Napsterは1日に210万のユーザーが接続し,23テラバイトの巨大なデータを持つ。これに対してわずか122のサーバで対応。一方,科学技術演算をP2Pで結ぶNPACIというコミュニティは,3000ものプロセッサを結び,巨大なパワーを発揮している」と,P2Pがもたらす大きな可能性について言及し、さらに「例えばIntelには1万〜1万5000人の半導体設計者がいるが,彼ら個人個人がそれぞれに持っているノウハウを上手に活用できなければ,生産性の大幅な向上は望めない」と生産性の向上にP2P技術が有効との見方を示している。また、IntelはIBMやHP,Applied MetaComputingを含む18社が「Peer-to-Peer Working Group」を設立し主に企業向けネットワークを適用対象として,メンバー企業と標準仕様の策定を進める事を発表した。(13) IntelのCTO Patrick Gelsinger氏によれば、「企業向けネットワーク環境で,ピアツーピア接続が重要な役割を果たす。ピアツーピアを利用することで,企業ユーザはテラFLOP級の浮動小数点演算処理能力やテラバイト級のストレージが利用可能となる」と語っている。またGelsinger氏が監督するIntelのTechnology Research Labs内部では,P2P調査研究機関が設置されている。IntelはP2Pの標準策定を他社と進める一方,Intel Capital部門を通じてP2P技術関連企業への投資を行っていく方針。Intelは,共通の目的や興味を持つ企業および消費者グループが「自ら組織化したWeb」を作り上げていく形を構想している。(14)

このように、P2Pは「音楽の違法コンテンツ流通」という事から既に強力な「情報共有」ツールとして活用されようとしている。P2Pを「違法コンテンツ」の流通の場として考えるのではなく。強力な「情報共有」のツールとして考え、きたるべきP2Pコミュニケションの時代に備えなければならないだろう。

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関連リンク

(1)

http://www.zdnet.co.jp/news/0007/27/napster.html

(2)

http://www.zdnet.co.jp/news/0007/25/parsons.html

(3)

http://www.zdnet.co.jp/news/0008/22/warner.html

(4)NEWSWEEK 日本語版 2000.1.26号 P18
「超巨大メディアの実力を解剖する」より 

(5)


http://www.zdnet.co.jp/news/0008/22/warner.html

(6)

http://pcweb.mycom.co.jp/news/2000/06/02/06.html

(7a)

(7)

(8)

http://www.zdnet.co.jp/news/0007/05/berst2.html

(9)

http://biztech.nikkeibp.co.jp/wcs/show/leafCID=onair/biztech/inet/106353

(10)

(11)

http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20000801304.html

(12)

http://www.zdnet.co.jp/news/0008/23/idf1.html (13) http://bizit2.nikkeibp.co.jp/wcs/usn2/article/20000825/01.shtml

(14)

http://www.zdnet.co.jp/news/0008/25/b_0824_01.html


00.09.10


作成・横田真俊

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