きっかけはいくらだってあるのに。3






「イテ…痛いって!かけいさーん!!」
「うるせえ、文句言うなって言っただろ。」
「無理。マジ痛ぇ!…ってだから無闇に力入れりゃいーってもんじゃねって!!!」



筧が肩を揉み始めて5分後にはもう、水町の悲鳴が響いていた。
水町も最初のうちは我慢をしていた。
が。
限界点はいとも簡単に破られた。
普段から真面目にトレーニングに励む筧の握力は、それは半端なものではない。
それでもって筋違いな所をただ力任せに揉まれたのでは、堪ったものではなかったのだ。


「も…もういい、つか、頼むからヤメテ…」
「何だよ、お前がやれって言っといてよ。」
「かけいヘタすぎ。」
「うるせえ、だから最初に言っただろ!」
ぽか、と筧が水町の頭を叩く。
それを合図にしたかのように、水町は振り返ると筧に言った。
「んじゃ、交代。」
「は?」
「俺がお手本見せてやるよ!」
「え?いや、別に、」
「いーからいーから!ほら、あっち向いて。」
肩を揉んだのは、ゲームの続きからであって。
別にそんなレクチャーなど受けてなくても、と思った筧だったが、強引に水町に肩を押されて後ろを向かされる。
もうこうなったら、水町のペースで。
いつも大概はこんな風に、勢いで水町は周りを巻き込んで物事を進めていくのだ。
それを重々知り得る筧は、肩を竦めて小さく溜息を吐いた。
「あー…もう好きにしろ…」
「へっへー」
観念した筧の肩を、嬉々として水町が揉み始めた。



適度な力で、的確な場所を。
数分後には、筧は目を閉じてすっかりリラックスしていた。
「上手いだろ?」
「…まあな。」
渋々、といった返答にも水町は嬉しそうに破顔する。
水町は一旦手を止めて。
片手で肩を押さえると、背筋にもう片方の手を宛がう。
その筋に沿って、親指を走らせると、微かに逃げるように筧の肩が揺れた。
それを強く押さえ付けて。
ぐっと指に力を込めると、筧の口から音が洩れた。
「…っ、」
筧の、反射的な逃げの動作が強くなる。
水町も、押さえる力を強くする。
そして、探るようにしながら、水町の手が筧の背を強く押しながら滑っていった。
「ふ…っ、ん…」
「かけい、」
「…ん?」
「…気持ちい?」
「ん、いい…」
「じゃ、ここは?」
言って、水町の手が首に。
頭を両の手で包むようにして、付け根を親指で押す。
そうすると、筧の顎が上がって、吐息が洩れた。
「な、いい?」
「うん…」
「……」
「……」
「……」
「…っ…」
「……」
「水町…」
「……」
「おい、水町って、」
「……」
「?…おいって。」
「……」
「水町?」
何度か呼び掛けても返事がないのをいぶかしんで。
筧は名を呼んで振り返った。
「…っ?!なっ、なななななななに?!!」
すると水町は弾かれたようにびくりとして手を引っ込めて。
思い切り動揺した声を出した。
「何って…呼んでも返事しねえし。」
「え?あ、そうだった?」
夢から今醒めた、みたいな顔をして水町は頭を掻く。
益々訝しんで、筧は水町の顔を覗き込んだ。
「大丈夫かお前…」
「いやー大丈夫っつーか、大丈夫じゃないっつーか…」
「はあ?何言っ…っ?!」
水町が、ハハハ、と乾いた声で笑いながら指差した方を見て。
筧の動きが止まった。
「なっ何でそんな事になってんだ?!」
「いやー…だって筧センセー、すんごい色っぺー声出すからコーフンしちゃってえ。」
「そんなもん出した覚えはねえよ!」
「いやいやいや、AV女優目じゃないね、アレは。」
「ヘンな事言うな!」
べしっ、と筧は目の前の頭をはたく。
その頭をさすりながら。
水町が筧にぐっと顔を寄せた。
「近寄んな、ヘンタイ。」
冷たい言葉も、ものともせず。
水町は手を伸ばす。
そして。
筧の頬に触れる。

「かけい…」
「なんだ?」
「やってもい?」
「なにを?!!!」
「あっはは!!」

くわっと叫んだ筧を水町が笑う。
そうして。
ジョーダンジョーダンと手を振って立ち上がった。
「どこ行くんだよ?」
「便所。それともカきっこする?」
「しねえよ!!!」
手近にあったクッションを投げ付けながら筧が怒鳴るのを、また水町は笑った。
そして部屋から消える。



「信じられねえ…」
へたりと手を付いて、閉じられたドアを見詰めて筧は肩を落とした。
肩を揉んでるだけで、しかも男相手に発情するのもそうだし。
そんななった状態をひけらかすのも信じられない。
「ああ…くそっ」
いつもこうやって、水町の訳の解らない行動に振り回されるのだ。
と、思って筧は悪態を吐く。

しかしそれでも。
それでも、その水町が憎らしく思えなくて。
それどころか一緒にいるのは楽しいのだと思ってしまう自分がいる。
その事を、筧は、もう嫌々ながらも認めてはじめている。
しかし今はそれよりも何よりも。

「それで…帰ってきたら、俺は一体どんな顔をしてりゃあいいんだよ…」
というか、ここで待っていなくてはいけないのか?
しかし黙って帰る訳にもいかねえだろう。
と、ごもごもと独り言を呟いた後。
こんな馬鹿らしい事で悩むのも嫌になって。
もう、どもとでもなれと目を瞑ってごろりと横になった。





しばらくして。
帰った水町が見たのは。
ぐうぐうと気持ち良さそうに眠りこける筧の姿だった。


おわり



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なんだろう…この話…ギャグ??
書いた本人が良く解らん話ってどうよ…
まだ上手くキャラを掴み切れてないカンジ。
精進します
2004.11.16