「気が付かれましたか?」
身動ぎ、少し声を漏らしながら寝返りを打ったフリックに柔らかい声が降りてきた。
聞き覚えのある、優しい声。
声を掛けた人物は、ベッドの横の椅子に腰掛けてフリックを覗き込んでいる。
「ホウアン…先生?じゃ、ここは…」
覚醒して、ぼんやりとした頭の中を幾つもの場面が瞬いては消えた。
それらが、自分にとっての現実であると認識して青ざめる。
「同盟軍の…あなたの部屋ですよ。昨日の夜遅く、あなたは運ばれて来ました。」
ゆっくりと言い含めるような言い方に、フリックは少し落ち着きを取り戻して視線を室内に巡らせた。
明るい日差しが窓から降り注いでいる。
もう昼近いだろうか。
遠くに子供達の戯れる笑い声が、酷く明るく響いていた。
「ああ、まだ起き上がらないで下さいね。」
体を起こそうとして顔を顰めたフリックに、ホウアンが注意を促す。
体が鉛のように重い。
節々が痛んで、その理由に、フリックはまたぞっとした。
記憶にある、ルカの凶行。
「……っ!」
それらを思い出したフリックの体が震えた。
叫び出したい衝動に駆られて、掛けられた薄布を爪が白くなるまで握り締めて押し留める。
胸に沸く、どす黒い感情。
目の色を違えて、手に掴んだそれを引きちぎらんばかりに力むフリック。
その拳に手を置いて、ホウアンは努めて冷静に、そして事務的に言った。
「あなたの体を、医者の職務に則って、くまなく調べさせて頂きました。」
話し掛けられて、恐ろしい色を湛えたフリックの瞳がぎこちなくホウアンを捕らえる。
奥歯は、まだ強く噛み締められたままだ。
「そしてそれを、軍主殿に伝える義務が私にはありました…その、意味が解りますか?」
「…ああ…」
「その結果を、軍主殿がどう使うかは、私の知るところではありません。」
「ああ、それも…解るさ。」
「けれど決してむやみに他言するような方ではいと、私は信じております。」
「解ってる…」
その経緯は当たり前の事だろう。
フリックは出来る限り心を落ち着ける為に深く呼吸する。
自分に起こった災事。
それは、自分が軍の主要幹部であった事によって、もう自分だけの問題ではない事を物語る。
出来れば、自分だけの事にしておきたかった。
ただ、ひとつの事だけのために。
「何か…薬を使われましたか?」
「そんな事も解るのか…」
「その薬が抜け切って完全に体が癒えるまで、あなたには休養をとる事が命ぜられています。」
「…わかった。」
帰り支度をして、ホウアンがフリックの額を撫ぜる。
返事をしたフリックが、大分落ち着いた事を看て取ったホウアンが少し笑みを作った。
そこに、扉にノックがされ、ヤマトと軍師が顔を覗かせる。
「それでは、私はこれで…」
ホウアンが鞄を持って立ち上がった。
「ありがとう、ホウアン先生。世話になった…」
「いいえ…いいですか、今は体を休める事だけを考えて下さいね。」 念を押すホウアンにフリックは声を出さず頷いた。
ホウアンが部屋を出るのと入れ違いに廊下にいた二人が部屋に入る。
そして先程までホウアンが座っていた椅子にヤマトが腰掛けると、その後ろに軍師が控えた。
「大丈夫…?フリックさん。」
心配そうに向けられるヤマトの目は泣き腫らしたのだろうか、とても赤い。
その痛々しさに、自分の事は忘れてフリックは胸が痛む思いをした。
「ごめんな、心配掛けさせたな…でも、ほら、この通りちゃんと生きてるから…」
「…何で謝るんですかっ、フリックさん?!しん…心配しますよっそりゃ…っでも、そんなの当たり前の事じゃないですかっ…!!」
目線を落として肩を震わすヤマトに、フリックは手を差し伸べた。
「ごめんっ…ごめんなさい…っ…!僕が、僕がもっと…っ!」
強ければ。
立派なリーダーだったら。
もしかすると、こんな結果は生まれなかったかもしれないのに。
ぼろぼろと涙を流して謝罪するヤマトの頭を、フリックはぐしゃぐしゃと掻き回した。
「馬鹿だな、ヤマト。お前こそ謝る必要なんてないだろ…?お前はよくやってるよ。力が足りないのは、むしろ…俺の方なんだ。」
「でもっ…!」
「その通りです。あなたは悪くない。」
後ろで立っていた軍師がヤマトの肩に手を乗せる。
「今回は勝ち戦だったとはいえ、見解が甘かった。私の責任だ…すまなかったな、フリック。」
その言葉にフリックが、そしてヤマトも顔を上げて軍師の顔を見た。
「は…はは…何あんたまで謝ってんだよ…らしくもない…」
フリックは少し揶揄して返したが、軍師は固い表情のままで反応しなかった。
この男のこんな表情は見た事がない。
「頼むから、二人ともそんな顔をしないでくれ。俺は大丈夫だから…」
そうだ。
自分自身が傷付く事など、何でもない。
嘗て大事な人を失くしたあの時の痛みになど比べれば。
それに、まだ、何も失ってなどいない。
大事なものは、まだ、ここに。
この胸にある。
これから失うかも、しれないけれど。
「行きましょう…ヤマト殿。」
「うん…」
我々がここに居ては休まらないから、と軍師がヤマトを促す。
それに素直に従って、ヤマトは腰を上げた。
「あの、ね…フリックさん。」
去り際、ヤマトがおずおずと呼び掛けた。
そして、辛そうに瞳を歪ませる。
「ビクトールさんが、フリックさんを迎えに行ったんです。」
「……」
「凄く、フリックさんの事心配してたけど、シュウさんがまだ会わせない方がいいって…今はちょっと出掛けて貰ってます…」
「…そうか。ほんとごめんな、へんな気廻させて。」
「だからっ…!謝らないでってば!」 少し笑う、フリックのその顔は色を無くしたように白い。
「ビクトールに…『心配ない』って伝えておいてくれ。」
「…うん。そうする。」
明らかに無理して笑ってる、と思う。
あまりに酷い顔色に、ヤマトは一瞬立ち去る事を躊躇った。
しかし、ここからはあくまでフリックの問題なのだ。
そう悟って背を向ける。
そうして最後まで心配そうにして、ヤマトと軍師は部屋を後にした。
部屋に独りきりになって、フリックは目を閉じた。
ただ、ひとつの事。
ビクトールに、知られないこと。
俄然不可能な事は解っていた。
けれど。
閉じた瞼の裏をちらちらと光が爆ぜる。
この光を、自分はあそこで見ていた。
薄暗い天幕の寝台の上で。
あの狂王に抱かれながら。
ランプの光を跳ね返して、ルカの剣の柄が光る。
その光を。
手を伸ばせば届いたであろう。
その剣を取って、切り掛かる事も出来た筈である。
勿論、敵に囲まれた自分も命を落とすだろうが。
または、その切っ先で。
自ら命を絶つことも出来た筈なのだ。
けれど、そうはしなかった。
出来なかった。
「ビクトール…」
その名を、噛み締める。
自分の中からはもう、決して消す事の出来ない名だ。
「ビクトール。」
もう一度呟いて、体の力を抜く。
眠ろうとして…けれど。
眠る事は出来なかった。
「フリックさんが『心配ない』って伝えてくれって…」
ビクトールが城に帰って来て、開口一番ヤマトはそう言った。
その帰還は夜遅くになっての事だったが、ヤマトはずっとその帰りを待っていた。
「気が付いたのか?それで…」
「うん。もう会ってもいいって。」
「そうか…っ!」
言葉の先をヤマトが答えると、ビクトールは途端に走り出そうとした。
「ビクトールさん!」
その背にヤマトが声を上げて呼び止めた。
「どうした?」
振り返ったビクトールは、訴えかけるように見詰められてきちんと向き直る。
下から見上げてくるヤマトの表情はどこか怒ったようで必死だった。
「フリックさんの事、嫌いにならないよね?!」
「…?!」
「こんな事で…っ!フリックさんの事、嫌いになんかならないよね?!!」
ヤマトが服を掴んで引っ張る。
縋るようにビクトールに強く問い掛けるヤマトをビクトールもまた見詰め返した。
「もしっ、この事でビクトールさんとフリックさんに何かあったら…っ!僕は…僕はっっ!!!」
「…ばーか。余計な心配してんじゃねぇよ…」
大きな瞳を揺るがせて涙目になったヤマトの肩を抱く。
「俺が、フリックの事嫌いになんかなる訳ねぇだろうが…」
「だって…!」
「心配すんな。大丈夫だ…例え大丈夫じゃなくても、俺がなんとかするから。」
「ほんと…?ほんとに?!」
「ああ、だからお前は笑っててくれな。俺もあいつも、お前にそんな顔だけはしねぇで欲しいと思ってんだよ。」
ビクトールの大きな手が頭を撫でる。
泣き止んで欲しいと思って言ったビクトールの言葉は、逆にヤマトを更に泣かせる羽目になった。
困り果てたビクトールがどうしたものかと溜息を吐いたその時。
「ビクトールさん、ごめん…早く、フリックさんの所に行ってあげて。」
まだ泣き止まないままにヤマトが告げる。
それに笑って、ビクトールはもう一度頭を撫でた。
「おぉ、じゃあな。」
「うん。」
別れを告げると、もの凄い勢いでビクトールの姿が消える。
それを見送って、そこでヤマトもやっと笑い顔になった。
そして、願う。
どうか二人が在るべく姿でいられるよう。
二人が笑って、共にいられるよう。
たとえそのために、二人がここを出て行く事になっても。
二人と袂を分かつ事になって二度と会う事がなくなっても。
それでも願わずにはいられない。
ヤマトは暫しその場所から、動く事は出来なかった。
月が、暗い室内を嫌というほど照らし出す。
青白く彩られたそこは、まるで別世界のようだった。
そこで、ただ天井を見据えるフリックに夜遅くビクトールは会いに来た。
そっと扉を開き、その大きな体を滑り込ませる。
近づき、フリックの目が開いている事に少なからずぎょっとして、ビクトールは身を固くした。
「なんだ…起きてたのか。」
フリックの枕元、ベッドの縁にビクトールは腰掛けた。
月明かりのせいばかりではないだろう顔色に眉を顰めてビクトールは唇を噛む。
何か言葉を。
そう思うビクトールの、口からはしかし言葉は出ない。
唾を飲み込む音がいやに響いて、ビクトールは喉を掻き毟った。
そんなビクトールを冷たい表情で見ていたフリックが口を開いた。
「生き恥をかくってのは、こういう事だろうな…」
「な…んだよ、生き恥って…」
感情のないフリックの声が突き刺さるかのようで。
ビクトールは声を絞り出した。
「俺は、死のうと思えば死ねたんだ…でも、出来なかった。」
「死ぬなんて、簡単に言うな…!」
「こんな目に合って…なのにのこのこと戻って来て…」
フリックは無表情で淡々と告げる。
死人のような顔をしたままで。
「でも、死ぬ前に、お前にどうしても逢いたかった…合わせる顔なんてない。けど…っ、それでも、お前に…っ」
フリックの手が伸ばされ、ビクトールの腕を掴む。
強く、強く、存在を確かめるように。
表情は固いまま、フリックの瞳から、涙が零れ落ちた。
「フリック…っ!」
ビクトールが、フリックを抱き起こして胸に押し当てる。
強く、その背を掻き抱いて目を瞑った。
「ほんとは…こんな事、なんでもない…でも、お前が…」
抑揚のない声でフリックが言う。
「お前が傷付くんじゃないか…お前の俺を見る目が変わるんじゃないか…って。」
「馬鹿言うな…」
「俺の事、疎ましく思うかもしれない。でも、それでも、お前にどうしても逢いたかったんだっ…」
ビクトールの胸の中、フリックが喘ぐように声を上げて告白する。
それを聴くビクトールは益々抱く腕を強くした。
「お前を裏切ったかもしれない。潔く死ぬ事も出来たのに…俺は汚い。生きる事を選らんでしまったんだ。」
「裏切ってなんかねぇ!」
ビクトールは抱いていたフリックの肩を掴んで引き剥がして、その顔を見た。
「汚くっていいじゃねぇか!俺達は傭兵だろ?!汚ねぇ真似して泥かぶろうが、最後に生きてさえいりゃあそれで勝ちじゃねぇか!!」
「……」
「死んで終わりになんかするな!生きて、足掻いて、また仇を討ちゃあいいじゃねぇか…っ!!」
「ビクトール…」
一頻り声を荒げたビクトールが、肩で息を吐く。
その見詰めるきつい眼差しがふっと緩んで、大きく揺らいだ。
「お前がっ…生きてくれてて、よかった…っ」
ビクトールの分厚い掌が、フリックの頬を包む。
辛そうな、けれどどこかほっとしたような表情のビクトールを見た、フリックの胸がずきりと酷く痛んだ。
「ごめん…心配、掛けた…」
「本当だ、このやろう…」
素直に謝るフリックに、ちょっと笑ってビクトールは顔を近付けた。
触れるだけのキス。
もう一度。
瞳を閉じたフリックの目元に軽く。
涙の跡を辿って啄ばむように。
頬を滑って首筋にも。
ビクトールの触れる唇が熱くて、フリックは身を捩る。
その時垣間見えた首筋の濃い色に、ビクトールは噛み付くように口付けた。
思い切り吸い上げて、きつくきつく色を落とす。
「つっ…あ…」
その痛みにフリックが顔を歪めてもビクトールは介せずに。
近くにある他の痕にも同じ事を繰り返した。
「何があっても、お前の事は丸々俺が引き受けてやる。世界中敵に回っても、絶対見捨てたりしねぇ。」
横たえたフリックの上から覆い被さって、ビクトールは告げる。
「だから、側に居てくれ…それに俺が…お前を失くしたくねぇんだ。」
「ビクトール…」
フリックを失ったら…と思った時の寒気がビクトールを襲う。
失くしたくない。
この、フリックという存在を。
己の魂が狂おしい程請うるのを知っている。
それこそ、自分が世界中を敵に回してでもいいのだ。
ビクトールの頬に、今度はフリックから手が伸びる。
「やっぱり、俺は汚い…」
「…?」
フリックの指先がビクトールの頬を滑る。
「お前が、そう言うのを俺は多分知ってた。こんな事になって、尚更余計に俺の事を見捨てられなくなる事を。」
そしてまた、フリックもビクトールを請う。
「知ってて、お前の迷惑顧みず…でも、そんななっても、お前の側に…居たくて仕方ないんだ。」
「……」
「俺は最低だ。お前が優しい事に甘えて、付け込んでるんだ…」
ビクトールの顔を正視出来なくなったフリックは、その頭を引き寄せて抱え込んだ。
固い髪の間をフリックの手が上下する。
「付け込みゃあいいんだよ。」
「え…?」
「そーゆーとこも含めて、丸ごと全部、俺はお前の事が好きなんだからよ。」
思いがけない言葉に、フリックの手が止まる。
そして、言われた事を理解して、手に力が篭った。
「…っ、うー…」
そーゆーとこも含めて、丸ごと全部。
良いところも、悪いところも。
過去の傷も、犯した罪も。
全部ひっくるめて、自分という存在を認めてくれる。
好きだと、言ってくれる。
ビクトールのその言葉にフリックは泣いた。
胸の奥の方がじんと熱くて、涙が溢れ出る。
自分の頭を抱くフリックの腕を除けて、ビクトールはずり上がってフリックの首に手を回す。
そしてそのまま転がって、フリックを胸の上に置いて抱き締めた。
宥めるように、何度も髪を梳く。
その度に柔らかい髪が散って、ビクトールの胸を擽った。
余った手で背中を撫でてやる。
そうすると、フリックの嗚咽が少し収まった気がする。
それでも暫くは。
フリックはビクトールの胸に額を押し当てて、泣き続けた。
「なぁ、お前、気付いてるか…?」
大人しくなったフリックの背を撫でながら、ビクトールが声掛けた。
「何をだ?」
顔を上げないままに、フリックが問い返す。
「お前な、さっきからずっと愛の告白やらかしてんだぞ。」
「なっ…?!何っ、言って…?!」
「俺の側に居たくてしょうがねぇんだろ?」
驚きでがばっと顔を上げたフリックに、ビクトールがにんまりと笑い掛ける。
「こんな時になんだけどな…嬉しくて幸せでしょうがねぇって言ったら怒るか?」
「…別に…」
「じゃあ、お前のこと抱いて、俺以外の奴の事なんか全部消し去ってしまいてぇって言ってら怒るか?」
「…怒らねーよ…」
フリックが少し俯いてビクトールから顔を背ける。
「てゆーか、そうしてくれって、どうやって言おうか迷ってたんだ…」
「…っ?!は…はははっ!!」
一瞬、口をぽかんと開けて呆けたビクトールは次の瞬間、笑い出した。
とてもとても嬉しそうに破顔して。
真っ赤になって、自分が口走ったことを後悔し始めたフリックだったが。
伸ばされたビクトールの掌が頬に触れると、やんわりと微笑んでその掌に頬を摺り寄せた。
月明かりは何時の間にか消え失せて。
それとは違う青白い空気が部屋を満たしている。
明け方の冷えた空気にフリックは目を覚ました。
隣にある筈の体温がない事を知って、部屋を見渡す。
ビクトールは窓に凭れ、ずっと遠くを見ていた。
「よぉ、起きちまったか…?」
フリックの気配に気付いたビクトールが振り向く。
うす暗いせいで、ビクトールの表情は良く見えなかった。
「何をしてるんだ?」
「いや、別に…」
肌寒さに不安になって、フリックは問い掛けた。
しかしビクトールは曖昧に笑って、また、外の景色に目を移した。
「なぁ…フリック。これからどうする?」
「どう…って?」
ビクトールは遠くを見据えたままだ。
「もしお前が…全部忘れたいってんなら、どこか遠くへ行ってもいいかなと思ってよ。」
「どこか遠く…」
「誰も俺達を知らない、この戦争も全く関係ない所へな。」
「……」
全てを忘れるために、全てを捨てて逃げる。
深く関わってしまったこの同盟軍の皆を裏切って。
それでもビクトールは、フリックが望むのならばそうしたいと心に決めていた。
「でも、もし…」
それが叶うのであるならば。
「仇を討ちたいってのなら、俺は全身全霊力を注いで、何が何でも手助けしてやるぜ。」
フリックの体を、心を傷付けた。
その代償を。仇を。
本当はフリックがたとえ許せたとしても、自分が許せないのだ。
けれど。
それを選ぶべきはフリックなのだ。
そのどちらかを自分の意思だけで選ぶよう、ビクトールは敢えて淡々と喋った。
「まぁ、答えは今すぐじゃなくてもいいけどよ。」
ビクトールは視線をフリックに戻して肩を竦めてみせる。
フリックは、ずっとビクトールを見ていた。
そして、解っていた。
ビクトールが本当に望む事を。
そして、自分もまたそれを望む事を。
だから、迷う事なく言った。
「ああ。ビクトール。その答えはもう決まっているんだ。」
立ち上がってビクトールに歩み寄る。
その背後に見える空に更に光が増した。
白い光の筋が力を持ってゆっくりと広がっていく。
もうすぐ、夜が明ける。
そしてその報復の機会はすぐに訪れた。
同盟軍にもたらされた夜襲の情報。
それを逆手に取っての、討伐作戦は成功した。
フリック、ビクトールは、ルカ・ブライトの最期を見届けたのだった。
終劇。2002.08.17
|