<<はじめに>>


一応、ビクフリのお話なんですけども…                       
このお話を読まれる方は、下の注意書きを必ず読んでからにして下さいまし!


1.フリックが結婚して子供もまで作っている。
2.そのフリックは死んじゃってます。     
3.不幸な救いようのないお話。        


上記の事が許せない方は、決して読まないで下さい〜!
何卒お願い致します。                     


ゆ、許せない〜!!

どんと来ーーい!!






























Way of Diffarence

ビクトールは、死んだ父の相棒だったという。



年に数回やって来ては、特に何をするというわけでもなく滞在して、また何処かへ行ってしまう。
そんなビクトールを、内心良くは思っていない様子の母は、どうしてか毎回手厚くもてなしている。
何だか複雑な大人の事情があるのだろうとは思っていた。
が、そんな事はどうでもよくて。
それよりもビクトールが訪ねて来てくれるという事実の方が、自分には大事だった。

その昔。
父とビクトールは大きな戦争で大変な武勲を立てたらしい。
その武勇伝や、世界中を旅するビクトールの土産話を聞くのは、とても楽しみだった。
そしてなにより。
自分は、このビクトールという男が大好きだった。



ビクトールは変わらない。
いつも携えている『星辰剣』という喋る剣の紋章の力のせいで、不老不死になったんだそうだ。
けれど変わらないのは見た目だけではなく、その性格もそうだった。
ちょっといい加減で不真面目なところもあるけれど。
明るくて温かくて強くて優しい。
子供の頃からずっと、ビクトールが父親になってくれればどんなにいいだろうと思った事か。

死んだ友人の家族を頻繁に訪ねるという、不自然な行動。
それを、幼い頃には当たり前のように受け入れていたけれど。
最近は、その理由について、深く考えるようになっていた。
もしかすると、母のことが好きなのかもしれない。
だったら、直ぐにでも再婚して貰おうかと淡い期待を抱いて、ビクトールに直接訊いた事がある。
けれど、違った。
『フリックの血統を見守ろうと思ってな』
それが、ビクトールの答えだった。
その意味と、ここに訪れる理由とを、自分なりにあれやこれやと考えてみた。
そうすると、そのどれもこれもが、たったひとつの答えに行き着くのだった。

父が、ビクトールにとって、かけがえのない人だった。という事に。





「お前はほんと、髪の色しかフリックに似てねぇよなぁ。」
家の裏にある小川の土手に二人して並んで座り込んでいた。
一通り近況のやりとりを終えた後。
しげしげと自分を見詰めて、ビクトールが言った。
「悪かったな!そんなのしょーがないだろ?!それに親父なんて、顔すら憶えてねーんだよ。」
「いや、別に悪くはねぇけどな。」
少し不貞腐れて返すと、慌ててビクトールは手を振った。
そして、目を眇める。
昔を懐かしむように。
「お前の親父はなぁ、それはもう強くて賢くて綺麗で可愛かったんだぞ。」
「何だそりゃ。男が綺麗で可愛いって自慢になるのか?」
「お前も見たら絶対綺麗だって思うって!紋章使って戦ってるとこなんざ、背筋が凍るくらい綺麗だったなぁ〜」
父は雷の紋章がとても得意で、『青雷』とか言われてたらしい。
「…じゃあ、綺麗なのはいいとして、可愛いってのはなんだ。」
「それはあれだな。ばかな子程可愛いってやつだな。」
「それじゃあ褒めてんのか、けなしてんだかわかりゃしねーよ…」
「はっはっは。ばっか!そーゆーとこが愛嬌があってかわいーんじゃねぇか。」
分厚い手で、背中をばんばんとビクトールが叩いた。

ビクトールは、自分のどんな大きな手柄話よりも父の話をする時の方が、ずっと誇らしげで嬉しそうだ。
こんな時、すごく、思う。

「あんた、ほんとに親父の事好きだったんだなぁ。」
「おお、そりゃあもぉ、すっごくすっごく好きだったぞ!」
「あっそー…」
ビクトールはよく笑う。
その中でも、とびきり最上級かと思える程の笑顔で応えられた。
こーゆーのを、ほんとの心からの笑顔とかいうのだと思う。
「…確か、ビクトールは親父とずっと一緒に旅をしてたんだったよな?」
「ん?おお。」
「じゃあ、うちのお袋が、ビクトールから親父をとっちゃったのか?」
「ははは、そーじゃねぇよ。」
ビクトールが、笑う。
「俺が、捨てちまったんだよ。後の事は全部、お前のお袋さんに任せてな。」
後はお袋さんの頑張りだな。
と言って、ビクトールは遠くを見た。
「何でそんな事…?だって、親父の事凄く好きだったんだろ?」
そう尋ねると、ビクトールは困ったように眉を顰めた。
けれど、ひとつ溜息をつくと、こちらに向き直った。
「俺はこいつがあるから歳を喰わねぇだろ。」
傍らにある星辰剣を掴んで持ち上げる。
いつもなら『こいつ』扱いされて黙っている筈のない星辰剣は、どうしてだか何も言わなかった。
「でもな、あいつは歳を取る。だから、俺なんかに付き合わせていねぇで、人並みの幸せってやつを掴んで貰いたかったんだ。」
だから置き去りにした。
ビクトールのその眸は冥い。
「でも、そんなに好きなのに…他の人に渡してもよかったのかよ?」
「好きだからこそ、だ。」
「……?」
「俺はフリックが本当に幸せでいてくれるなら、一生会えなくても、それで幸せだと思ったんだ。」
ビクトールが手元の小石を拾って投げた。
小さな音がして、波紋が広がる。
「まぁ、でもやっぱり会えないのは辛かったから、たまに顔出してたんだけどな。」
また、小石を投げて、ビクトールが小さく笑った。
「でも…」
ビクトールは石を投げ続ける。
「あんなに早くに逝っちまうんだったら、何が何でも側に居て、手を離さなきゃよかったよなぁ…」
言って投げた石には、さっきよりかは微かに強く力が篭っていた。
「……」
「あー…うそうそ!だったらお前、産まれてこねぇもんなぁ。」
石を投げていた手が伸びて来て、頭をわしわしと掻き回した。
「だから、そんな泣きそうな顔すんじゃねぇよ。」
ぐしゃぐしゃにした髪を、今度はきれいに正していく。
でも、そう言ったビクトールの方が、ずっと泣きそうな顔をしている。
そう思ったら、涙がぽろりと零れ落ちた。



あれは去年の事。
うちに泊まったビクトールが、夜中にこっそり抜け出すのを見て、後を付けた。
その行き先は、すぐ近くにある、父の墓だった。

墓前に座り込んだビクトールはグラスを2つ取り出すと、そのひとつを墓標の下に置いた。
「また来ちまったよ。」
そう言って、それぞれのグラスに酒を注ぐ。
そうしてその後は。
何も言わず、ただずっとそこに居続けるだけだった。
邪魔をしてはいけないような気がして、自分はすぐにその場を離れる事にした。
そしてビクトールが帰ってきたのは、夜明け近い時刻になってからだった。

あれから今日まで。
何回かビクトールはやって来たが、その度ごとに夜抜け出しては朝まで帰らなかった。
父が逝って十数年。
ずっとうちに来る度に、ああして欠かさず父に会っていたのだろう。
それだけでも、解る。
ビクトールにとって、父は、本当に本当に大切な人だったんだ。



「悪かったって。泣くな、ほらっ、男だろ?」
そう言ってまた、ビクトールは折角きれいにした頭をぐしゃぐしゃにした。
大きな温かい掌。
強くて優しくて、こんなビクトールを好きにならない筈がない。
あんなに大切に想われている父も、きっとビクトールの事がとても好きだっただろう。
母がビクトールを良く思わないのは、それをちゃんと解っているから。
昔、盗み聞いた母とビクトールとの会話が胸に蘇った。


『私はね、今でもあんたの事なんか大っ嫌いなんだけど、あんた程あの人を愛する人はいないのよね…そして、あの人だって…』
『でも、あいつは俺じゃなくて、お前さんを選んだじゃねぇか。』
『あんたの為にね。あんたがそれを望んだからじゃない。』
『それだけじゃなかったって事も解ってるんだろ?俺は、お前さんには感謝してる。フリックの子を残してくれた…』
『…別にあんたの為に産んだ訳じゃないわよ。私が、あの人との子供が欲しかったのよ!』
『ああ、そりゃ解ってるよ。でも、あいつの血がちゃんと残ってるって思えるのが、嬉しいんだよ、俺は。』
『あの子はあげないからね。』
『はは…俺もそこまで欲張りじゃねぇよ。』
『どーかしらね。』




もし、まだ父が生きていて。
ある日突然、家族を捨てて、ビクトールと何処かに行ってしまっても。
絶対に。
絶対に、恨んだりしない。
あんなにも、強く想われて。
父がビクトールを選んだとして、どうして責めたりできるだろう。
父が、ビクトールの事を好きであったなら尚更に。


どうして二人は一緒に居る事が出来なかったのだろう。
どうして父は死んでしまったのだろう。

あと、どのくらい。
永遠に刻を生きる、この孤独な男は、父の事を想い続けるのだろう。


髪の色以外にも、もっと似ている所があればよかっただろうか。
それとも、何ひとつとして似る所などなければよかったのか。

無力な子供の自分は。
一体、ビクトールに何をしてあげる事が出来るだろう。





父の事は顔すら憶えていない。
けれど。
二人が肩を並べる姿が目に浮かぶ。


今更、どうする事も出来なくて。
ただ、ただ、哀しい。

止め処なく溢れる涙を、どうしても止める事が出来なかった。










******

「うわぁあああああーーーーっ!」
「ほら、もう泣くなって。もうあいつの姿だって見えないじゃないか。」
「うえっ…ひっ…ひっ…」
「大丈夫だって。また、その内会いに来てくれるからさ。」
「くるん?びくとぉ、また、くる?」
「はは、お前もほんとにビクトールの事が、好きなんだなぁ。」
「しゅき。びくとぉ、しゅき!」
「うん。父さんもさ、ビクトールの事が好きなんだ。」
「とーたん、びくとぉ、しゅき!しゅきーっ!」
「…ほんとは、ずっと側にいたかったんだけど、出来ないって思ったんだ。」
「できんの??」
「だからな、父さんが死んだら、変わりにお前がビクトールの側に居てやってくれるか?それで、出来たらお前の子も、そのまた子も、そうしてくれると嬉しいんだけどな。」
「はーい!」
「そーか…」
「そー!」
「…ほんと身勝手な父親だよな、俺…」
「う?」
「…っ…ごめん。ごめんな…ビクトール…」
「ごめん?とーたん、ごめんいよん?」
「うん…」
「どしたん?とーたん、どしたん?」
「ごめっ…何でもな…」
「どっかいたいん?」
「−−−っ」



それは過ぎ去りし遠い日の序章。

*****


                                              了。 2002.07.15






一度は(いえ、ほんとは2度でも3度でも…)やってみたい死にネタでした。
果てしなく暗くて救いようのないお話ですみません。
でもこーゆー悲恋もの(?)好きなんです。誰かを、ずっと想い続けるお話ってのが。
置き去りにされたフリックが熊を追い掛けなかったのは、その意を汲んだからって事で。
でもやはし、私的にはいつまでも熊と一緒に居てて欲しいのですが…(T.T)

ちなみにタイトルはGLAYの歌です。

ネット落ち明けに、某Kさんんトコの掲示板に衝撃を受けました(笑)
そこにあった皆様の記事と、Kさんのすばらしーお話に触発されたのです〜!
ほんとは、そのKさんに。うちのヤマト気に入って貰ったお礼も兼ねて、お話を差し上げたいところなんですが、こんな暗い話なんで、ひっそりこっそりここで呟いときます。
もし宜しければ(てか、読んでくれてるかどーかは謎)、お持ち帰り下さいまし。Kさん。

↑とか言ってたら、K(海保)さん、貰って下さいました!
しかもサイトに置いても下さいました!!
嬉しさのあまりこちらからも相互リンクを(笑)
大いなる刺激を受けた海保さんのお話はこちらから〜!


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