矢傷の痕


薄暗い部屋で、仄白く浮かび上がった肌に引き攣れた醜い傷痕がある。
舌を這わすと、その体が小さく嫌がるようにして跳ねた。
それを押さえ込み、更に舐める。
退かそうと伸びてくる腕さえも封じ込め、丹念に執拗にそこを責めた。
強張った体から徐々に力が抜け。
押し殺した声が堪え切れないで洩れる。
暫くすると、それに泣きの色が入って来た。
「もっ…、そこ、いい加減やめろよ…っ」
もうどうにも耐えられない、という最高に色っぽい顔をしてフリックが抗議の声を上げた。
「んー?だってお前ココ、好きだろ?」
「あっ…!」
言って、軽く歯を立て噛んでやると、フリックは仰け反って小さく震えた。
「あっ…あっ…」
「な?いいんだろ?」
ますますその角度と太さを増すそれを確かめるように握って、言ってやった。
その刺激に反応して、緩く腰を揺らしたフリックが余計に泣きそうな顔になる。
「…っ!だ、だからって、そこばっかやってんじゃねーよっ!」
口調だけは相変わらず威勢のいいままだ。
でも、そんな顔で言ったって、逆効果だと思うぞ。
「そうか、こっちも触って欲しかったのかーすまんなあ。」
「ばっ…あ…ああ…」
握ったものを軽く扱き出すと、フリックの吐息に甘い声が入り混じり始める。
先から滲む汁で滑りがよくなり、卑猥な音さえ出る。
素直に喘ぐフリックに気を良くして。
また、一度目に映る傷に舌を這わせた。
「っ、またそこっ!」
身を捩ったフリックから怒った声がする。
けれど扱く動きを速くして、空いた手で奥を探って入り口に指を忍ばせると、もうフリックから抗議の言葉は出なくなった。
出なくなった、というよりは出せなくなった、が正しいようだが。
「…この傷、好きなんだよなあ。」
やっぱり傷を舐めながら思わず呟いた。
「な…んだって?」
何と言ったのか、それともそれに対する驚きをなのかは解らないままにフリックが問い掛ける。
「いっ…!」
強く強く強く吸って離れると、今度は手にしたものへと口を近付けた。
「この傷が、好きだ、っつったんだよ」
「〜〜〜っ!」
答えて、すぐ、脈打ち滾ったそれを根元まで飲み込む。
そして舌を使いながら絞り尽くすようにして上下する。
「ああ!あ!ああ!」
フリックの足がガクガクと震える。
声は小さく途切れながらもひっきりなしに聞こえる。
まだ、大きく育つそれをしゃぶりながら、やはり手は傷痕をなぞっている。



この傷が好きだ。
この傷があるからこそ、今、こうしてフリックといるのだ。

この傷があったからこそ、自分はフリックを手に入れる事が出来たのだ。

この傷を負ったせいで意識を失くしたフリックを抱えて、仲間の元から姿を消した。
この傷を癒すために医者に罹り自分が世話をする事になった。

この傷がもしなかったとしたら、きっとフリックはここにはいない。
自分の足で、自分の意志で、仲間の元へ。
もしくは自分とは違うどこかへと行ってしまっていただろう。

だからこの傷が好きだ。
生死を彷徨ったフリックには悪いと思うが、この傷に感謝さえしてる。



「イ、く…っ!」
きつく吸い上げた時、口の中のものが震えた。
そして触れる傷もろとも何度か震えてフリックが果てる。
詰めた息をゆっくり吐いて力を抜き横たわったその顔は、恍惚として紅潮して艶めかしい。
湧き上がる欲に従って、投げ出された脚を抱え上げた。
「ん…んんっ」
ここから入れるそこを舌で湿らすと感じ入った音が耳に甘く絡みつく。
焦れながら、けれど出来るだけゆっくり丹念に解していき頃合を見計らう。
指を入れても何の抵抗もなくなって来るのを感じて、そろそろと身を起こした。
自身を貫くそこに宛がうと、視界の端をあの傷が掠めていく。
「ん…は、あ…あっ、あっ…」
腰を擦り付け根元まで沈めると、背にフリックの手が回された。
「ああっ!」
もうすっかり憶え込んだフリックのイイところを突き上げると嬌声が上がる。
悦んでいる、と思うと自身もまた悦びが湧き上がった。

突き上げながら、手を這わせ傷痕を探る。
見付けると何度も何度もそのざらつく感触を辿った。



この矢傷の痕ように。
自分という存在が、酷く、深く、フリックの身と心に刻みつけばいいのに。

そう、願いながら。





グレッグミンスターでフリックが怪我してなかったらこの二人が一緒にいる確立はぐんと下がると思う。
でも、そうでなかったとしてもフリックが熊の隣を選んでくれたのなら本当に嬉しいのになあ
2005.05.13